第28話 最悪な日

「しゃーせー」


 伏見祈ふしみいのり、高校1年生。私は今、女子高生という大切で輝かしい時間を浪費している。


「伏見さん、これ1番テーブルにお願い!」


「はーい」


 食事をテーブルに運びながら店長にバレないよう時計を確認する……時計動いてる?長いな〜。

 遊ぶお金を増やしたくてファミレスでバイトを始めては見たが、せっかくの休日なのに忙しいわ態度の悪い客は居るわ……働くって大変だとよく聞くけど、残りの人生こんなんばっかなのかな、死にたくなるわー。


「休憩入りまーす」


 休憩室に入り周りを確認……誰も居ない。


「あー」


 先日、たまたま嫌いだった中学の同級生に会った。隣には超絶美人の女。あいつに言われた言葉がずっと頭に残っている。


『あんたらと一緒にいるより、七瀬と一緒にいる方が楽しいから』


「……ムカつく」


 中学の頃とは別人みたいな顔して、女に守ってもらって……マジキモい。忘れたいのに頭から離れない。


「伏見さんー?新しいバイトの子の話だけどさー」


「うわっ!は、はい?なんですかー?」


 気づくと店長が休憩室に居た。入ってきたことに気づかなかったのか、危ない危ない……。


「伏見さんも最近入ったばかりで色々と教えてるけど、新しい子も一緒にやることになるから。もう少ししたら来るけど仲良くね」


「あ、はーい」


 新人、か。私は人付き合いは苦手では無いし、まぁ心配いらないだろう。






「……あの、店長。まさかとは思うんですけど新人って」


「ん?ああ、うん。この子が新しいバイトの子。同じ高校1年生らしいけど……ってもしかして知り合い?」


「知り合いっていうか……いや、いいです。よろしくお願いします、七瀬君」


「……ちっ」


 ……んー?今舌打ちされた気がするなぁ、私の耳がおかしくなっちゃったのかなぁ?


「それじゃあ教えていくね、伏見さんは復習だと思って一緒にやってね」


「はい、分かりました!それじゃあよろしくお願いしますね、伏見さん!」


「よーろーしーくーぅ……!」






「「お疲れ様でしたー」」


 バイトが終わりその場を去ろうと早歩き……しているのだが、隣にいる小さな男も同じ速さで歩いてくる。


「着いてこないでくれないかなー?七瀬君」


「こっちのセリフですが」


「あのさ、なんなのかなその話し方。です、ますって随分丁寧な話し方してるけどさー、昔と変わったねー七瀬君は」


「伏見さんはどうして僕の事君付けで呼んでるんですかー?呼び捨てでしたよねー、昔と変わりましたねー伏見さんは」


 かっちーん……。


「ウザイ所は変わってないね、七瀬。高校デビュー成功して美人の彼女も出来て調子のってんの?」


「この前急に話しかけてきて、嫌がらせしてきたのはそっちだろ。安心していいよ、こんな態度とるのは伏見さんに対してだけだから」


「……あっそ、まぁいいや。バイトの邪魔はしないでね」


 気づけば、七瀬と表札の書かれた家の前まで来ていた。どうでもいい情報を知ってしまった。さっさと忘れよう。


「あ、七瀬、お疲れ様。私も今帰ってきたところだよ」


 後ろから七瀬を呼ぶ声が聞こえた。金髪で制服を着た……美人。お姉さんとか居たんだっけ、まぁどうでも……ん?


 今、七瀬って呼んだ?


って事は友達?でも今帰ってきたところって……まるで一緒に住んでるみたいな。それに七瀬は返事すらしてないけど……何?どゆこと?もしかして浮気とかそういうやつ?


「返事しないの?呼んでるけど。何、もしかして浮気でもしてるの?」


 少しでも嫌がらせをしようとそう言い放つと、驚いた様に目の前の2人が私を見つめる。何?焦って声も出ないって事?


「……この人が見えてるんですか?」


「何わけの分からない事を言ってんの?」


 2人は目を合わせて何かを話したかと思うと、七瀬が1歩前に出た。


「……お話があります、少しでもいいので時間を下さい」


「は?」

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