第39話

 食堂に移動したオレ達はテーブルを囲んで食事を取っていた。

 ここの食堂は国の扶養の一環ということもあり、食費はタダだと言う。

 好き放題頼めるからこそ、それぞれの皿には個性が出ていた。

 

 オレは肉中心。というか肉のみ。

 エマは野菜中心。バランスよく肉も入っている。

 アリシアは先に食事を多少取っていたため、甘いケーキのようなものを器用にフォークとナイフで食べている。

 

「……それで、どうやって倒した? 剣は使わなかったのだろう?」

 

 エマは食事の手を止めてオレの方を見て問いかけてくるが、ガツガツ、と音が鳴りそうな勢いで食事を取っている途中だったオレはリスのように頬を膨らませていた。

 

「ふぁから、ばん。ぼん。ぎゃーんらよ」

 

「なにを言っているか分からん。飲み込んでから喋れ」

 

「ふふっ」

 

 オレのわかりやすい説明にエマは呆れ、アリシアは微笑ましそうに見ている。

 

「んぐっ……だから、あんな木刀じゃ一撃入れただけで折れる。生憎、拳闘はあっちに居た頃から得意だったからな。一人一人倒していっただけだ」

 

「あの大人数を全員か!?」

 

「いや、リィンは別だ。アイツは魔法を使ってきた。あー、えっと……あいす? すぱーく? とか言う氷のやつを」

 

「『アイス・スパイク』だな。中級魔法だぞ。どうやって防いだ?」

 

「火で壁を使って蒸発させた」

 

 もう終わったことはどうでもいいだろうと、オレは食事を再開する。

 皇城の飯も美味かったが、ここの食堂の飯も非常に美味だ。

 これが食べ放題というだけでもこの学園に通う価値はある。

 

「……あの氷塊を……一瞬で……蒸発……?」

 

 信じられない、とエマは同じく絶句しているアリシアと顔を合わせる。

 それをやらかした本人は食事に夢中だが。

 

「到底信じられない……」

 

「――事実よ。あたくしが見たもの」

 

 エマのつぶやきに、突如として見知らぬ女が割り込んでくる。

 白に近い、薄いエメラルドの髪と精緻な人形のような顔立ちが特徴的な少女だ。

 

「誰だよ」

 

 その女に視線を向け、腰に剣を下げてないことから騎士科でないことを確認して問う。

 

「あたくしを……知らない……?」

 

「知るかよ。訳知り顔で入ってきて名乗りもしない。つまりは敵か? 人気者は辛いぜ。飯の後に相手をしてやるよ」

 

 割り込んできた女を無視してテーブルの上の肉に夢中になる。

 

「ふっ……ふふっ……」

 

 女は顔を俯かせてぷるぷると震えている。

 

「おいリド! 態度を改めろ! シルビエ・リリィ・アミット様だぞ! 膝を折り、頭を下げろ!」

 

 とうの昔に膝を折っていたエマがそんな忠告をしてくる。

 何やら相当お偉い方らしい。

 だがその名前を寡聞にして聞いたことがないオレは下げる頭を持ち合わせていない。

 

「しるばにあ・ふぁみりー? なんかウサギの家みたいな名前だな」

 

「シルビエ・リリィ・アミット様だ! 隣国のアミリット王国の第三王女様で、アンリ様のご学友だ。荒波が立つのはまずい。早く頭を下げろ!」

 

「で、そのウサギの国の王女様がオレになんか用か? 見ての通り忙しいんだよ。ちょっかいかけに来たのなら後で相手してやる。もうちょっと待っててくれ」

 

 オレの発言にシルビエはこめかみに青筋を浮かべている。

 今までの人生でこんな扱いをされたことが無いのだろう。

 控えめに言って怒り狂っているように、エメラルドの髪がゆらゆらと揺れていた。

 

「バカモノか貴様は!」

 

 依然変わらず不遜な態度で食事を取るオレの頭を全力で押さえつけ、エマは強引に頭を下げてくる。

 

「おぐっ!」

 

 その拍子に地面に頭を打ち付けうめき声をあげる。

 女の割にエマは筋力が半端ではない。

 レベル差があるにも関わらず、その力には何故か抗えない強さがあった。

 

「……この者の無礼をお許しくださいアミット様。無知なだけで悪気はないのです!」

 

「私からも、申し訳ありませんシルビエさん。リド様の非礼を許してください」

 

 エマとアリシアが、オレの代わりにシルビエに謝罪をしていた。

 本来なら一介の騎士がこのような態度を他国の王女にすれば不敬罪で死罪もありうるらしい。

 

 ことの重要さを全く分かっていないオレはされるがまま、頭の痛みに悶えていた。

 初めて使う魔法の行使で精神力が落ちているため、普段のように痛みを無視することができないのだ。

 

「……まあ、いいでしょう。不敬を許します。ですが、それには条件があります」

 

「あ? 条件? オマエにタメ口聞いただけでなんでおぐっ!!」

 

 言い方にムカついて、再びケンカ腰に話しかけようとしたオレの頭をエマが地面に叩きつける。

 

 膝を折るどころか床に五体投地の格好で押さえつけられている為、ある意味で最も敬意を払っているようにも見えるだろう。

 

「黙っていろバカモノ! ……条件とは、なんでしょう? アミット様」

 

「ええ……率直に言うわ――」

 

 シルビエはそう言って地面に伏せっているオレを指さす。

 

「――リド・エディッサ。あたくしの騎士になりなさい」

 

 その言葉に、エマ、アリシア、オレのみならず、食堂で遠巻きに様子をうかがっていた生徒たちも固まった。

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