第二部 騎士団戦
Chapter1 騎士科入学
第27話
春が来た。
帝都に芽吹いた新しい命達も、太陽を掴もうとしているかのように、日に日に土から顔を出している。
ロベルトとの約束通り、今日オレは学園の正門前にきていた。
編入手続きとやらで教師に顔を見せろとロベルトから指示を受け、非常に面倒だったが、道案内も兼ねてヨルを引き連れた馬車で揺られて2刻と少し。
ここに来るまでヨルに八つ当たりをするように文句をぶちぶちと募らせながらもなんとか到着を果たした。
人生でロイ以外に負けた男に言われたのであれば敗者の意地として従わざるを得ない。
「えらいでかいな……」
馬車から降りてすぐ目の前にあった正門を見上げて、オレは思わずそんな言葉をこぼした。
「でしょう。すごいでしょう。もっと褒めてもいいんですよ」
学園までの付き添いとしてカーラに志願したヨルが隣に立ち、胸を張って「どやさっ」と言っていた。
「オマエはどの立場で言ってんだ」
「学園に通ってる生徒のご実家に仕えてるメイドさん」
「親戚の友達の旦那くらい遠いな」
「じゃ、週末は欠かさず帰ってくること」
「あぁ」
「学園を壊さないこと」
「あぁ」
「アンリ陛下に嫌がらせしないこと。ハンケチーフを持つこと。おトイレはおトイレですること」
「わかったから早く行け」
馬車から身を乗り出し、ハンカチを取り出して振ってるヨルに手を振り返しながら、オレは校門へと足を進める。
「まったく、相変わらず仲がいいな。おまえ達は」
「……エマか」
いまだに「さらばリド、また会おう」とヨルが大声で言っているのが聞こえていたのか、迎えにきたエマとアリシアが校門の中で待っていた。
少しだけ呆れたエマと、「仲が良いことは良いことです」と笑っているアリシア。
甘い花の匂いを伴った春風が二人の髪を揺らしていた。
「今の会話のどこを見て言ってんだ? 今にも出そうになる手を抑えるので必死だったぜ」
「嘘をつけ。口元がニヤけてるぞ」
「おっと危ねぇ、手が出るとこだった。次バカなことを口にしたらタオル突っ込むとこだった」
「やっぱりあの事件はリドが犯人なのではないか?」
メイド3人同時退職の件は皇城で物議を醸した。
全く同じ日にカーラが変態を見たこともあり、城に侵入した何者かの犯行となっているが、犯人は捕まっていない。
被害者達も口を割ることはなかった。
スマートパンティー紳士の正体は謎に満ちているらしい。
もちろんそれはエマの耳にも入っていた。
凶器がタオルや布団などであることは皇城で知られている。
もはやオレ達の間ではネタとなっていた。
「しかしでかい学園だな。遠くに見えるアレが校舎か?」
正門の前には石畳で出来た道があり、その横にはグラウンドのようなモノがあった。
グラウンドの奥に見える人間が豆粒に見えるくらいには広かった。
「リド様、あまり緊張しなくてもいいですよ」
興味深そうにキラキラした目で周りを見渡しているオレを見て、アリシアは上品に笑っていた。
本日はオレの手続きに予定を合わせて、エマとアリシアが校門まで迎えに来ていた。
皇城より馬車に揺られて約2刻の距離にあるルイ・カルメン学園は、全寮制となっている。
週末には城に帰ってくるアリシア達だが、昨日は週の中日ということもあって学園に滞在中だった。
理事長のロベルトが許可を出し、こうして授業中に抜け出して出迎えにきている。
一人だと迷って辿り着けないだろうと、道中の馬車から学園の中まで案内を立たせている。
恐らくロベルトはオレをバカにしているのだろうことだけは理解できた。
グラウンドでは掛け声と同時に剣を振っているのか、生徒達の姿が小さく確認できる。
初春の風が若い声を連れて吹き抜けてきていた。
「……行くか」
皇城に居た時から少しだけワクワクしていた。
尻尾があったらブンブン振っていそうなオレを見て、アリシアとエマは顔を見合わせて笑いあう。
「なにしてんだ、早く案内しろよ」
「ああ。こっちだ」
エマはアリシアともう一度笑い合った後、オレの先を案内するように歩き出す。
オレとアリシアは並んでその後を追った。
校舎へと向かう途中、グラウンド聞こえる声が大きくなっていき、思わず視線を向けた。
「何やってんだ? アレ」
オレの声に弾かれたエマは、意図を察してグラウンドに視線を向ける。
「あぁ、あれはグラウンドでの実技訓練だな。この時間なら2年生だろう。下級生だ」
いかにも興味なさげと言った声音で「ふーん」と言いながらグラウンドを観察する。
正直、素人に毛が生えた程度の練度の連中が棒を振りながら奇妙なダンスをしているようにしか見えない。
「……棒を持たせたザリガニの方がよっぽど強そうだ。よくあんなんで騎士とか名乗ってるな」
騎士というものはロベルトみたいに剣術がすごいものだという認識だった。
だからか強者が見当たらないグラウンドを見て、失望を隠せない。
「あのなリド。ここはまだ騎士見習いが所属するところだ。錬度が低いのは当たり前だぞ」
エマはそんなオレの心中を察したのかため息を吐いて補足する。
「……ここで一番強いのは誰だ?」
学園内でこんな連中と毎日剣を合わせたらこっちまで弱くなる気がする。
せめて一番強い奴と戦いたいと思って発した言葉ではあったが、
「一番強いのは騎士科の学園主席。つまりエマです」
ドヤッとエマの代わりに胸を張るアリシアの言葉を受け、オレは思わず盛大なため息をついた。
こいつ程度でこの学園のトップなんて、行く意味あるのだろうか。
「おい! 何でため息を吐いた!」
エマはご立腹だ。
不服を表現するようにその場で地団駄を踏んでいる。
「……じゃあオマエはロベルトと戦えるのか?」
オレの言葉にエマは「うぐっ」と一歩後退る。
「せめてもっと強い……」
そこまで言いかけたオレの目に見たことのないものが映る。
「なんだ、アレ」
本日二度目の疑問を口にした。
「ん? あれは銃騎士だな。マスケット銃で標的を遠距離から撃ちぬくものだ」
一列に並んだ10人ほどの生徒たちが長い竿を持って肩に押し当てていた。
次の瞬間、何かが破裂するような音が聞こえてきて、置かれた的に穴が開く。
玉のようなものが凄い速度で的に吸い込まれているのをギリギリ目視はできるが、あれが無警戒のオレに向けられた時には何発か貰うことにはなるだろう。
「中々面白そうだな」
「流石のおまえでもアレに撃たれたら死ぬと思うぞ?」
「弱者が強者を倒す唯一の武器ってわけか……」
撃たれるのは勘弁だが。撃ってみたいとは思った。
見たことのない武器を目の当たりにして、少しだけ心が躍る。
そんなオレを横目に見て、少し微笑んだアリシアは先を促すように手を学園へ向けた。
「講師の方がお待ちですので、もうそろそろ職員室に向かいましょう」
気になるところではあるが、この学園に通い出したらいくらでも見る機会はあるだろうと自分を説得してアリシアの後を追った。
アリシアの後をついていき校舎に入ると、ある扉の前に案内された。
規則正しくアリシアがノックをすると、中から事務のような女性が出てくる。
アリシアとエマの姿を見て頭を何度も下げた後、慌てて誰かを呼びに行った。
教室の奥から偉そうなおっさんがノッシノッシと歩きながら現れるが、アリシアの姿を見て一段動きが速くなった。数歩先で立ち止まって頭を垂れる。
おそらくアリシア自身に偉ぶるつもりはないだろうが、この学園が立っている国の王という立場は周囲に頭を下げさせるのだろう。
困ったように笑うアリシアを見上げて、おっさんは気持ちの悪い笑みを浮かべた後、オレの前に来た。
喋る前から生理的な嫌悪を覚える。
「君がロベルト様が推薦した編入希望のリド・エディッサくんかね?」
エマの補足で、このおっさんはここでは理事の次に偉い校長という人らしい。
貴族らしいブロンドのボブカットにちょび髭を生やしている不摂生そうな太めの男だ。
「あぁ、オレがリド・エディッサくんで間違いはないが?」
訝しげな目を向けてくる校長とやらの視線を真正面から受け止めて胸を張る。
こういう時は縮こまった方が舐められる。
オレの全身を舐めるように何度も上から下まで見た校長は軽く鼻を鳴らした。
「……態度は中々だな」
「互いにな」
ぼかすつもりは一切なく、嫌悪感丸出しでオレは答える。
校長もそんなオレの態度を見て苛立ちを隠さないようで、禿げた額に血管を少しだけ浮かせていた。
「まぁいい。説明は受けているだろうが改めて。本日は新年度のクラス分けの為、能力検査がある。3年次への編入生である貴様もそこに参加してもらうことになる」
「あぁ聞いてる。さっさと案内しろ」
「いいか、私はロベルト様と違って貴様を贔屓する気など毛頭ない。真面目に取り組むように」
「毛頭、ね。残り少ないアンタの毛に期待するのも可哀想だ。仕方ねぇ」
「き、きさまぁ」
どうやらハゲが目立ってきている髪の毛をいじるのはやめた方が良さそうだ。
頭まで真っ赤にした校長から逃げるように、オレは職員室を出た。
どうやらこれからエマが所属する騎士科3年次が能力テストを行うようで、授業に戻ったアリシアと別れたオレとエマは更衣室で衣服を着替えた後、グラウンドにきていた。
まず最初は身体の能力検査からのようだった。
「リド。ロベルト様から説明されてわかっているとは思うが……」
「あぁ、わかってんよ。本気出すなってんだろ?」
このルイ・カルメンという学園には各国の令嬢や権力者の血縁が通っている。
そんな事情もあってか、世界でも最強戦力であるロベルトに、能力だけなら自分より上だと言わせるオレの力は、余計な混乱を招かないためにも隠す必要があるらしい。
中間くらいの順位を取ってくれればありがたいと言われているので、オレはほどほどにセーブをして能力を測る予定だった。
「む? 私たちの番が来たな。ではリド、頑張るんだぞ」
どうやら能力検査というのは班ごとに行うそうで、エマとは別の班になった。
何も知らぬ土地のグラウンドで一人、ポツンと残されるオレ。
そんなオレに教員のような人が近づいてくる。
「君がエディッサくんか? 話は聞いている。この班の生徒達と試験を受けてくれ」
「あぁ、わかった」
教員が連れてきた生徒達はパッと見て冴えない同年代の男達だった。
こうして同い年くらいの人間と悪意なく接するのはかなり久しぶりな気がする。
最近ではアリシアやエマ、カーラにヨルと増えた方ではあるが、スラムの中では全くと言って良いほど同年代のやつを見かけなかった。
スラムに生まれた子供は基本的に早くにミスを犯して死ぬか、隠れて生きるかの二択。
オレのように生き残る方が稀だという。
だからか、少しだけ変な気分になる。まるで珍しい動物を大量に見ているかのような非現実感だ。
「よ、よろしく。編入なんて珍しい。がんばろう」
メガネをかけた少し太った生徒が握手をするために手を差し出してくる。
ソレを握りながら、手汗すごいなコイツと思った。
とても運動ができそうにないが、まぁ同年代なんてそんなモノなのだろう。
こう見えて実は学園内でめちゃくちゃ強い方だという可能性もある。油断せずにいこう。
「ではまず、短距離走から。今から君たちには100mの距離を走って記録を取ってもらう」
教員はそう言って、オレとその太った男の子を指名した。
「二人ずつの試験だ。まずはエディッサくんと、サウロくんだ」
サウロというその太った生徒はオレを見て膨らんでいる頬を緩めた。
「よ、よーし、競争だー。がんばるぞー」
オレを見て、そんなことを言ったサウロはスタート地点で足を僅かに開いて腕を胸の前で握る。
なるほど、おそらくこれがこのテストの礼儀のようなモノなのだろう。
オレも全く同じポーズをとってサウロの横に並んだ。
「……? 位置について、よーい、どんっ!」
オレの様子を見て若干首を傾げていた教員がそんな合図をした。
どんっ!のタイミングでサウロは勢いよく……いや、かなりゆっくり飛び出した。
オレもその背をゆっくり追っていく。
おそらく、このアリと同じくらいに思える速度がこの学園での普通なのだろう。
確かに考えてみれば、エマもこれくらいの速度に……いや流石にこれよりは早かったが、それでもアイツがトップならこれが普通であってもおかしくはない。
横で走っているサウロは手足を振り乱しながら、ぜーぜーと肩で息をして汗を流して走っている。
今にも目を回して倒れそうなほど、顔は必死だった。
ふむ、なるほど。多分これが礼儀のようなモノなのかも知れない。
スラムで育ったオレは、外の世界では世間知らずと言っても過言ではない。
本での知識しか持っていないので、こういう細かなルールというのは知らないのだ。
とりあえず、真似しとくか。
正直とんでもなくブサイクな顔のように思えるが、郷にいれば郷に従えというモノだ。
オレも変顔を晒しながらサウロの後を追った。
先に計測を終わらせていたのか、エマはオレのブサイクなダンスを信じられないモノを見ているとばかりに目を見開いて観察していた。
「何をやってるんだ? おまえは……」
そんなことを漏らしていたように思えるが、気のせいだと思うことにした。
何故なら、もう取り返しは付かないからだ。
「ふむ、リド・エディッサ……走力はC、と」
ゴールに立っていた教官がそう言って紙に何かを書いていたが、【C】の意味がわからないオレは、ひたすらサウロの真似をすることに努めた。
次は剣術の試験らしく、藁が並んだ場所に移動すると、またしてもオレの前はサウロとなった。
「え、エディッサくん。さっきはあれだったけど、僕剣術には自信あるんだ。がんばるから見ててね」
「あぁ、しっかり見させてもらう」
汗を盛大に垂らしながら親指を立ててキメ顔を浮かべるサウロに、オレもまた倣って親指を立てた。
「や、やぁっ!」
剣を上段に振りかぶり、藁目掛けて振り下ろすサウロ。
控えめに見てかなり遅い剣速だが、藁の半分くらいまで剣が食い込んだ。
少しだけ誇らしげな顔をしてオレの方に戻ってくる。
「きょ、今日はこんなもんだね。エディッサくんもがんばってね」
「あ、あぁ。頑張るぜ」
親指を立てた拳を突き出してきたので、オレもソレに答える。
そして次はオレの番だ。
「リド・エディッサくん。本気でやりなさい」
「……ん? あぁ、もちろんだ」
手渡された真剣を握って、オレは剣を構える。
普通に振えば藁なんて斬れると思うが、おそらくオレの普通と世間の普通では意味合いが全く異なってくることは理解ができる。
だから、サウロよりも少しだけ遅い剣速で藁へと近づけていく。
多分だがオレはやっとこのルールを理解した。
これは藁を可能な限り斬り落とさないという試験だ。
藁が目の前にあるから一刀両断してしまいがちだが、落とさなければいいという前提を忘れてはいけない。
サウロは剣術が得意と語っていたこともあり、半ばまで食い込ませて剣を落としていた。
藁に少しでも触れさせて、剣から手を離す試験だと容易に想像ができる。
「ハァ!」
オレは如何にも真剣だという顔を浮かべながらゆっくり振り下ろした剣振り下ろす。
藁に一瞬付けて、藁の2、3本を斬ってから剣を落とした。
肩で息をしながら、剣を地面に落とす。
膝に手を置いて息をぜーぜーと吐き出す。
いかにも真面目という雰囲気を作る。
「真面目にやりなさい!」
「あ? 至って真面目だが?」
何故か怒っている教員だが、オレはこれほどまでに精神を集中させたことなどない。
ゆっくり近づけた剣を、手元の感覚だけで数本切り、離すのだ。
ここまで難しいことはないだろう。
「……まぁいい。リド・エディッサ。剣術C」
またしても【C】を獲得した。
おそらくCOOLみたいな意味のCだろう。
我ながら手加減したとはいえ、全く隠しきれない才能とは末恐ろしいもんだ。
そんなオレを遠くにいたエマはまたもや唖然として観察していたようで、後から怒りの鉄拳を喰らった。
体操着から着替えたオレは、今は学園の教室の中にいる。
アリシア達は別の場所で勉強しているようで、ここには騎士科の人間しかいないようだった。
エマが隣に座っており、先ほどまでのオレの奇行を咎めてきていた。
「なんだあの変な踊りとへなちょこの剣は。何がしたいんだお前は」
「手加減しろって言ったのはロベルトだろ。オレは今人生で一番集中して試験を受けてるつもりだ」
「……はぁ。もういい、好きにしろ」
呆れたように頭を抑えるエマを見て、何がダメだったのか考えるが、全く思いつかなかった。
次は学力測定を行うようだ。
その場にいる全員に紙のような物を配った後、教員は「はじめっ!」と口にした。
スラム時代は文字が書けなかったオレだが、読むことはできた。
皇城での生活の間にヨルから文字の書き方を教わったことで、テストを記入することは出来る。
元々読むことはできたので書き方を覚えるのに然程苦労することはなかったのだが、異様に教えたがるヨルのせいで、少しばかり文字を綺麗に書けるレベルにはなっている。
文字の上手さは点数には含まれないので、ここは真剣に書こうと決めた。
テストの問題を見ると、非常に簡単そうだった。
常識問題などは少なく、数学やエルセレム帝国や他国の歴史などが描かれている。
以前、ロベルトが持ってきた学校の教材に書かれていた内容は全て暗記している。
カーラの本を読み尽くしてしまい、次の本を買ってくるまでの繋ぎで読んだ物だが、これまた中々興味深かった。
元々本は好きだった為、読むのも覚えるのも苦労はしなかった。
そのままテストをスラスラと解いていく。
まだ机に向かっている騎士科の生徒達が頭を悩ませている中、オレは全ての記入が終わって周りを見る。
横にいるエマは真剣な様子で、時々ペンを止めながらも書いていた。少なくとも悩んでいる様子はない為、良い点を取れるだろう。
下の席にいるサウロを見れば、まだ記入中ではあるが半分くらいが空白になっていた。
オレの中のベストオブ平凡が彼なのもあり、それに倣うことにする。
オレの能力を隠せとロベルトは言っていたが、この調子であれば半分くらい正解すれば多分大丈夫だろう。
回答を半分消して、空いたところになりたい職業を記入していく。
例えば、
【エルセレム帝国建国時、広大な土地を整地する為、尽力した人々の8割を占めた職業を答えよ】
回答 パン屋の店員。
【魔族との世界大戦が始まったおり、人々の先陣を切って戦った5人の英雄のうち、3人の適性職業を答えよ】
回答 ぶどう農家。肉屋。飲食店のバイト。
【創造神ソルが海を渡る為、使った魔法はなんという名前か答えよ】
回答 ペットショップ。
全て埋めて満足したオレは、そのままテストを返却する。
同じく提出したエマは、「どうだった?」と聞いてくるが、オレはドヤ顔で親指を立ててエマに拳を突き出した。
首を捻りながら「う、うむ?」と言いながら拳を合わせるエマを見て、清々しい気持ちになる。
多分、これは相当良いところをつけたのではないだろうか。
ベストオブ普通のサウロの一個下とかにつければ上々だ。
ちなみに学力テストの成績はCだった。
……
…………
………………
理事長室でロベルトは椅子に腰掛けてリドの成績が上がってくるのを待っていた。
おそらくリドが手加減をしても満点くらいにはなるだろうと思っていたが、もしかしたら自分の言うことを真面目に聞いて、少しばかり下の成績を取る可能性もあると考えてはいた。
まぁその時は逆に褒めてやろうと思っていたが、親心というのもあるのかもしれないが、かなりソワソワしている。
結果が気になって仕方ないと言った様子で紅茶を飲んでいた。
そんな時、理事長室の扉がノックされた。
ノックの主人に「入りなさい」と声をかけ、試験を行なった教員を招く。
「失礼致します。今期全学年の能力検査が終わりましたので、資料をお持ちしました」
「ご苦労様。編入生はどうだった?」
ロベルトのその言葉に、教員が軽く顔を引き攣らせる。
ふむ、どうやら上手くいったようだと考えたロベルトだが、テストも一緒に添付されている成績表を渡されて目を見開いた。
【走力 C】
担当者評価 戦場では死にます。
【剣術 C】
担当者評価 改善の余地ありません。
【学力 C】
採点者評価 殺意を覚えました。
「……なるほどな」
テストを見て、ロベルトは顔を顰める。
テストをバカにしたような回答ばかりだった。
その割に字はとても綺麗に描かれている。
「これは、逆にすごいと思わないか?」
「えぇ、ここまでなのは初めてです」
「なら、クラス分けはわかるな?」
「はい。文句なしにCクラスです」
「……だよな」
ロベルトはその日初めて頭を抱えた。
余計なことを言わなければリドはこんな成績を取らなかっただろう。
少しばかり後悔して、次には「ま、いっか」と空を見上げた。
夕焼けが眩しくロベルトを照らしていた。
この学園は一応教員が認めた場合に限り、クラスの昇進を認めている。
最下位からのスタートではあるが、恐らくリドが化けの皮を剥がすであろうことは理解できた。
今頃試験が終わってHRに参加しているであろうリドを思って、ロベルトは椅子に深く腰を下ろす。
この後はリド達がここに来ることになっているので、最初の一言を考えるのに必死な様子だった。
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