犬因子とは?
鬼は殺す。
それが比渡ヒトリの言葉だった。その言葉には何の感情も宿っていなかった。
「陽助! そっちに逃げたわよ!」
おう、任せろ。比渡の命令には逆らえないワン!
おれは鬼の前に立ちはだかった。
「ひぇー、お助けぇ。なんでもしますからお命だけは!」
鬼はおれなんかに命乞いをし始めた。この鬼、なんかちょっと前のおれに似てるな。性格とか、体格とか……まあ、発生したばかりの低級の鬼ってこんなもんなのか。
鬼にも個性があり、体格も違えば性格も違うらしい。
と、親近感湧いているおれをよそに比渡は鬼の左胸を突き刺した。
核のある部分だ。これで鬼は死ぬ。
「今日はこのぐらいにしておきましょう」
え、鬼狩りにも休みってあるんだな。てっきり夜更けまで付き合わされるのかと思った。いや、別に夜更けまで付き合ってもいいんだけどね、比渡とときめきたいし。
「そういえば訊いてなかったんだけど」
「なに?」
「おれのカラダってどうなってんの? あんなデカい鬼を殴り飛ばせるしさ、なんか身体能力も上がってるっぽいし」
おれのカラダに起こった謎の現象は何なのか。なかなか疲れないし、高い所から落ちても傷ひとつ付かないし……でも調子こいて動きすぎるとカラダ痛くなるし、何なんだろ。
<それはわたしが説明しましょう>
と、ベアトリクスが音声を出力させた。
<日野陽助、あなたは犬因子を支配下に置いているのです>
そんなこと急に言われてもぼくちゃんよく分らないでちゅ。知恵熱がでちゃうでちゅ。わんわんはぼくちゃんだけで十分でちゅ。
「犬因子?」
<つまり、鬼と戦うための力をあなたは与えられたのです>
うわぁ、分かりやす。つまり犬因子がカラダに宿っていないと鬼と戦えないわけだな。つまりそれって鬼と戦うためには犬因子が無いとダメだっていうことですね!
おれのような馬鹿でも理解できる内容だ。
「比渡も犬因子を持っているのか?」
「ええ。でも、わたしはあなたみたいな超人型ではないわ」
超人型? 犬因子にも型があるのか。
「じゃあ比渡は何型なんだ?」
「わたしは攻撃型と大器晩成型」
なるほど、難しい。と、おれは疑問の眼差しを首輪に向けようと努力した。見えない見えない、自分の首元ってどうやって見るの?
<鬼と戦うためには犬因子が必要です。その犬因子をさらに細分化するとアルファ階級因子、ベータ階級因子、オメガ階級因子と、別れています>
えぇ、難しい話嫌いなんだけど。わんわんの説明嫌い。嫌い嫌い大嫌い!
<アルファ階級因子を攻撃の型=攻撃力か防御力か、すなわち攻撃型か防御型かの違いです。ベータ階級因子を身体強化型か武器強化型かの違い、すなわち犬因子のコントロール。オメガ階級因子を早熟型と平均型と大器晩成型、すなわち犬因子の成長速度>
「へー、そうなんだぁ」(全然頭に入ってこない)
<まあ、ドッグズの連中と一戦交えればベータ階級因子がどういうものなのか分かりますよ>
そんなわけ分からん状態でドッグズと戦うことになったらおれ死んじゃうよ? いいの死んで? おれは青春するまで死にたくありません!
てかドッグズと戦うの? 争いは争いしか生まないと思うんだよなぁ。ほら、おれって平和主義者じゃん? 平和が一番……やっぱり二番、一番は青春だ。そう、おれは青春主義者になるぞ! 青春王におれはなる!
「つまりすべての階級因子を持つおれは超人型なわけか?」
<その通り、すべての階級因子と適合した者は超人型になります。まぁ犬因子の成長で型が変わったりもしますが、最初からすべての因子と適合する者は希少なんですよ>
へーおれって希少なんだ。こんなキモくて陰キャでオタクなおれが希少か……世の中にはもっと希少な人間いると思うんだけどなぁ。
<まぁ、わたしの犬因子を取り込んだから陽助は全ての因子と適合したのでしょう>
えぇ、そうなの。おれの特別感返して。
「犬因子は犬の死体からのみ取り出せるの。生前のベアトリクスは超人型……と言うより超犬型だった、と言えばいいのかしら」
超犬型か、なんか犬の中の犬って感じで良いな。
<まとめると――日野陽助、あなたは鬼と戦う力を手に入れたのです>
ふむふむ、難しい話を抜きにすると分かりやすいな。
「普通の暮らしには戻れないわよ」
戻れないなら、普通の暮らしを手に入れてやる。おれの青春ラブコメは鬼なんかに邪魔されてたまるか。
「仕方ねぇさ、最終的にはおれが選んだことだ」
「そう……それでこそわたしのわんこ君よ」
鬼には負けねぇ! そんでもっておれの青春ラブコメは守り抜く。
と、この時のおれは、まだ夢があると思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます