暗子の誘い
おれはいつものように購買でパンを買ったところだった。比渡に頼まれたパンはスペシャルベリーパンとウルトラハムカツサンドだ。
ちなみにおれの昼飯は妹に作ってもらった弁当がある、なのでパンは買っていない。
「よ! 日野!」
と、おれみたいな陰キャに話しかけてきたのは暗子だった。影乃暗子、彼女はおれの中学の同級生だ、って、前にも紹介したような気がする。
「おう、暗子」
中学の同級生なので馴れ馴れしく挨拶をしてみたはいいが、そのあとの会話なんて考えていない。
なにこのヒト、影薄いおれによく話しかけてくるな。もしかしておれのことバレてる? 比渡の犬になって鬼狩りしていることバレてたりするの? もしかしてお前がドッグズの一員で、比渡のいのち狙ってたりする? だったらどうする? おれと戦うか? 柔道で全国取ったお前でも今のおれは負けないよ? 倒しちゃうよ?
「日野っていつもパン買ってるよね。あ、でも今日は二つだ」
おれのことよく見てるな。やっぱりドッグズの関係者か? 比渡と一緒にいるところ見られていたりするのか? 青春の盗撮は犯罪だぞ。
「で、おれになんか用か?」
「用、ていうか、何というか」
なんだよ。おれはお前との青春に付き合ってる暇はないぞ。おれの青春ラブコメの定員はひとりまでだ。この物語がハーレムラブコメだったら定員は無制限だけど、ハーレムは現実的じゃないんだ、特におれみたいな陰キャゴミクズにはな。
「用が無いならおれは失礼させてもらう」
「あ、ちょっと」
と、おれは袖を掴まれた。
なにこいつ、おれが陰キャで友達いないからってからかってるのか? いや、おれは陰キャだし友達いないけど……。あ、つまりこいつは友達いないおれが可哀想だからって話しかけてきたのか。はははは、心配するな暗子、おれには友達なんて必要ないぞ。
「なんだ? なんか話でもあるのか?」
「いや、最近日野って比渡さんと一緒にいるところ多いなって思ってさ」
やはり比渡といるところを見られているか。こいつ怪しいな。カマかけてみるか。
「まさか、おれが比渡ヒトリと一緒にいるなんてあり得ないだろ」
「え、でも前に校門で待ち合わせしてたじゃん。結構噂になってるよ」
噂になってるの? おれみたいな影薄キモメンゴミクズが? おれも人気者になったものだな。
「噂ってどんな?」
「付き合ってるんじゃないかって噂」
マジか。そんな青春砲がおれの知らないうちに鳴り響いていたのか。うむ、そのまま噂を広げてくれても構わないぞ。あ、でも比渡に知られたら「この駄犬、捨て犬にするわよ」とか言われそうだからやめて。
「それこそあり得ないだろ。てかそんな浮ついた話に興味もねぇよ」
「そうなの? 日野って彼女いないの?」
そんな質問簡単にしないでほしいものだね。
「え、いない、けど……」
「けど?」
けど、飼い主はいます! なんて言えるはずがない。
「まあ、おれに彼女なんて出来たら大変だわな」
「そんなことないと思うけど……」
なるほど、これが青春的な会話か。さすが青春エネルギーフルスパークな女だけはあるな。尊敬するぞ暗子よ。
「てか、昼休み終わっちまうからおれ行くわ」
「あ、日野」
「うん? なに?」
「今度の日曜さ……一緒に――」
一緒に、その先は言わなくても分かるぞ。「一緒にご飯食べに行かない?」だろ? 昔その誘いを受けて三千円飛んでいったんだ。絶対に騙されないぞこの悪女め!
「――犬見に行かない?」
「犬?」
「そう、わんわんパークのチケット当たったんだけどさ、友達もわたしの家族も用があって行けないしさ、もしよかったら一緒に行かない?」
まじ? 滅茶苦茶行きたいんですけど。わんわんパークってあのわんわんパークだよな? 犬好きの天国的な場所だよな? 行きたい!
「いろいろな犬種が集まるんだって、日野は犬とか大丈夫? ダメだったら断ってもいいよ」
「予定空けとくわ」
「え! 来てくれるの!」
当たり前だろ、おれは犬大好き人間なんだから行くに決まっている。それに犬ってのを勉強しなくちゃならないからな。
「絶対に行く」
おれが言うと、暗子は満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ今度の日曜、というか日野、連絡先交換しよ!」
「おう、いいぞ」
と、暗子と無事に連絡先を交換できた。これでおれのスマホに入っている女性の連絡先は母親と妹と比渡と暗子の四人だ。
「じゃ、連絡するから」
「おう」
おれの返事を聞いた暗子は教室へ戻っていった。
ああ、日曜日が楽しみだな。
と、おれは急いで比渡のいる屋上へ向かった。
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