第5の魔法「アーミラリ天球技と異なる世界~真理の願い~」

ある日、真理はルミナエール堂、店内の掃除をしていた。

すると、ルミナエールが来てにこりと微笑み。

「お疲れ様、そろそろ休んでお茶にでもしようか」

「はいっ」

真理は、ルミナエールと奥の部屋で、ティータイムを楽しむことにした。



味のある風情のあるお膳には、おしゃれなティーカップに薄切りのレモンが浮かべられた。

レモンティー二つと、銀色のお皿にマカロンと動物形のクッキーが並べられており、とても美味しそうだった。

真理はお膳につくと、いただきますと言い紅茶を一口飲んで、ピンク色のマカロンを口に運んだ。

「うん、これ美味しい」



無邪気に喜ぶ真理にルミナエールが、紅茶を一口飲みながら言う。

「ねえ、真理ちゃん。そろそろ、願い事は出来たかい?」

すると、真理はう~んとうなって考えている。

「私、これと言ってお願いってなかなか、見つからないんですよ。夢は自分で、叶えようと思ってますし……。でも、自分で叶えられないものって言ったら。しかないです」

「なんだい?言ってごらん」



ルミナエールは優しく聞く。

「私は七歳の頃に、サンタさんの孫のお兄ちゃんとお姉ちゃんに会って、亡くなったお父さんに会わせてもらったんです。凄く嬉しくて、そのおかげでここまで明るく生きて来られたの」

「だから、もう一度。お兄ちゃん達に会って今度は、私が何かしてあげられないかなって、思っているんです」


真理は、真っすぐ真剣にルミナエールの目を見てうなずく。

「ふふっ……本当にあんたは、優しい子だよ」

ルミナエールは、口元に手を当て、くすくすっと笑う。

「やっぱり、私何か変ですか?」



真理が不思議そうな表情をすると、魔女はこう言った。

「いいや、良いと思うよ。あんたのような優しい子が望むなら、魔法のお守りはあんたの味方さ」

真理は、うなずき祈った。

「お願い。ルミナエール堂。私の願いを叶えて」

真理の身体が淡くエメラルド色に光り、商品棚から魔法のお守りが飛んできた。


それは金色の天球儀だった。緑色の宝石がはまっている。

真理は、ルミナエールに使い方を聞いた。

「これは“アーミラリ天球儀”と言う魔法具さ。星の動きを見ることで、今生きている世界とは違う、パラレル世界を調べることが出来る物。でも、残念だけど、これだけでは会うことは出来ないよ」



「そうですか……」

真理がうつむいて、しょんぼりする。

その寂しそうな顔を見て、優しい魔女はウインクをして言った。

「これだけでは、と言ったろう?まだ、真理ちゃんの魔法があるじゃないか。“想いの魔法”がね」


「はいっ」

真理は喜んで手を組み祈った。

「お願い、アーミラリ天球技。クリスお兄ちゃん達の世界を見つけて」

天球技がくるくると回転しながら、星からの光を吸収し、回り始めた。


しばらく回転していたが、ピタッと止まるとこことは異なる世界。

サンタクロースの世界、ホーリー・ランドが映し出された。

「ここが、クリスお兄ちゃんとローズお姉ちゃんの世界なのね!」

そこは、可憐な妖精達が飛び交う。緑が豊かな世界だった。所々に雪が残っている。


天球技が、一軒の赤い屋根の家を、光の中に映し出した。

そして、映像は部屋の中へと場所を変える。

そこには、初めて見るサンタクロースや懐かしく少し、大人っぽくなったサンタの孫娘、ローズ=クロースの姿があった。


真理は、思わず懐かしさと、嬉しさで涙ぐむ。

「さあ、真理ちゃん。呼びかけてごらん」

ルミナエールが真理の肩に手を置き、うながす。


真理はうなずいて、映像の中のローズに向かって、思い切って呼びかけてみた。

「ローズお姉ちゃん。聞こえますか? 木野真理です!」

ローズとサンタクロースは、突然の少女の声に辺りを見回していたが。


空中に映し出された真理の姿を見つけたローズ達は、一瞬驚いていたが。すぐ笑顔になり話しかけて来た。

「真理ちゃん?大きくなったわね。びっくりしたわ!まさか、真理ちゃんの方から来られるなんて」

「ローズお姉ちゃん。私ね。魔女見習いになったのよ。お話したいことがたくさんあるの」


真理は、映像のローズに手を伸ばした。

だが、真理の手はローズの手と触れ合うことは出来ない。

ルミナエールはもう一度言った。

「その世界に行きたいと願ってごらん」

「お願い。私をローズお姉ちゃんの元へ!」

真理の身体が光り始めた。


ルミナエールは、慌てて伝える。

「まだ、見習いだから。十分しか行けないが、楽しんでおいで。いってらっしゃい」

真理は彼女に笑顔で手を振ると、光の中にふっと消えた。




◇ ◇ ◇




ローズ達の家に真理が現れて、ローズと抱き合う。

真理は、サンタに軽く会釈をした。

「真理ちゃん。いらっしゃい。どうやって来られたの?」

「魔法のお守りと、私の想いの魔法で来たんだよ」


真理はローズに、これまでのことを話して聴かせた。

「そんなことがあったのね。魔女ルミナエールさんの見習いか……。私もSNSで噂は、見たことあるわ。凄いねえ。真理ちゃん」


ローズは、うなずきながら感心している。

「ありがとう。所で、クリスお兄ちゃんは?ごめんね。あまり、ゆっくりしていられないの。十分しかないから」

「プレゼントの宝玉の工房にいるわ」

ローズはそう、教えてくれて案内をしてくれた。

プレゼントの宝玉とは、子供達の欲しい物に姿を変化させる宝玉のことである。


真理は本当なら、綺麗な景色も可愛い妖精さんも、ゆっくり見たいのを我慢して、早歩きでローズについて行き、工房へと着いた。

工房の中は、たくさんの精霊達が宝玉を作っていた。

真理は、きょろきょろと工房の部屋の中を見廻す。

「クリスお兄ちゃん。ちょっと、来て!」

ローズが呼ぶと奥の方で、作業をしていた金髪碧眼の男性が、こちらに歩いて来た。

「クリスお兄ちゃん?」


呼びかける真理にクリスは目を見張った。

「――真理、真理なのか?」

「おおーっ!随分とでかくなったな。真理~」


クリスは、青い瞳をまたたかせて真理の脇を持ち、両手で持ち上げた。

「は、恥ずかしいよ。お兄ちゃん」

彼女が、頬を染めて足をばたつかせると、名残惜しそうにクリスは床に下ろした。

真理はクリスに十分しか、いられないことと。魔女見習いになったこと。


今、クリスが何に困っているかを聞いた。

クリスは腕組みをして考えている。

「そうか、せっかく会えたのに。十分しか、いられないのは残念だな。それにしても困ったことか、プレゼントの宝玉の材料が足らなくてな。今、職人が採りに行っていることくらいか……」

「そう言えば、出かけてからかれこれ、二時間になるな。」



そんなことを言っていると工房のドアが開き、真っ青な顔で中年の男が入って来た。

「大変だ!宝玉の材料を採りに行った職人が、マンドラゴラの畑で倒れている!誰か手を貸してくれ」

マンドラゴラとは、生きた野菜のような植物で、その叫び声を聞いたら最後。即死すると言われており、幼いマンドラゴラでも気絶すると言う。恐ろしい魔物だ。


プレゼントの宝玉には、朝蜘蛛あさぐもの糸、キラービーの蜜、夢色の滝の水。そして、マンドラゴラのひげ根が必要らしく。保管庫の材料が足りなくなると、耳栓をして、採りに行くのだが。実は、宝玉づくりは命がけの仕事だった。

「俺が行く!」

「私も行くよ。」

真理とクリス、ローズは、急いで自動車に乗り、工房所有のマンドラゴラの畑に向かった。


マンドラゴラの畑に一行が行くと、畑の真ん中にドワーフが倒れていた。

マンドラゴラは引き抜かなければ、安全なのだが。ドワーフの傍らには、幼いマンドラゴラが落ちており、キーキーと嫌な鳴き声を上げている。


何と、他のマンドラゴラ達もそれに釣られて、いきり立ちユラユラとうごめいていた。

「やべえな……。あの数じゃ、耳栓があっても、助けるどころか俺達が先に死んじまう。

「どうにかならないのかしら?」


クリスとローズが困っていると、真理がにっこりと微笑んだ。

「私に任せて」

真理は両手を組み、祈りをささげた。

「マンドラゴラさん、少し眠ってね」


すると、真理の身体が淡い光に包まれ光はほとばしり、畑をおおっていった。

マンドラゴラ達はたちまち眠りに落ち、ぴくりとも動かなくなった。

「すっげ~、真理。最高だな!」

「真理ちゃん、ありがとう」


クリスとローズは、ドワーフに駆け寄ると息をしており、ホッと胸をなでおろした。

クリスはドワーフを担ぎ、車の後部座席に寝かせると眠っているマンドラゴラから、鎌で硬くて丈夫なひげ根を刈り取り、また埋めなおした。


「戻ってドワーフさんを診てもらいましょう」

ローズが、車の後部座席にドワーフを寝かせると、真理の身体が突然輝きだして徐々に、消え始めた。

「あっ、もうルミナエールさんの世界に戻らなきゃ。ごめんね。クリスお兄ちゃん、ローズお兄ちゃん。私も行きたいけど……」

「もう……。お別れみたい」


真理が大粒の涙を流した。ローズも涙を流す。

「真理ちゃんっ」

抱き合う、真理とローズ。だが、クリスはにかっと笑い言った。

「また、会えるさ。魔法のお守りと真理の想いの魔法があればな!」


クリスは真理とローズを抱きしめた。

「ありがとう。ふたり共」

真理が二人に涙交じりの笑顔を向けると、彼女の姿は光の中に消えた。



◇ ◇ ◇



ルミナエール堂に帰って来た真理は、嗚咽を漏らし泣いていた。

「おかえり、真理ちゃん。見てたよ、偉かったね」

「ルミナエールさんっ」


真理は、ルミナエールの柔らかい腕の中に飛び込んだ。

「また、会えるよね?」

「ああ、真理ちゃんが夢見る気もちを忘れなければね」

ルミナエールは、真理を優しく抱きしめた。


🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

次回はエピローグ・最終話になります。

よろしくお願いいたします。

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