第49話


「おいリド! もうすぐ開会式だ! モーリスはまだか!?」

 

「オレが聞きてぇよ……」

 

 騎士団戦の開会式がもうすぐ始まるということもあり、アミリット王国の騎士たちは一様に馬を降り、リド達の目の前にずらっと並んでいた。

 

 今回の騎士団戦は名目上、両国の友好を示すお祭りとして開かれることもあって、戦いの様子は投影魔法とやらで主要都市に映像を送るらしい。

 投影魔法という方法を用いて、一般にも公開されるそうで、アミリット王国の騎士達は如何にも精鋭という雰囲気でリド達を睨みつけていた。

 

 開会式は観客の前で行う為、草原から移動したリド達は、沢山の屋台と活気が占領する通路をアミリット王国騎士団の騎士たちと凱旋のように進軍して開会式会場を歩いていく。

 

 と言っても、シルビエの後ろに並んでいる鎧を着こんだ屈強なアミリット王国騎士団30名に対して、アリシアの後ろに並ぶのは、制服姿のリドを入れて四人。


 学生達の姿を見るや観客は大声で激励を飛ばしてくる。

 

「頑張れよ兄ちゃん達!」

 

「勇士は見てるからな!」

 

「治癒魔導士団がきてるらしいから怪我したらすぐに行くんだぞ!」

 

 先ほどからものすごい笑顔で観客からそんなことを言われる。

 

 負けて当然、どこまで足掻くのか見ものだ。という視線と言葉を浴びせかけられる。

 

 アリシアはそれを激励と思ったのか、笑顔で手を振っている。

 

 後ろに並ぶエマは羞恥心からか、憤怒からか顔が真っ赤だ。

 

 ジェシカは身長が小さい分、アミリット王国の騎士団の圧力を上からモロに受けて、顔を青くしていた。

 

 ココは相変わらずの無表情だが、いつも背負っているマスケット銃を持っていないようで、少しだけそわそわとしている。

 

 そして、アリシアの後ろを歩くリドは、きょろきょろと緊張感の欠片も無い様子で屋台を見ていた。

 

「おいエマ、終わったらアレ買ってくれ。肉」

 

 後ろで顔の赤いエマに、屋台を指を刺す。

 屋台のブタ肉に目を奪われ、匂いで満たしたばかりの腹が鳴った。

 

「……おまえは状況を分かっているのか?」

 

「なんだよ、買ってくれねぇのか?」

 

「そうではない! モーリスも居なく、ココの銃も無いのだぞ!? 終わった後に我らの意識があると思うか!?」

 

「……なんだよ。心配性だな。もういい、期待したオレが馬鹿だったよ」

 

 そう口にして、リドは少し歩く速度を上げる。

 ママにダメだと言われたのならパパに頼もう、という様な考えで前を歩きながら周囲に笑顔で手を振るアリシアに近づいていく。


 リドはその華奢な肩を叩いて、アリシアを振り向かせた。

 少しだけびっくりしたような態度を見せたが、相手がリドということもあり、花のような笑顔を向けてくる。

 

「なぁアリシア。あそこにある肉を終わったら買ってくれよ」

 

「「「なっ!?」」」

 

 もの凄く気安く皇帝に話しかけるオレに、話を聞いていたアミリット王国騎士団所属騎士達はギョッとする。

 

「あら、どれですか?」

 

「あそこのヤツ。ブタ肉」

 

 ブタを丸焼きにしている屋台を指す。

 

「えぇ、構いませんよ。お腹がすいたのですか?」

 

「いや、今は普通だ。朝飯はベティーに沢山食わされたからな。でも終わった後は腹減るし」

 

「なるほど、えぇわかりました。約束します」

 

「よっしゃああ!!」

 

 そして、それを咎めるどころか微笑みながら楽しそうに相手をするアリシアにまた目を見開く。

 

 ……一人を省いて。

 

 シルビアの後ろ二番目を歩いているフルフェイス型のヘルムに二本の角が生えている騎士は顔こそ見えないが、合流してからずっとリドの横顔をガン見していた。

 

 顔はヘルムで隠れているが、異様な雰囲気は隠せていない。

 

 そして、リドとアリシアの会話を聞いた途端、

 

「……チッ」

 

 ボカンッ!

 土煙を足元から上げながら、地面に大きな穴を脚力だけで穿つ。

 

「「「ギャアアアアッ!!」」」

 

 背後に並んで、どや顔を浮かべながら観客に手を振っていた屈強な騎士たち3人が、突然の落とし穴に足を掬わてドミノ倒しに倒れ込んだ。

 

「…………」

 

 先ほどから視線を向けてくるその騎士に軽く視線を飛ばすリド。

 

 ビクッ!

 

 視線を向けられた騎士は、リドの視線に気が付いた途端、焦ったように視線を反対に向けた。

 

(……鎧の胸甲板の胸の部分が膨らんでいる。肩甲も幅が狭い。女か……? にしても、この気配、威圧感、殺気……相当やるな……)

 

 視線を逸らしてモジモジとしている女騎士を、リドは冷静に分析する。

 モーリスよりは確実に強者で、殺し合いなら苦戦するだろう、と。

 

(この女……スペックだけならロベールより上かもしれねぇな……)

 

 そんなことを考え、強者を前に冷徹な笑みを浮かべる。

 

「……ッ!?」

 

 醸し出す、息がつまるほどの殺気を感じ取ったのか、その女は再度視線をリドに向け、凝視する。

 

「……まち……が……い……ない……

 

 何かを呟いていたが、周囲の喧騒と、プレートのせいで、その声はしっかり聞こえなかった。

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