復讐

 おれ、日野陽助は比渡ヒトリの犬になった。犬になるまでは良かったのだが、ひょんなことから鬼狩りをする羽目になった。


 おれの望んでいた非日常はこんなものではなかったのだが、こうなってはどうしようもない。


 そして昼休み、おれはいつも通り比渡ヒトリと屋上にいた。


 もちろんおれは四つん這いの態勢になっている。ワンワン! (頭なでなでしてください。お願いしますご主人様)ハァハァ!(興奮しているわけではない、ただの息遣いだ)


「鬼は基本午後四時頃から行動を開始するわ」


「どうしてそんな時間帯に……」


「学生が部活動を開始する時間だからよ。その時間帯が青春エネルギーが一番動く時間なのよ」


 おれは比渡から鬼という天災のことを説明されていた。


「鬼に弱点とか無いのか……」


「脛――弁慶の泣き所よ」


「へぇ、天災の鬼にも痛いところってあるのか」


「でも脛では鬼を殺せない、鬼を消滅させるには首を刎ねるか、左胸の核を破壊するか。それが鬼を殺す方法」


 まあ、一筋縄ではいかないよな。弱点を攻撃させるほど相手はバカじゃないだろうし。


「鬼って昔からいるんだよな、どうにかしてこのセカイから完全に消せないのか?」


 天災だから消すのは無理なのか? 無理だよなぁ、自然災害ってのは人間の予想を超えて発生するものだしなぁ。消せる方法があったらもうとっくの昔に消えているよな。


「消せるわ」


 え、消せるの? 鬼って天災なんだろ? どうやって消せるんだ? てか先代の方々ちゃんと鬼のいないセカイにしといてくれよ。


「でも現実的じゃないわね」


「どうして?」


「自然発生する鬼は、人間の悪意や憎悪の感情が集まって鬼になるの。ストレスのかかる環境で火種は生れる。受験やテストや人間関係、学生って言うのは青春だけじゃなくそういうストレスのかかる環境にいるでしょ」


 そうなのか? おれボッチだしテストなんて赤点とってもどうでもいいし受験なんてそんな深く考えてなかったぞ。ストレスフリーだぞ。


「それに、造化鬼神と呼ばれる鬼の祖がいる限りセカイは鬼の手のひらの上よ」


 セカイって、いつからおれの青春ラブコメはセカイ系の話になったんだ? おれの選択でセカイは動く! いいや違うか。


 というかラブコメしたい! おれはラブラブコメコメしたい! ラブラブでチョメチョメなことしたい! 鬼なんてどうでもいいから、青春ラブコメだけの生活をしたい!


「なんか難しい話だな」


「その難しい話を理解してもらわなきゃ困るわ」


「まあ大体わかったけど、おれたちが鬼狩りをする目的ってなんだよ」


 おれも鬼狩りを手伝わされるわけだし、目的はしっかりとしていた方がいいと思う。


「わたしの目的は鬼への復讐だけよ」


 復讐ねぇ。復讐って理由だけじゃ猿も雉も犬もお供について来ねぇぞ。動物って言ってもおれの場合は食い物に釣られない人間だからな。


「そうか」


 おれの目的はおれの青春ラブコメを守ることだ。そのついでに全世界の少年少女の青春を守る。うむ、これこそおれの目的。セカイ系の主人公にしちゃあなかなかの目的を持っていると思うぜ。


 なあ比渡ヒトリよ、おれの目的とは何なのか遠慮なく訊いてくれ。


「あなたの目的は……知らなくてもいいわ」


 えぇ、おれ比渡に嫌われてるの? おれなんかした?


「じゃ、放課後ここで待ってるから」


 手を振ってくる比渡におれは手をあげて返す。


 やっぱりおれたち付き合ってるよな? いいのか? 鬼狩りしなくちゃいけないおれが青春していいのか? 比渡とおれの青春はラブラブコメコメなのか?


 と、おれは曇り空を眺めた。雨が降りそうだ。

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