第24話


 ヨルの部屋を漁るだけで、ある程度の証拠は十分に集まった。

 後は犯人を特定するだけだ。

 あそこまで派手にやっていれば、洗濯物に跡がついていてもおかしくはない。

 

 以前ヨルから、洗濯についての話を聞いたことがある。

 

 オレが衣類を脱ぎ捨てたままの状態でヨルに渡した時に、「ぷんかぷんか」とボイスパーカッションのようにビートを刻みながら説教してきたのだ。

 

 基本的に皇城に住むものは、洗濯物を出す時にネームプレートを衣類か籠に付けて部屋の中に固めて、分かりやすい場所に置いておくのがルールらしい。

 

 日中にメイドが回収して洗濯し、夕方には洗濯の終わったものが部屋の前に置いてあるそうだ。

 

 騎士や官僚の洗濯だけでも大変なのに、メイドまで同じ時間に一緒にやっていては保たないらしく、自分たちの服は夜中に入浴を終えた段階で備品室に置いているという。

 

 朝出勤時にメイド達で洗濯を行い、皇城の屋上ら辺にある物干し場で干すという。

 

 私のパンツを盗むのならその時だ。と意味のわからないことを言っていたが、まさかここで役立つとは。

 

 この時間ならあるだろうと、オレは浴室近くにある備品室に入った。


 血液の跡がついているメイドの服を探す。

 2人までは特定が終わり、後一つを探していた。

 

「これは……違うな。トマトソースだ」

 

 メイドの仕事はかなりハードだ。

 人がいない部署の補佐もメイドの仕事の一つに入っている。その為、厨房の手伝いなどに入ることもあり、服はかなり汚れるようだ。

 

「こんなところを誰かに見られたら、オレは変態の汚名を背負うことになるな」

 

 早くしなければ。

 

 メイドというだけでも人数は多い。

 何十人というメイド服をムラなく探していた時、肌触りのいい布地の感触を覚えて、思わず手に取っていた。

 ネームタグには『カーラ・レイン』と書かれていた。

 メイド長であり、読書友達でもあるカーラだ。

 

「ふむ」

 

 なんとなく手に取って伸ばしたりして観察する。

 今まで触ったことのないほど軽い素材で出来ており、伸縮自在だ。最上級の布地で出来ている素晴らしい下着だ。

 

 流石、メイド長という地位だけあって、パンツの素材までも最高級とは。ここまでくると笑みと溢れるというものだ。

 

 パンツを眺めながら思わず笑みを溢した所で我に帰ったオレは頭を振った。

 

 いかんいかん。これではマジの変態だ。

 

 慌てて戻そうとした時、ふとドアの隙間に人の気配を感じた。

 まさかこんな時間に人が来るはずがないと油断していたオレは、カーラのパンツを手にゆっくりと振り返る。

 

「……」「……」

 

 扉から覗くようにしてカーラの姿が視界に入った。

 互いに無言で見つめ合う。

 ランタンを持ってはいるが、いつものメガネをつけていない。

 恐らくオレの顔までははっきり見えていないだろうと推測する。

 目を細めてオレの方を見て、パンツを片手にメイド服を漁る男の影を確認したカーラは、

 

「へ、へ、へんたっ」

 

「――あっぶね!」

 

 カーラの口を抑えて床に押し倒す。

 二回目の床ドンだった。

 衝撃でランタンを落としたカーラは、張り詰めた表情でモゴモゴと何かを口にしている。

 

 ここで顔バレするわけにはいかない。

 

 流石にアリシアの客人という立場のオレでも、メイドの服を物色していたとバレたら打首くらいの刑にはなるだろう。

 

 メガネを取り出そうとしているのか、カーラはポケットを漁り出す。

 

 どうやって顔バレを防ごうと考えた時、カーラのパンツをいまだに握りしめていたことに気がつく。

 

「しかたねぇ!」

 

 メガネをつける寸前にカーラのパンツをかぶる。石鹸のいい香りがした。

 

「え、あ、え? それ、私の、ショーツ……はぅ」

 

 メガネをかけて飛び込んできたのは、自分を押し倒しながら自分のパンツを被った変態の姿。

 その度重なるショックな出来事で、カーラは意識を手放したようだ。

 

「……まぁ、よしとするか」

 

 パンツを外してカーラを準備室に引き摺り込む。

 頭を打たないように慎重になりながらカーラを寝かせた後、何故カーラがここに来たのかを考える。

 

 答えはすぐに出た。

 

 カーラは誰かの衣類を持っていた。

 恐らく、メイドの洗濯の管理はカーラの仕事なのだろう。

 皇帝や国の中枢の人間と接する際、メイドが自分の洗濯をサボって汚れた衣類のまま奉仕するなど許されないことだ。

 

 その為、洗濯を忘れていた者の残りを回収して回っていたのだろう。

 

 カーラを失神させたのはオレの責任でもある。

 片付けるくらいはしておこうと思い、メイド服を手に取った時だった。

 

「……ん? これは血か?」

 

 ボタンが外れており、スカート部分に血のようなものが付着しているのを見つける。

 

「ふーん、コイツだったのか」

 

 ネームタグを見て納得する。

 

 いつも食堂の入り口で挨拶をしてくるメイド達だが、いつも声を出さずに軽く頭だけ下げる少女が居た。

 

 さして意識していたわけではないが、ヨルと喋るオレを警戒していたのだろう。


 黒色の髪の毛の女はモニカ・トスカーニ。

 血を多く浴びた女はレダ・ロンバルディ。

 ボタンが取れた女はミレーナ・モモ。


 これでヨルへのいじめ実行犯3人の特定が終わった。

 カーラには悪いが、メイド3人には少しばかり痛い目を見てもらう。

 

 オレはフッと笑って首を回した。戦闘準備は整った。

 

 そのまま出て行こうとしたが、いまだにオレの左手がカーラのパンツを握っていることに気がついた。

 失神しているカーラの腕を胸の前で組み、そのままカーラの手にパンツ握らせる。

 

 廊下に気配がないことを確認してからメイド宿舎のある4Fに向かった。

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