第二十話 決別(ジャンプ)
近づいて行っただけで俺の気配に気が付きニヤリと笑う。どんだけ感度のいいセンサー内蔵しているんだよ、ジャンプ。
相変わらず鋭い目つきだが、あれ、こんな優しい顔してたっけ? 俺が見慣れたのか、それとも角が取れて丸くなったからか。きっと両方だろうな。
「尻尾盗りしようか」
「いいぜ」
いつものように距離を置いて睨み合う。体を低くして四肢に力を込める。
「初めて勝負した時もこうして睨み合ったね」
「どうした、思い出話か」
「うん」
しばらくそのままだったが、俺が一気に右手に廻ろうとするとジャンプが前足を踏ん張ったのがわかる。俺はその左足を強くはたいた。ジャンプがバランスを崩してフラッとなった瞬間、そのまま右側に回り込んで尻尾にタッチした。
「うっ、なんだ今のは!」
「足払い。さっ、もう一番」
さっきの位置に戻り、また睨み合う。ジャンプは慎重に俺の出方を探っている。俺はまた右手に向かってダッシュした。さっきのイメージが残っているせいか、ジャンプが前足を軽く浮かした。その瞬間、俺は目線はそのまま残して体を急停止し、今度は逆サイドに回り込んで尻尾にタッチ。
「おぃ、今度はなんだ!」
「フェイントだよ」
「まったくお前は次から次へと。相変わらず面白いヤツだ」
「へへへ」
「そんな技、俺に教えていいのか」
「ジャンプだから見せたのさ。それに置き土産だ」
言葉の意味を察したのか、何も言わず隣に来たので、並んでうつ伏せになる。
「行くのか?」
「うん、今夜旅立つ」
以前、一緒に鍛錬をしてほしいとお願いした時に、俺が遠くへ行きたいということは伝えてあったからね。ジャンプは困ったような顔になり、しばらく無言の時間が過ぎる。
(なんとか言ってくれよ)
「こんな時、なんて言えばいいんだ?」
「え?」
「ウメは、ウメはなんて言ってた? お前たちが離れる時に」
『生まれてきたその命を、全うするまで強く楽しく生きろ』
「そうか。俺もそう思うぞ」
(なんかズルくないか)
「今までありがとう、父さん」
(初めてだけど、意外に素直に『父さん』と呼べた)
「バカ、礼を言うのは俺の方だ。ミー助」
「どうして?」
「退屈じゃなくなったからな。お前が来てから面白いことばかりだ」
最初に会った時の印象では、寡黙で孤高の一匹猫みたいな感じだったが、本当は何かを求めていたのかもしれない。
「命を削り合うような喧嘩も悪くないが、お前の言う
「うんうん、チョコは隣町で尻尾盗りが一番なんだって」
「聞いた。それに今じゃいろんな猫が俺のところに来るようになった」
意外だな。ジャンプのところへは限られた猫しか来ない。いや、近寄り難くて来れないと思っていた。きっとチョコの影響なんだろうな。みんな競い合うように強くなりたいと思っている。強い者に、素直に教えを乞う猫が増えたんだね。
「さすがに特訓はしてやらないが、少しは教えたりしてる」
「師範代だね、すごいよ」
「こんな俺に、そんなヤツらが笑いながら礼を言って帰っていくんだぜ」
「よかったじゃないか」
「以前の俺じゃ考えられない。そう、よかったんだな。お前のおかげだ」
「アンドレを潰した後、お前が大法螺を吹いたと思ったが」
(あぁ、そんなこともあったね)
「本当にその通りになった。大したヤツだ」
「そんなに褒めていいの?」
「俺の息子だからな」
そう言って笑うジャンプの顔は、嬉しそうで、でも少し寂しそうだった。
「チョコとテツのこともよろしく頼むね」
「安心しろ。それと、ミー助」
「なに?」
「負けるんじゃないぞ、誰にも...自分自身にもだ! 俺の息子なんだからな」
ありがとう、父さん。俺は絶対に負けない。
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