第29話 3人目
「一通り話は聞いたけど、何言ってんの?」
七瀬の家の近くのファミレスに連れてこられた私はお互いの自己紹介の後、意味の分からない話をされた。対面に座っているこの金髪ちゃんは普通の人には見えない、いわゆる『幽霊』でほとんど記憶も無い。それで私が彼女の事を見えてるものだから驚いて……今に至る。
「ついには頭でもおかしくなったのかな、七瀬君は」
「うっ、自分でも意味不明な事言ってるのは自覚してるけど……あ、あの!すみません!店員さん!」
はーいと店員がテーブルに近づいてくる。
「僕達何人に見えますか?」
「はい?2人ですけど……」
「ですよね!急に申し訳ないです!」
はぁ……と頭に?マークを浮かべてレジの方へと歩いていく。
「……え?何、ドッキリ?」
「僕が伏見さん相手にそんな事するわけないでしょ……」
「いや、まぁそっか……え?マジなの?」
こくこくと2人が首を縦に振る。現実的に考えてそれは……いやでも私と七瀬が一緒に居たのもたまたまだったか。
「あー……うん、考えるだけ無駄だと思うし、本当な訳ね」
「3人目ですよ!朝比奈さん、また1歩進みましたね!」
「うん、そうだね」
「……」
嬉しそうに笑う2人。1度だけ、七瀬のこの顔を私は見た事がある。まるであの人と話してる時みたいだなと思った。たまたま公園で見た……あの時みたいな。
「伏見さん?」
七瀬に声をかけられ、現実に引き戻される。……何考えてるんだろ、私。くだらな。
「……で、非現実的なことが起きてるのは分かったけど、その話がしたかっただけ?」
「いや、さっきも話した通り朝比奈さんの記憶とか何が起こったのかを調べてて、それを手伝って欲し」
「嫌」
七瀬の言葉をわざと遮るように言い放つ。
「何か勘違いしてない?金髪ちゃんの事を見える人が増えて勢いで話したのかもしれないけど、私は七瀬君の事が嫌い。手伝う義理も見返りも無い、普通に考えて手伝うわけ無いでしょ。逆に何で七瀬君はさ……」
「お願いします」
そう言って七瀬は頭を下げた。続くように隣にいる金髪ちゃんも。
「……何、やめてよ」
「現状、朝比奈さんを見ることが出来る人が僕を含めて2人しかいない。伏見さんを含めて3人。僕を嫌ってる事は分かってる。それでもどうか、手伝って下さい。僕に出来ることがあれば何でもします」
「私も……他人には見えないから出来る事は限られてるけど、手伝える事はする。だから、お願いします」
何なのかな、この状況……私こういうの苦手なんだけど。
「……なんでそこまで必死なの?金髪ちゃんは分かるよ、自分の事だし。でも七瀬君は違うでしょ。昔あれだけ他人と関わりたくない感じだったのに、今は嫌いな私に頭まで下げて……何がそこまでさせるの?」
「……朝比奈さんは僕にとって初めて出来た友達なんです。それだけじゃない、他に友達が出来るようお手伝いをしてくれました。彼女と出会って僕は見える景色が変わったんです」
「あの公園の人と似た感じって事?」
「……そういえば、たまたま話したことありましたね。そんなとこです」
「?」
金髪ちゃんだけ話についていけてないのを見るに知らないんだろう。自分の事は隠してるんだ、金髪ちゃんの事は助けるだけ助けといて……実に七瀬らしい。やっぱり嫌いだ。
「……1つだけ条件があるよ」
「は、はい!」
「私、彼氏欲しいの。2人共役に立てるとは思えないけど、その手伝いしてくれるなら……まぁ、いいよ」
「任せて!」
「好きな人がいるんですか?どんな人ですか?」
「いや……今は居ないけど、彼氏欲しいって思うのは普通じゃない?」
「なるほど!じゃあ早速なにからしたらいいでしょうか!」
「え?い、いや何からって……」
正直何も無しで手伝うのは嫌だから言っただけなんだけど……。とりあえず後日説明するからと適当に言っておいた。その後、学校も違うので諸々連絡の為に連絡先を交換した……。
「じゃあ、私もう疲れたし……帰るから」
「あ……あの、伏見さん」
「……ん?何、何かあるならさっさと言ってよ」
「バイトの時、嫌な態度取ってすみませんでした」
そんなことを考えてたのか。
「……はー、やめてやめて。私らそんなんじゃないから……それに私が原因だし」
最後の言葉は聞こえないように小さな声で呟く。
「え?何か言いました?」
「なんでもない、じゃ」
そう言ってファミレスを後にした。
「……」
静かに家のドアを開け、無言で自分の部屋へ向かう。
「はぁ……」
部屋に入り、ベッドに倒れ込む。
「疲れた……なんか色々あったし」
リビングで大きな声が聞こえる。あー始まった、急いで耳にイヤホンを付ける。しばらくしてバンッ!!!と扉を強く閉める音が聞こえた。ノイキャンを作った人は本当に表彰されて欲しい……もうされてるのかな。
「ウザイなぁ……ほんと」
伏見家には3人住んでいる。父、父方の祖母、そして私。小さい頃に離婚して母はどこかへ消えた。何も聞かされていない。祖父は5年くらい前に死んだ。
私が高校に入学するまで父は自分の仕事場の近くに一人暮らし、私は今いるこのおばあちゃんの家に住んでいた。高校に入学すると同時に父もこの家に住み始めた。仕事をクビになったらしい。今は別の仕事に就いているが給料的に家賃がキツイのだろう。
父と祖母は仲が悪く何かある度に喧嘩をする……とは言ってもほぼ父親がキレ散らかすだけ。今の所、手を出していないだけマシだろうか。
そして……。
「おい、祈。この前のテストの結果見たぞ。成績落ちてるな、バイトも始めたそうだが大丈夫なのか?」
ノックもせずドアを開くと同時にマシンガンの様に言い放つ。傍から見れば親として心配してるだけ、でも違う。
「……大丈夫だよ」
「お前またあのババアに相談したらしいな、いいか、お前の親は俺だ。あの人じゃない」
「……お風呂入ってくる」
「おいまだ話は───────」
喚き散らす父親の横を素通りしお風呂へ向かう。鏡を見ると少しだけ手が震えていたことに気づいた。何が怖いのだろう、暴力を振るわれたことも無いのに。
やっちゃいけないラインは超えない、子に将来は支えてもらって当然だと思っている、そんな親。多分、よくある家庭なのだろう。この程度は。早くお金貯めて出て行こう。それで終わる話。
ピロリン。
「ん」
スマホを開くと……うわ、七瀬からだ。
『すみません、言うの忘れてましたけど楽器屋さんで会った人。あの人と僕付き合ってるの、あれ嘘ですから!一応!』
「はっ……なにそれ」
鏡を見てハッとする。今、私七瀬の文章見て笑ってた?マジ最悪。
『うるさい、死ね』
そう送ってスマホを閉じた。口角は……下がるのに時間がかかった。
幽霊でした、彼女。 アマオト @Colagumi
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