第40話


 午後になり、騎士科の生徒は実技訓練が始まった。

 騎士科と教養科は分かれて授業を受けるため、アリシアと別れたオレはグラウンドに来ていた。

 

 エマは実習棟のドームの方に行っている。

 

 オレはCクラス。エマはAクラスなため、受ける科目が違うのだ。

 

「今日、君たちにしてもらうのは鎧斬りだ。国を守るため、戦場に出たときを想像しろ。近接戦で魔法の行使はできない。詠唱している間に斬り殺される。そのため剣で戦わねばならない。鎧斬りは初歩の初歩。今から試しに俺が斬る。それを見ていろ……ハァ!!」

 

 講師は編入試験で走力を担当したバランという男だった。

 筋力が高そうに見えるゴツい風貌で、剣を振りかぶっていた。

 

 バランは剣を上段で構え、自身の技量のみで木に立てかけられた鎧を剣で切り裂く。

 単純な力技ではなさそうな動きだった。

 

「ふぅ……このように出来れば合格だ。これは力技ではなく、技術だ。鎧の弱い部分を見極め、そこに剣を落とす。ある程度コツを掴めば切り裂くことができる」

 

 バランが切り裂いた鎧を見て、周囲のCクラス生徒から「おぉ~!」と歓声が沸く。

 

 まんざらでもなさそうに腰に剣を仕舞うバラン。

 

「――さて、では君たちも始めてくれ」

 

「「はぁーい!」」

 

 生徒達それぞれが鎧に剣を振り落とすが、誰一人として斬れていない。

 そんな光景をオレは何をするでもなく見ていた。

 

「や、やあ、リドくん。昨日ぶり。今日の戦い見たよ。凄いんだねー!」

 

 いつの間にか横にサウロくんが近寄ってきていた。

 立ち尽くしているオレに話しかけてくれたようだ。


 流石にあれだけの騒動になったのだから、サウロくんが知っていてもおかしい話ではないが、少しだけ恥ずかしくなった。

 

「サウロくんだったな? 急で悪いが、Bクラスに上がるにはどうすればいいんだ?」

 

「こ、この鎧を断ち斬って、バラン先生に評価されればBクラスへの推薦をもらえるよ!」

 

「ほーう」

 

「まあ、リドくんの場合、大丈夫だと思うけどねー」

 

「なるほどな」


 まだ剣を振る前だというのに、初春の日差しに当てられたのか、サウロくんは肩で息をしながら汗を流している。

 少しだけふくよかなボディーは代謝が良すぎるようだ。

 オレも食事が趣味になりつつあるので、気をつけた方がいいだろう。


 だが有難いことに昇級する方法はわかった。

 

 腰から剣を抜く。

 真っ白な刀身の輝きでオレの前に立つ鎧に光が当たる。

 

 それどころか、周囲の生徒もその異様な剣の輝きに釘付けになっていた。

 

「綺麗な剣だねー!」

 

 サウロくんも例外じゃなく、その剣の輝きに魅せられている。

 

「母親を名乗る女の形見でな」

 

 まともに剣を構えることもせず、適当に腰から剣を振るう。

 

 シャン……と音が鳴り、剣を腰に収めると同時に鎧は原型を無くしたようにバラバラとなり、崩れ去る。

 

「…………」

 

 こちらに視線を向けていたバランも、この光景を見せられては流石に絶句するしかない。

 真っ二つでも充分であるのに、まさかの細切れだ。

 

「これでいいか?」

 

「す、凄いね! リドくん! やっぱり僕の目は狂ってなかったんだッ!」

 

 サウロくんが両手を上げて自分のことように驚いている中、バランはこちらを見て頷いた。どうやら試験には挑めるらしい。


 剣をしまった所で、10メートルほど先にある木が倒れる。

 

 ゆっくり振ったつもりだったが、剣圧で斬れてしまったのだろう。

 

 周囲は怪物を見たように固まっていた。


 サウロくんに視線を向けると、ズボンがずり下がった状態で呆然としていた。

 どうやら誤ってサウロくんのベルトも切ってしまったようだ。

 本人は気がついていないのでスルーすることにした。

 

「バラン。進級許可をくれ」

 

「……ああ。なら生徒手帳を出してくれるかな?」

 

「ほい」

 

 バランはポケットから判子のようなものを取り出し、クラス表記のページをめくり、ハンコを押す。

 ハンコにも錬金術的な何かが含まれているようで、クラスの欄がBクラスに変わる。

 

「まだ午後が始まってすぐだ。Bクラスの授業を受けに行ってもいいよ。それともここに残るかい?」

 

「……場所は?」

 

「第二運動場だ。このグラウンドから校舎を周るようにして行けばすぐにわかる」

 

「そうか。じゃ、行ってくるわ」

 

「ああ。たまにでいいから、こっちにも遊びに来い」

 

 バランに手を振り、校舎の方に歩き出す。

 何故オレが急にやる気を出したのかというと、理由は昼休みでのシルビア衝撃発言にまで遡る。

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