第三章 遠征実習編

第73話 


 私、エマ・トリエテスには特筆した才能がない。

 お父様から受け継いだ策謀の知恵こそあれど、

 その策ですらリドという男一人が存在すれば、

 どんな強大な壁だろうと無意味になることを知った。


 私の目にはリドの背中が大きく見えている。

 それと同時に、依存している。

 だからこの気持ちの正体がまだわからない。

 

 彼の小柄ながらも大きな背中に守られている限りは、

 何があっても大丈夫なのだと。

 だがもし彼が、彼一人では太刀打ちできない敵と遭遇した場合、彼は私を頼るだろうか?


 ――否、彼は何も言ってくれないだろう。

 ただ黙って、ただ一人で、強大な敵に向かっていく。

 それは私に力が無いから。

 彼の助力になれるほどの能力が無いから。

 

 悔しい。才能の差を羨む自分が厭らしくて情けない。

 

 だから、私は強くなりたい。

 

 彼の背中を見上げるのではなく、

 彼の横顔を見続けていられるように。

 

 これは、私が彼の隣に立つまでの物語……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る