第18話

 謁見の間での戦いが終わり、勝者であるロベルトが退出した後、アリシアはリドに駆け寄っていく。


「リド様!」


 その目元には涙を浮かべながら、何度も転びそうにしながらも駆け寄るその姿を見て、リドはバツが悪そうにそっぽを向いた。

 

「……なんだよ」

 

 リドの目は酷く落ち込んでいた。

 真っ向からの勝負に敗北したことで、酷く精神が荒れている。


「負けたオレを笑いにでもきたか?」

 

「笑う? なにを笑うことがありますか。一度ならず二度までも、わたくしを救ってくれたリド様にお礼を言いにきただけです」

 

「いらねぇよ、そんなもん。別にオマエを助けたわけじゃねぇ。たまたまぶん投げた剣がシャンデリアに当たっただけだ」


「だとしても、ありがとうございます。そして申し訳ありません。私の力が足らないばかりに皆を説得できず、この様な危険な目に遭わせてしまいました」


 心から謝罪をし、頭を下げる皇帝の姿を見て、騎士達は戸惑った様な目を向けていた。

 皇帝が退出するまでは帰れない配下たちは、そんな二人の様子を見て、ザワザワしている。


「……別に、アリシアのせいじゃねえよ。スラム育ちなんざ、認められなくて当然だっての」


「――そうだね。その通りだ」


 悲しげに顔を歪めながら何かを言おうとしたアリシアだったが、唐突に会話に割り込んできた男の声で口を噤む。

 

 そちらに視線をつけると、元老院の人間が着るコートを羽織った若い男がエマの剣を持ちながら立っていた。

 青髪が特徴的で、唯一、玉座に座るアリシアの傍らに立っていた男だった。

 

 リドが訝しげな目で誰だ? と問おうとしたが、先にエマが声を上げる。

 

「父上!」

 

 どうやらエマの父親の様だった。

 貴族だというのは知っていたが、まさか皇帝の横に控える立場だとまでは知らなかった。

 

 エマの言葉に父親は片手を上げて優しげに微笑むことで答えて、リドの横に膝をついた。

 

「旧市街地で育った下民が側近騎士シュバリエになるなんてのは、この長い帝国史の中でも例がない。認められなくて当然だよ」

 

 クリードは微笑みとは裏腹に、尖った言葉をリドにぶつけた。

 自然と苛立つことはなく、スッとその言葉はリドの心に抜けていく。

 

「だろうな……」

 

 反発するまでもなく、当たり前の様に頷いたリド。

 そんな彼の様子を見てエマとアリシアは意外そうに、けれど悲しげに落ち込んでいた。

 

 リドなら、あのロベルトに勝って実力を認めさせるだけの力があると思い込んでいた。

 少なくとも、その小さくも大きな背中には、それだけに価値があると思っていたのだ。

 言葉が粗暴だろうと、過去がどんなものであろうと、きっと皆が認めるほどの人物だと思っていた。

 

 いや、今も思っている。

 

 だからこそ、心が締め付けられるほど、クリードの言葉は本人以上に痛く感じた。

 

「あ、いや違うよ? 別に君を責めてるわけじゃないんだ。むしろ逆だよ」

 

 空気が沈んだことを察したクリードは、途端に態度を変えて手をひらひらと振った。

 

「あのロベルト相手に後一歩まで追い詰めるなんて、やるね、キミ! アンリ様とエマから誘拐事件の報告を受けた時は椅子から転げ落ちるくらい肝が冷えたけど、流石はリド・エディッサくんだ。血は争えないねぇ」

 

「あ? どういう意味だ」

 

「その口調はアイシャそっくりだし、やってることはロイそっくりって意味だよ」

 

「……?」

 

 アイシャ? そっくり?

 意味がわからないが、とりあえずリドは自分の体の限界が近づいていることを察した。

 今すぐベッドに横になりたい気分になった為、エマの頭を軽く叩いて起き上がらせる様に合図する。

 

「まさか、こんな運命があるとはね……」

 

 そんな二人と、心配そうにするアリシアを見て、クリードは愉快げに口元を緩める。


「あぁ、リドくん後一つだけいいかい?」

 

 玉座の間から足を引き摺りながらも去ろうとするリドの背中に、クリードは声をかけた。

 

「なんだよ?」

 

 振り返ったリドに、初めて真剣な表情を作ったクリードは、その場に足を揃えて綺麗に頭を下げた。

 

「これは一人の男として言いたい。僕の大切な娘のエマと、実娘と変わらないアンリ様。僕の宝物を助けてくれてありがとう。エルセレム帝国皇帝相談役兼、帝国軍参謀クリード・トリエテスは君を歓迎するよ」

 

「……成り行きだ。礼を言われることじゃない」

 

「あぁ、そう言うと思ったよ。本当に生き写しだな、君は」

 

 クリードは今までの貼り付けていた笑みとは違って、本当に心から笑っていたように感じた。

 居心地が悪そうにしているリドは、エマに肩を借りながら玉座の間を後にして用意されている自室へと向かった。



 エマに身体を支えられながら自室に戻ってきていたリドは、抵抗するのも面倒だとばかりにベッドに寝転がった。

 折れたあばら骨が酷く痛む。

 だがそのくらいの怪我なら今までの人生で何十回とやってきた。

 だからさして慌てた様子もなく、ベッドに横になって大きく息を吐き出すだけにとどめた。

 

 外はもう夕焼けとなっており、リドが寝転ぶベッドにはオレンジ色の光が差し込んでいる。


 今日は珍しく雪が降っていない為、夕陽が眩しく感じた。

 部屋の中は日の差している場所以外はすでに薄暗くなっており、エマによって開け放たれた窓からは未だ冷たい微風が入り込んでいた。


 ある程度換気が終わった後、暖炉の前に移動して火を入れたエマはベッド脇に戻ってリドの顔を覗き込む。

 

「リド、身体は大丈夫か?」

 

「骨が2、3本逝っただけで身体の方は、問題ない」

 

「普通、骨が折れるのは重傷なのだが……」

 

 エマはリドの顔色を伺いながら口にする。

 

「ロベルト様は強かったな」

 

「あぁ、強かった。すっげぇ強かった。あのおっさんが居れば、この国が戦争に負けることはねぇだろ」

 

 リドは素直にロベルトを認める。敗者としてせめてもの礼儀だ。

 出会ってから初めて落ち込んでいる姿を見て、エマは少し言葉に詰まりながらも努めて明るい声で話し出す。

 

「それにしてもリドはすごいな。あのロベルト様と互角に渡り合ったのだから」

 

「結果負けたんじゃ意味ねぇよ……」

 

 リドは悔しそうに顔を歪めた。

 実はリドがここまで感情を表に出すのは珍しい。

 戦いのとき、表情というものは相手の力量を測る上で重要だからだ。

 

 恐怖、警戒、絶望、そして傲慢。

 全てが顔に出る。

 

 訓練しないとその癖は直せない。

 

「リド、お前はどうしてそこまで強くなれたんだ?」

 

 エマは純粋に疑問だと言う様にリドの顔を見ながら問うた。

 今までその質問をスラムの人間にされたことが何度かあった。

 死の間際、何故負けたのか理解できないような弱者からも何度か聞かれた。

 

 まだロイがリドに王国流剣術の指導をしていた時期なら強くなった理由くらいは話せたが、今の剣術はそれらを含めた我流に変わっていた。

 敵の攻撃を見て、扱いやすいと思った動きをひたすら取り入れ続けた今のリドの戦闘スタイルを他に使える者はいない。

 

 ロイが姿を消した後、リドはただ敵を殺すためだけに剣と体術を磨き続けた。

 それを続けられたのは生きていく為でもあったが、リドの唯一と言える欠陥が要因でもあった。

 

「オレは、制御のリミッターが外れてるんだ」

 

 そう言いながら、エマの剣を腰から抜き取る。

 

「おまえ、また……」

 

「――いいから見てろ」

 

 エマの言葉を遮って剣を握る。 

 そのまま勢いよく、自分の指に剣を突き立てた。


「おいっ! 何をしている? 頭でも打ったのか!? 痛くないのか?」

 

 エマは急にそんな奇行を始めたリドに動揺をあらわにした。

 どうすればいいのか分からず、ただオロオロとしている。

 

「痛いに決まってんだろ。だが――」

 

 リドはそこからさらにぐっと力を入れ、指の中腹近くまで剣を突き刺す。

 

「普通の人間なら、突き刺しただけで痛みが酷く抜きたくなる。だがな、オレはそこから先に剣を進めることができる。何なら指を貫通させることだってできるんだ。とっくに頭のリミッターなんてなくなってんだよ」

 

 リドは達観にも似た目をして、哀愁を漂わせながらエマに顔を向ける。

 日々戦闘を行い続け、自分や人の命の軽さを理解した。

 あまりにもあっけなく無くなる命を、失いたくないと思うが故に脳のストッパーがなくなった。

 スラムで育った人間は必ず何処かが壊れるのだ。

 

「もうやめてくれ」

 

 リドの手から剣を回収したエマは、傷ついた指を口に入れる。

 

「わたひはひゆまもうがふあへないふぁらな……」

 

『私は治癒魔法が使えないからな』と口に指が入っているため指を噛まないように気をつけながらエマはふにゃふにゃと喋った。

 

「……だからって咥える必要なくないか?」

 

「ひんがはいっはらはいへんら」

 

『菌が入ったら大変だ』とふにゃふにゃ喋るエマをリドは半ば飽きれながら見ていた。

 

「……好きにしろ」

 

「ふああ」

 

(まぁ、気持ちは悪くない)

 

 好きにさせておくか……となされるがまま指をエマの口に預けていたその時、部屋の扉が開いた。

 

「――リド様、失礼いたします」

 

「邪魔するぞぉ~」

 

 アリシアとロベルトが入ってきたのだ。

 

「っ!?」

 

 エマはビクッとして思わずリドの指を噛んで口を離す。

 

「いって! オマエ歯立てんなよ!!」

 

「す、すまない! 大丈夫か!?」

 

 エマはリドの言葉にも動揺する。

 

「「…………」」

 

 アリシアとロベルトはこっちを見ている。

 

 ロベルトは「若いな」と笑っているが、アリシアの目からはハイライトが消え失せていた。

 

「……邪魔をした。日が沈んでしばらくしたら、また来る」

 

 ロベルトは流石大人、紳士的な対応で部屋を出ようとする。

 

「――誤解です!!」

 

 そんな背中にエマの絶叫が降り注いだ。


 



「――なるほど、そんなことがあったのですね」

 

 ジトーっとした目を浮かべているアリシアに、なんとか誤解だと説明したリドとエマはベッドに座らされていた。

 

 ベッドの前でアリシアは仁王立ちしている。

 ロベルトは我関せずと言った様子でソファーに座って紅茶を飲んでいた。

 

 何でオレまで、とリドは思ったが、元凶は自分かと思い、黙って従っていた。

 

「傷をしたところを見せてもらえますか?」

 

 アリシアが手を差し出してきたのでリドは素直に指を出す。

 

「『この者に慈悲を』」

 

 アリシアがそう唱えると傷がみるみるうちに治った。

 

「……なあ、前のエマのビリビリも、今のアリシアの治療もどんな理屈なんだ?」

 

「「「…………」」」

 

 首を傾げながらリドが発した言葉にアリシア、エマ、ロベルトは固まった。

 

「なんだよ?」

 

 リドは空気がおかしいな、と感じた。

 

「……魔法を使っていなかったのか?」

 

 エマが恐る恐るリドのほうを見る。

 

「まほう? なんだそれ。オレには使えねぇぞ」

 

 リドはエマを見返して首をかしげる。

 スラム育ちのリドは魔法の存在は御伽噺くらいにしか知らない。


 一部の貴族が使用するというが、見たこともないそんなものを信じるだけの頭はなかった。


 以前エマが使用した雷の魔法のような物も、超常的なものだと言われて納得できた。


「俺はてっきり身体強化の魔法か、八極を使っていたから俺と互角に戦えると思っていたが、あれは生身の実力だったのか?」

 

「何それ?」

 

「身体強化の魔法だ。驚くくらい長い呪文の後に発動するものだから実戦では中々使い道が無いんだが」

 

 ロベルトは目を瞑って肩を上げる。

 

「ただ、身体能力が一時的に跳ね上がるから、戦場に出る前に時間をかけてでもやる価値はある」

 

 と、ロベルトはそうも付け加えた。

 

 実際、今の平和なご時世で戦争が起きることは稀だが、ロベルトが若い頃は争いの全盛期だった。

 そのため、出撃前にバフを積んでから戦場に出ることが当たり前だった。

 身体強化系の魔法は自分だけで発動することはできず、付与術師が長い呪文を唱えてから発動させるものだ。

 

 それの下位版として肉体の一部に魔力を纏わせることで身体能力を上げることは可能らしい。

 遙か東の国に伝わる技術【八極】【発勁】なら、修練の果てに身につけられるという。


 それらは魔法とは違う技術であり、ロベルト程の騎士ですらインパクトの瞬間にしか魔力を纏うことは出来ない。

 仙人の域に達すれば数秒間くらいなら維持出来ると言われている。

 

「……その魔法ってのは?」

 

 リドはエマ達の方を見て問う。

 

「火、水、風、闇、光、補助の6つの属性があってな。『回復魔法』や『身体強化魔法』は補助魔法に分類される。魔法には相性があって、今の世界中の魔法使いや騎士でも最大で3つの属性しか使えるモノはいない。私は光魔法の派生である雷魔法しか適性がないが」

 

 エマの説明を聞いて、「なるほど、わからん」と言った様子のリド。


「オレにも使えるのか?」

 

「適性があればな。魔力回路を持っているのは貴族出身の者たちが大多数だ。魔力があるかは適性検査をしてみないと何とも言えないな」


「――どれ、俺が視てやろうか? 魔力があるかどうかくらいならすぐに見ることは出来る」


 静かに紅茶を飲んでいたロベルトは、そう言いながらベッドに近づく。

 額を出せといってくるロベルトに従う様にして、リドは髪をかきあげた。

 

「…………」

 

 ロベルトはリドの額に指を置いて目を瞑る。

 

「――っ!?」

 

 だがすぐに目を見開き、指を離して距離をとられる。

 

「リド、お前は今までどれだけ魔法を使ってきた?」

 

 脂汗を浮かべているロベルトの顔を見て、首を傾げるリド。


「だから、魔法なんてしらねぇよ。使ったことはない」

 

「嘘を言うな。お前に流れる魔力の流れが自然すぎる。ここまで綺麗な魔力を持っているやつなんて、今まで見たことがない」


「何だ? 良いことなのか?」


 不審そうに尋ねるリドに答えたのはエマだった。

 

「良いなんてものじゃない。魔法適性が異様なほど高くないとそうはならない」

 

 エマもあのロベルトが動揺するレベルとは思ってはいなかったのか、少しだけ驚きながらも嬉しそうに答えていた。

 

 


「身体を強化する時は魔力を纏わせるんだったよな? 今まで何となくやってたヤツなんだけど、これってソレか?」


 言いながらリドは自分の右手を出して意識を集中させる。

 子供の頃から戦闘の度に感覚でやっている自己暗示のようなモノだが、何となくこれのことなんじゃないのかと思って尋ねる。


 魔力を伴った右腕は、血管の様な回路が浮き出ながら軽く発光していた。

 恐らくこれが魔力回路と呼ばれるものなのだろうと納得する。

 

「……お、おいリド。それ、どんだけ維持出来る?」


「あ? こんなの何時間でも使い続けれるぞ? 今までも素手で戦う時とか、一瞬で距離詰めたい時に使ってたし」


 その言葉にロベルトとエマは唖然としていた。


 前線で戦うものにしか魔力強化を維持することの凄さはわからない。

 アリシアは治癒魔法を使うことはできるが、戦闘はできない。だから魔力強化を訓練したことはなかった。


 その為、いまいち凄さが分からない様子できょとん、としているが、他二人は顎が外れるくらいの勢いで「はぁ!?」と叫んだ。


「これはそんなに凄いことなのか? 多分コツ掴んだら誰でも出来ると思うぞ」

 

「出来ないから驚いているんだ、バカモノ!」


 反射的にリドの頭を叩いたエマは、次の瞬間には「いたっ」と言って叩いた手を見る。

 まるで硬いものを叩いたかのように赤くなっていた。


 リドの頭を見れば、そこにも魔力が集中しているように淡く光っていた。


「意識を集中すれば、強くなったように感じていたが、これって魔力だったのか」


「お前本当に化け物だな。ロイでもそんな真似は出来ないと思うぞ」


「ふーん」

 

 リドは足に魔力を纏わせることで、一瞬でロベルトを横切った。

 そして、後ろのソファーに座って紅茶を口にする。


 その場に居る、最強クラスのロベルトでさえリドの動きを捕捉できない。

 一歩も動くことができず、呆然としていた三人は我に返りリドを振り返った。

 無理が祟って肋骨を押さえるリドを見て、エマがソファーへ回収に向かう。


 とうとう自力で立てなくなったリドの腕を首に回しながら、立ち上がらせる。


「まったく、とんでもないなリドは」


 エマは微笑みを浮かべて、ベッドに運ぶ。

 

 近いうち、エマとロベルト、そしてアリシアにも魔力を纏い、それを維持するコツを教える約束をして、4人で話し合う。


 エマとアリシアはロベルトに会うのが随分と久しぶりのようで、旧知ということもあるのか近況報告をしていた。


 つい先日まで他国に遠征へ行っていたロベルトがお土産などを渡す中、リドは話を聞き流しながら外の雪景色を見て時間を潰していた。


 夕陽が完全に沈んで、外に青色の帷が落ちようとしている時、ロベルトはソファーに座ったままリドに声をかけた。

 

「……そろそろ本題に入るか。リド、お前に話がある」

 

 ロベルトは真剣な顔でリドを見る。

 

「なんだよロベール」

 

 リドも真面目な空気を察してロベルトを見つめる。

 

「お前は品位や礼節を学ぶために騎士養成学園に通え。そこで騎士道に向いてないと思うなら、好きな時に辞めればいい」

 

「何でそんなところに?」

 

「ロイが……お前の父が歩んだ道のりを知りたくは無いか?」

 

 当然不満を漏らそうとするリドだが、ロベルトの言葉に固まった。

 

(ロイ、あの男の歩んだ道を……)


 心惹かれないと言えば嘘になる。

 

 自分をスラムに捨てた男の手がかりが少しでも手に入るかもしれない。

 もしかしたら、その理由さえ分かるかもしれない。

 

 このままスラムに引きこもっているよりは、学園に通った方が考えうる限り最強だった男の軌跡を知ることができるのは確かだ。

 

「オレでも入れるのか?」

 

 リドは言外にスラム育ちの自分でも入れるのか? と聞く。ロベルトはその言葉にしっかりと頷いた。

 

「あぁ、俺が理事をしている。編入として学園に入れてやる」

 

「ロベルト様が理事、ということは私と同じ学園だなっ!」

 

 思わずと言った様子で会話に入り込むエマ。

 尻尾がついていればフリフリとしていそうなテンションだ。

 少し圧が鬱陶しいので無視する。

 

「……そこの名前は?」

 

「ルイ・カルメン学園の騎士育成科だ」

 

 ルイ・カルメンね……。

 

「あ、私達もそこの学園です」

 

 と、今までずっと黙っていたアリシアが手を上げた。

 

「……は? 騎士の学校じゃねぇの?」

 

「騎士のコースもありますが、通常の教養科もあるんです」

 

 アリシアは嬉しそうに笑う。

 

「各国のご子息、ご令嬢が通う学園だ。中に何十人も騎士が居れば身代金目的の馬鹿者たちもそうそう手が出せないからな」

 

 ロベルトは「アンリ陛下にとっても危険は少ない」と付け足すように口にした。

 詳しく聞けば、エルセレム王国だけではなく、他国の要人も通っている学園のようだ。

 

 通常貴族同士の付き合いは立食パーティーなどで知り合い、仲良くなるしかない。

 だが貴族や選ばれた者だけが通う学園に通えば、最初から友人として知り合える。そういう意味でも学園の価値は非常に高いらしい。

 

「学園でもよろしくお願いします」と、アリシアが。

 

「仕方ないから、おまえの面倒は私が見よう」と、喜びを隠せないエマ。

 

「ならエマちゃんと同じクラスにしないとな」と、ロベルトが。


 そしてリドは。

 

「もう勝手にしろ……」

 

 と頭を押さえた。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る