第4話 魔女の目隠しマッサージ


「良いから、椅子に座ったままじっとして。準備はすぐに終わるから」


「ゆっくり目を閉じて……そう、良い子ね。じゃあ、目の上から私の手で覆わせてもらうわね」


 貴方は魔女に手で目を塞がれ、視界は真っ暗になってしまう。


「大丈夫、傷つけるような真似はしないわ。ちょっと魔法で視界を遮って……私に身を委ねてもらうだけだから……」


 //SE ホワンホワンと頭の中に響く音が聞こえてくる。どうやら魔法を掛けられたらしい。


「……どう? 魔法が掛かる瞬間って、なんだか不思議な感じがするでしょう?」


「これじゃ何も見えない? うふふっ、そうよ。しっかり目隠しさせてもらったもの」


「見えなくなっても、私のことは分かるんでしょう? だったらこの状態で私を感じてみて?」


 貴方の周りを魔女は移動しながら話し掛けてきます。しかし完全に視界は塞がれているので、その姿はまったく見えなかった。


「こうするとね、他の感覚がいつもよりも敏感になるのよ。そう言われてもよく分からない? うーん、じゃあ試してみましょうか」


「ふぅ~……私の吐息はどう? 耳があったかい? それともくすぐったいかな?」


「魔女にイタズラされる気分はどう? お次は……そう、ただの耳掃除よ♪」


「私ね、誰かに耳を触られるとくすぐったくって仕方ないの」


「貴方はどうなのかしらね~? こうやって、こしょこしょされると……」


 //SE 右側の耳を優しく掃除される。


「……ほらっ! あはっ、くすぐったいでしょう? 良い顔ねぇ、すっごく面白いわ」


「今度は反対側もやってあげる♪」


「……どうしたの? さっきみたいに変な声をあげて。んふふっ、気持ち良いって? よかった。はい、こっちの耳も綺麗になったわ」


「じゃあ~、次はそうねぇ。こういうのはどうかしらぁ?」


「貴方がお土産に持ってきてくれた、キャンディーを貰うわね。あ、私の好きなレモンの味がある……好みを覚えていてくれたの? ふふ、ありがとう」


 //SE 飴の包装を破る音が聞こえ、彼女が口に含んだのが分かった。そしてなぜか、右耳の近くに魔女の気配を感じた。


「ちゅっ、ちゅぱっ……貴方のキャンディー、とっても美味しい。甘くて、ちょっと酸っぱいところが好きなの。まるで貴方みたいな味」


「ねぇ、嚙んでもいい? 今すぐに食べちゃいたいの……ふふっ、言い方が妖しいって? どんな想像しちゃったの?」


「はい、貴方にも食べさせてあげるから口を開けて頂戴。あーん……ちゃんと舌の上に乗せてあげる。ふふ、貴方の口の中ってあったかい……」


「なになに? もごもご言っていたら分からな~い」


「えへへ、ごめんごめん。ついやり過ぎちゃった。……私の指が汚れる? 別に平気よ~、貴方ならどれだけ汚してくれても……いいよ?」


 耳元で囁くように言われ、そちらに集中していたところに、首筋がゾワゾワとした感触に襲われた。


「さわさわ~っ。ふふっ、可愛い。背筋をビクビクって反らしちゃって。首筋を触っただけよぉ? 駄目よ、逃げちゃ。まだまだ始まったばっかりなのに……うふふっ」


「悪~い魔女に捕まって、イタズラされちゃうなんて可哀想に。普通の男の子なら、こんな女は嫌いになっちゃうわよね?」


「でも貴方は違うのよね? そんなサイテーな魔女のことが、誰よりもだぁい好きなんだもの」


「……ううん、嬉しいのよ? 貴方が私を求めてくれるんだもん。嬉しいに決まっているじゃない」


 不意に、頬へ何かが当たる感触を覚えた。


「……ちゅっ。ん~? 頬に当たったのは何かって……なんだろうねぇ~?」


「貴方いま、ドキドキしてる。心臓の音が聞こえてくる……うん、私もだよ?」


「あれれ? 緊張でちょっと体が強張っちゃったんじゃない?」


「じゃあ、今度は肩のマッサージをしてあげようかしら」


「いいのよ、私って結構チカラが強いんだから。多少凝っていたって平気よ」


「うっ、やだ。なにこれぇ。つんつん……すっごい固いじゃない。指が全然入っていかないんだけど……もう、どれだけ疲れを溜め込んでるのよ。ちょっと待ってて。魔女特製のマッサージオイルを塗ってあげるから」


 //SE パチン(指を鳴らす音)

 //SE ドロン(効果音と共に、瓶入りのオイルが魔女の手に現れる)


「え? 大丈夫よ、別に変な成分は入っていないわ。ただ慣れるまでは……ちょっとだけくすぐったいかも?」


「オイルで汚れちゃうから、まずは服を脱がせていくわね。あぁ、自分で脱がなくて大丈夫よ。今は私が全部やってあげるから、椅子に座ったままでいて」


「それじゃ後ろから失礼してジャケットを……んしょ、んしょ。次はシャツ……の前にネクタイね。んー、ほどくのが難しいわねコレ。……へぇ、こうやって結んであるんだ。いつかは私が結んであげられるように勉強しなきゃだわ」


「よし、ネクタイはほどけたわ。今度はシャツのボタンを外していくわね~。……男の人の鎖骨ってちょっとエロいわね」


「え、顔が近い? んふふ、頬っぺたがくっついちゃったわね。ヒゲがジョリジョリしてる……可愛かったキミもすっかり大人だねぇ。うぅん、今のキミの方が魅力的よ?」


「こうやって背中から抱き寄せられると、なんだか安心するでしょう?」


「何か柔らかいモノが首筋に当たってる気がする? うふふ、何かしらね~」


「よし、じゃあオイルを塗っていくわ」


 //SE キュッキュッ……ポン♪(瓶のガラス栓が抜ける音)


「オイルは冷たいから、まずは私の人肌で温めてあげるね。こうやって、手で溜めて……くちゅくちゅって手にまとわせてからぁ……うん、もう大丈夫かな」


「ふふっ、じゃあ始めるわね。……うん、そうそう。でも力は抜いて? 緊張しちゃうと余計に疲れが溜まっちゃうから」


 //SE ペタペタ、ペタペタと魔女の手が貴方の肩に触れる。オイルを満遍なく塗ってくれているようだ。


「ん~っ、やっぱり男の人の肩って大きいのね。頼りがいがあるって言うか、なんだかお父さんみたい……」


「……あっ、ごめんなさい! 別に変な意味じゃないのよ?」


「ほ、ほらぁ。魔女って親が居ないもんだから、先輩の魔女たちに育てられるのよ。だからもしお父さんが居たら、こんな感じだったのかなぁって」


「そうねぇ、お父さんという存在に憧れていた時代もあったわ。でも魔女は人間には見えないし、そんなの実現するわけがなくって……」


「でも今は貴方がいる。だからちょっとぐらいなら、甘えても良いのかなぁ……なんて」


「だからこうして、一緒に居るときぐらいは……さ? うん」


「……え? 普段はお姉さんぶってるのに、本当は甘えん坊さんだって? うぅ、バレちゃった……」


「いいじゃない。貴方にしかこんなこと言わないんだから」


「もう、あんまり意地悪を言うと、思いっきり強く揉んじゃうんだから! ……え、力加減が丁度良くて気持ちいい? マッサージが上手だねって……え、えへへ~。そうでしょうそうでしょう……って違ぁう!?」


「まったく、貴方は本当に調子が良いんだから……はい、背中は終わったから次は前よ? こっち向いて?」


「え? 前はさすがにって、駄目よ。首回りの凝りって、胸の方から来てることがあるんだから。血行促進作用のあるオイルで、しっかりとほぐしてあげるわ」


「じゃあ失礼して……。おおっ、胸も筋肉がしっかりしてる……うわぁ……(吐息)」


「えっ、それ以上は無理って……ちょっ!? 駄目よ、その状態で立ち上がっちゃ……きゃあっ!?」


 //SE ガシャンッ!(テーブルから何かの瓶が落ちて割れる音)


「い、たたたた……何か割れた音が……あっ。コレってもしかして、私が開発中の若返り薬じゃ……ふにゃぁあ……!?」

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