比渡の誘い

「日野君、土曜日と日曜日は空けておいてね。土曜と日曜はそこらじゅうで鬼が発生する危険な曜日なの」


「え……」


 比渡ヒトリに言われたおれは絶望しそうだった。なぜなら日曜日はわんわんパークに行く予定があるからだ。土日も休みなしって比渡ヒトリは鬼なのか? 鬼よりも鬼らしいじゃねぇか。


「分かったら返事」


「比渡、日曜は少し用事があるんだ」


「どんな用事? 鬼退治よりも大事なの?」


 そりゃあおれにとっては大事な用事だ。いろいろなわんわんと触れ合う数少ないチャンスだ。絶対に日曜のわんわんパークだけは潰されるわけにはいかない。


「おれはその日――わんわんパークに行くんだ」


 おれは正直に言った。犬好きなら分かるだろ、これが最初で最後かもしれないんだ。世界中のいろいろな犬と触れ合える機会なんて普通ないぞ。


「ひとりで?」


「いいや」


「じゃあ誰と?」


 なぜ尋問するんだ比渡ヒトリよ。もしかして嫉妬しているのか? おれが比渡以外の誰かとわんわんパークに行くのが不服なのか?


「中学の同級生とだ。まあ、友達かな」


「あなたに友達なんていないでしょ」


 失礼だな。おれにだって友達のひとりやふたりいたことあるぞ。一人目の友達はタケシ君だ、二人目の友達はトモキ君だ。ふたりともおれの家に来てお菓子を食ってレアカードを盗んで帰っていったことは憶えている。え? それって友達なのかって? うむ、今思えば考えものだな。


「二組の影乃暗子と行くんだ」


「ほら、友達じゃないじゃない」


 うん、たしかに友達ではないな。でも連絡先交換したから友達でいいんじゃない? 連絡先交換する仲って結構だと思うんだけど。


「まあどうでもいいけど、日曜はダメだ」


「そう、ならよかったわ」


「何がよかったんだ?」


「わたしも日曜日にわんわんパークに行く予定だったから」


「え? 鬼退治はどうするんだよ」


「土日祝日は鬼が発生しそうな場所に行くのが基本よ。青春エネルギーはそういう施設に溜まりやすいの」


 そっか、よかった。じゃあおれはわんわんとわんわんできるわけだな。おれの日曜日は救われたわけだ。よっしゃ! 全力で楽しむぞ。


「でも、わたしも一緒に行動するわ」


「え……」


「嫌なの? わたしのわんこ君」


 嫌ではない。むしろ比渡ヒトリとふたりでわんわんパークを回りたかったまである。暗子も可愛いと言えば可愛いけれど、おれのことをからかってきそうだから少し苦手だ。


「まあ、いいぞ」


「そう。そういえばあなた妹いたわよね?」


「ああ、いるけど」


「丁度チケットが一枚余ったから妹でも連れてきなさい」


 え、いいのか? おれの妹に比渡ヒトリを紹介するぞ。未来の義妹を紹介するとか、もうおれたちゴールインする仲ってことだよな? もう将来を誓い合った仲ってことだよな?


「ああ、分かった。妹の予定が空いていたらな。まぁ空いているだろうけど」


「あなたとわたしとあなたの妹と暗子さん、この四人で行動しましょう」


 そっか、これが青春か。リア充とは違う、これは学生の青春の一ページを埋める重要なページなのだろう。うむ、わんわんたちよ、待っていてくれ。

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