第25話 エロゲーマーはロックである②

「で、これ!どういうつもりですか?」


 謎LINEから次の日の放課後。スマホの画面を見せながら僕は姫野さんを問いつめていた。


「どういうつもりも何もそのままの意味だけど」


「なんで僕の名前勝手に書いてんだって言ってるんですよ!」


「落ち着きなさいよ、可愛い顔が台無しだゾ?」


「あーもう!うざ!!!」


 その語尾ハマってんのかな、腹立つな。ふぅ……1度落ち着くんだ、僕。この人のペースに乗せられちゃダメだ。


「まぁ聞きなさいよ、確かに勝手に名前を書いたのは謝るわ。でも文化祭、バンドよ?『憧れ』があるんじゃないかしら?数々のアニメやゲームを見てきたあんたなら分かるはずよ」


「そりゃ無いことも無いですけど……実際に人前でやるってなると、緊張とか色々あるんですよ。楽器だって一朝一夕で出来るようなものじゃないでしょ。それに姫野さんは僕以外にもたくさん友達いるでしょ」


 中学の頃、少しかじった事があるが挫折した経験がある。特に目標も無かったし当然と言えば当然なのだが。


「楽器は努力するとして、私と話が合うのあんただけだし、あんたはマストなのよ。曲とかはまだ決めてないけど、話とか好きな曲とか合わないし、サ○バウィッチのバンドシーンとか言っても分からないだろうし」


「あー……あの曲いいですよね!歌詞とか2人の心境考えたらすごく泣けちゃいます!普通に聞くと明るい曲なのに、クリア後だと感じ方変わりますよね!」


「そう!そうなのよ!あのゲームはヒロイン人気だけじゃなくてシナリオもいいのよね!……やっぱり私にはあんたが必要だわ、お願い七瀬!私のわがままに付き合ってちょうだい!」


 そう言って姫野さんは勢いよく頭を下げた。


「……はぁ、分かりましたよ。でもバニー衣装とか無しですよ」


「決まりね!ありがとう!」




 ……




 とりあえず楽器を見に行こうという話になり、楽器屋さんへ向かう事に。歩きながらバンドの話を進めていく。


「とりあえず曲と残りのメンバー探しね」


「なら曲から決めましょう、それによって最低でも何人欲しいかって話もしやすいですし」


 リーダーである姫野さんに従うつもりだが、時間も無いので難易度が気になる。


「アニソンとかやりたい感じですか?」


「それも有りなんだけど個人的にはこういう邦楽のバンドかしらね」


 そう言うと姫野さんのスマホから聴いたことのある音楽が聴こえてきた。


「いいですね、前奏も耳に残りやすくてかっこいいですし」


 ちょうど曲のサビを聴き終わったところで楽器屋さんに着いた。


「ふむふむ、値段的にはこんな感じなのね」


「さっきの曲をやるとして……最低でも3人。ギター、ベース、ドラムの3人は欲しいですね。姫野さんは何か楽器経験とかあるんですか?」


「いや、全くないのよね」


 となると……多少でもかじったことのあるギターを僕がやった方がいいのかな。


「ほんの少しですけど、僕はギターやったことあります。昔使ってたのがまだ家にあったはず……」


「多少でも経験者なら決定ね。なら私はベースかな……ドラムよりはやれそうな気がするし、何よりやってみたい気持ちが1番あるし」


「ならあとはドラムできる人を探さなきゃ、ですね」


 ドラム、ドラムかぁ……。周りに出来る人いたかな、聞いたことないなぁ。姫野さんは知り合い多そうだし何とか見つけられるかな。

 器楽部なんかもあるけど既に声をかけられているか、そもそも器楽部内でバンドを組んでそうではある。


「七瀬くん?」


 聞き覚えの無い声に僕の名前を呼ばれ振り向くと、2人の女子生徒が居た。


「え​​───────?」


「やっぱり七瀬くんでしょ?髪短くしたんだね!私達のこと覚えてる?」


「相変わらず女の子みたいな顔してんだね、うける」


 ……あぁ、中学の時に同じクラスだった女子か。どうりで声に聞き覚えが無いわけだ。

 楽器を見ていた姫野さんが誰?と目で質問してくる。


「中学の時に同じクラスだった人達です。そんなに話した事は無いですけど」


「ふーん」


「わ、めっちゃ美人さんだね、彼女さん?」


 そう言うと、わわーとわざとらしく驚くような仕草をする。


「いや」


「そんな訳ないでしょ、あの七瀬が彼女なんて出来るわけないじゃん。コミュニケーションもろくに取れないんだから」


「そりゃそうだー!ごめんね七瀬くん!私余計な事言っちゃったね」


 明らかに嫌がらせをされてるなと感じてはいるが、話している内容に嘘は無く言い返そうとは思わない。


「……」


「あ、そーだ。美人さんは、昔七瀬くんがどんな感じだったか知ってますか?すごかったんですよー?何を話しかけられても無視しては思いっきり睨まれるんです。親切心で話しかけてもですよー?」


「卒業が近くなって、やっと友達が欲しいと思ったのか必死に色んな人に話しかけたりして。もう遅いのに、ほんと笑えた。あんた、こんな奴と一緒に居ても不幸になるだけだよ」


 凄く情けないなー……今の僕は。だから男らしくないとか女の子だとか言われちゃうんだろうな。


「というか七瀬くんなんかより私と友達になりません?それだけ美人ならかっこいい男子とかたくさん知ってそうですし!これ、私のLINEのQRコード​───────」


 惨めな気持ちで一杯だったが、この場を黙って去る勇気も無い。早くいなくなってくれないかなと願うことしか出来なかった。


 そんな僕を見て、姫野さんは口を開いた。


「何勘違いしてんのよ、私の彼氏だけど、こいつ」


 そう言って、後ろから抱きしめられた。


「え!?」


「は!?い、いやいや、七瀬くんも驚いてるじゃないですかー?嘘ですよね?」


「いきなり抱きつかれたから驚いただけでしょ」


 そう言って僕の頭の上から姫野さんは微笑む。


「マジ……?なんでそんな男と付き合ってんの?あんたならもっと」


「あーはいはいとにかくさ、話も合うし、趣味も合うし、そこら辺の男よりよっぽどいい彼氏なのよねー……それに」




と一緒にいるより、七瀬と一緒にいる方が楽しいから」




「……は?何ですか、それ。もういいや、行こ」


「う、うん」


 そう言い残し、2人は足早に去っていった。


「よし、買いたいベースの目星はついたし、私達もそろそろ帰るわよ」


「え?は、はい」


 お店を出たところで、姫野さんに問いかける。


「あ、あの!ありがとうございます……。で、でもなんでまだ手を繋いでいるんですか?」


「えー?私ら付き合ってるんでしょ?普通じゃない?」


「か、からかわないでください」


 何よーつまんないわねー、と姫野さんが呟く。


 あ、あれ……なんだ?なんだろうこれ。姫野さんの顔が見れない。顔が熱い。夕日の光もあって、姫野さんには見えないとは思うけど……。


 それにさっきの姫野さんの言葉……。


『あんたらと一緒にいるより、七瀬と一緒にいる方が楽しいから』


 僕の中でその時、確かに……








 恋に落ちる、音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る