第3の魔法「悠久の時の砂時計・クロノグラス~尾上ひさのおもいで編」
老婦人は、最初は突然こちらに来たので驚き、ぎこちない様子だったが。
孫のような、真理の可愛らしい笑顔ににこにこしている。
ルミナエールは、さすがだなと思いながら
老婦人に微笑み、丁寧な口調で問いかける。
「初めまして。ここは、あなたの願いを叶える魔法の雑貨店です。私が、この店の店主のルミナエール。お客様のお名前をお聞きしても、よろしいでしょうか?」
「まあ、あなたがルミナエールさん?初めまして。私は、
ひさは、丁寧におじぎをした。
ルミナエールと真理は、ひさにそれぞれ自己紹介をした。
「さあ、あなたの願い事をお聞きいたしますよ」
ルミナエールは、椅子を用意して。ひさにすすめた。
「ありがとう。本当に来られるなんて、思わなかったけど。嬉しいわ。
では、ルミナエールさん。真理ちゃん。私のお話を聞いてくださるかしら?」
ひさは、夫の
ひさは、名家の令嬢で三夫と駆け落ち同然で、結婚したが。
結婚式の前日に、赤紙が来て三夫を戦争に取られてしまう。
その日に三夫と、約束したことを思い出せないと言うのだ。
「無理よねえ……。人の思い出なんて、いくら魔女さんでも。私自身も、思い出せないのにね」
ひさは、ごめんなさいねと謝り、少しうつむいた。
ルミナエールは、う~んと一声うなった後に真理の方を向いて言う。
「真理ちゃん。あなたが、覚えた魔法使って欲しいんだけど。」
「でも、ルミナエールさん。私まだ、使い方分かりませんよ?」
焦る真理にルミナエールは、くすっと微笑み言う。
「想いの魔法は、あなたの心の中にある。真理ちゃん。祈って、このルミナエール堂に問い掛けてみて。ひさ様の願いを叶える。魔法のお守り来てって!」
真理はうなずき、両手を組むとこう、願った。
「お願い。ルミナエール堂。ひささんの願いを叶える魔法のお守りを私の元へ」
真理の身体が、淡いエメラルド・グリーンの光に包まれ、ルミナエール堂がそれに呼応する。
奥にある棚から、一つの魔法のお守りが真理に向かって飛んできた。彼女がそれを受け取る。
それは、金の鎖が付いた小さな砂時計だった。
「綺麗……。これは、何ですか?」
「これは、“クロノグラス”魔法の砂時計が、閉じ込められた。魔法のお守りだよ。所持者の記憶を遡(さかのぼ)り、その者の過去を見る事が、出来る魔法の道具さ」
「さあ、真理ちゃん。ひさ様の首に掛けておあげ」
「はい」
真理はうなずくと、ひさの首にクロノスグラスを掛けた。
「ひさ様、願ってください。尾上様がご存命で、いらっしゃった過去に戻りたいと」
ルミナエールがおごそかに言うと、ひさはうなずく。
「私を、三夫さんのいた、過去に戻してください」
ひさは、手を合わせて懸命に祈った。
すると、クロノグラスの中の砂時計がかたむき、中の砂がさらさらと落ち始め光り輝いた。
その瞬間、ひさ、ルミナエール。真理の三人は意識が過去に飛び。その場に倒れていた。
ここは、とある神社。若い頃のひさと三夫が、向かい合って座っている。
「ひさ、俺はお国のために戦ってくる。もう、帰って来られないかもしれない。だから、俺が行ったら……。他の男と幸せになってくれ!」
「嫌です。三夫さん!私は、三夫さん以外のひととは、一緒になりませんっ。このお腹にあなたの子供がいるのにっ……」
ひさはまだ、大きくなっていない。自分のお腹をさすった。
三夫は驚きながらも、嬉しそうな表情をしたが。すぐ顔が曇る。
「本当か?でも、すまない。俺はお前と、お腹の子を守ってやれない。そうだ。俺の兄さんと一緒になってくれ。」
「……分かりました。あなたの言うとおりにします」
ひさが、辛そうにうつむいた後、三夫を見つめる。
「理解してくれたか!この神社の裏手にお前に渡す、贈り物を埋めておいた。後で、掘り出してくれ」
そこで、クロノグラスの光は消えて、ルミナエールと真理達は意識を取り戻した。
「思い出しましたよ。全てね……。お二人とも、ありがとう」
ひさは、うれし涙を流した。
彼女は、クロノグラスを真理に返すと、ルミナエールは微笑み。
「こちらこそ、素敵な思い出をありがとうございます」
お互いにおじぎをして、ルミナエールが指を振るとひさは、元の場所へと帰って行った。
尾上ひさは、その神社の裏手で思い出の品を掘り起こし、その後に息子夫婦と同居することになった。
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〇登場人物紹介〇
「尾上ひさ」-おのうえひさ
品がよさそうな八十歳代の女性。
戦争で若い頃に亡くなった夫に、頼まれたことを思い出したくて。ルミナエール堂に導かれる。
「尾上三夫」-おのうえみつお
若い頃に戦争で亡くなった。ひさの夫。享年二十三歳
ひさに贈り物を遺す。
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