第48話
リドとモーリスとの戦いがあった日の夜。
ランタンの灯らない暗い夜道で、立派な身なりをした男は路地の壁に背を預け、ある人物を待っていた。
かれこれ小一時間ほど、この道で張り込んでいる理由は、待ち人との連絡手段がない為だった。
出所していたことは知っているが、それ以降の消息を実家も友人も知らなかったのだ。
目撃証言を集め、そのポイントをマークしていき、大体ここの道をいつも通るのだろうという予想をして張り込んでいた。
今日はハズレに終わったか……と思った頃、路地の向こうから足音が聞こえてくる。
あまりに希薄な気配ではあるが、足を踏み出す時の癖は昔のままだと思い、その男は口元に笑みを浮かべた。
「やあ、久しぶりだね」
「……えっ? なぜあなたがここに!?」
目の前を通りがかろうとする黒コートに声をかける。
フードを被っていたことで、知り合いだと気が付かなかったのだろう。
声をかけられた側は驚愕に目を見開いて待ちぼうけを喰らっていた男を見ていた。
「色々話したいことは尽きないけど、今はそんなことよりも君にある仕事を頼みたいんだ」
「……それ、なんかデジャヴです。昔も似たような感じでそう言われて、つい最近までずっと見張りしてたんですよ?」
肩を竦めて苦笑いを浮かべる男。
少しだけやつれたように見えるまだ若いその男は、困ったように頬を掻いていた。
まるで目的を見失って、彷徨っている亡霊のような印象を受ける。
「僕が予想するに、今回もその見張りの子の件だ。ちょっと面倒な事態になってね。どうしても人手が必要なんだ」
「……面倒?」
何があったのか目線で聞く。
「うん。今回の件で帝国関係者は大きく動けない。けれど、君は今は騎士団にも政府にも所属していない。君の剣の腕は僕が良く知っている……いや、僕達、だね。ロイのやつも君を認めていたくらいだ」
「……ロイさん。ですか……未だに消息は……?」
「ないね」
ロイという名前を口にした二人は、一様に落胆するように肩を竦める。
「まあ、とにかく頼むよ。一週間後、フェーベル草原の会場に来てくれ。報酬はどんなものが良いかな? こういう世界に入ったのならお金かい?」
いやらしそうに胸の前で親指と人差し指の先端で丸を作る。
その様子を見て、男は軽くため息をついた。
「……お金も良いですけど、俺としてはあいつが今どうなっているのか、楽しくやっているのか、知りたいです。血の繋がりこそないが、兄弟みたいなものなんで……」
「ハハッ、分かった。僕にできる事なら、どんなことでも叶えよう。デュセク・ヴィン・コーネリアくん」
「今はコビデ、ですよ。トリエテス参謀」
その言葉に、クリードはギクリと身体を強張らせた。
「ちょっと! 闇組織感出してるのに実名は禁止!」
「もう遅いですよ、参謀……」
コビデはため息交じりで肩を竦めた。
だが、その目は先ほどすれ違った時よりも少しだけ輝いているように見える。
クリードはそんな彼の顔を見て、やはり笑みを浮かべたのだった。
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