第26話 エロゲーマーはロックである③

「それで、相談って?」


 学校近くの某ファストフード店にて、私は美羽に呼び出されていた。まぁこちらも聞きたいことがあったのでお互い様だ。平日だからなのかいつもより人が少ない気がする。


「や……えとその……あ、あややんこそ!何か私に用があるんでしょ!?さ、先に聞かせてよ!」


 そう言うと美羽は、わたわたと色んな動きをした後シェイクを飲み干した。


「……?じゃあ私からね。文化祭でバンドをやるんだけど、ドラムをやってくれる人だけ見つかってなくてね。美羽興味無い?」


「ドラム……かぁ。うーんやった事ないし厳しいかなぁ」


「んーそっか、分かったわ」


 困ったわね……出来るだけ七瀬と仲のいい人を選んであげたいところなんだけど。

 どうしようかと考えながらコーヒーを飲む。苦い。調子に乗ってブラックにチャレンジするんじゃなかったわね……。


「ちなみにあややん以外には誰がいるの?」


「スリーピースバンドで、私と七瀬」


「やる」


 そう言って美羽は立ち上がり身を乗り出す。あ、あれ?さっきと言ってること違わない?


「……さっき厳しいって言わなかった?」


「が、頑張るし!努力とか得意だし!」


 ぐっと拳を握る美羽。そんなにやる気があるのなら最初から言えばいいのにと思いつつ、本人のやる気を無くさないように胸にしまった。


「わかった、じゃあ決定ね!こっちとしてはありがたいわ、よろしく、美羽!」


 スマホを取りだし、バンドグループに美羽を招待する。


「で、私の話は終わりだけど、美羽の相談は?」


「う、うん……あのね?」


 上目遣いで私を見つめる美羽。なにか謝りたいことでもあるのだろうか。


「あややんさ……つ、ツムツムと仲良いよね」


「ツム……?あぁ七瀬ね。そうね!ソウルメイトよ!」


「ど、どのくらい仲良しなの?」


「どのくらいって……」


 ふと、考える。どのくらい……うーん。


「さっき話したバンドだったら1番に誘ったし」


「う、うん」


「趣味とかも合うし」


「うん」


「あと、たまに私の家に泊まったりとかするわね!」


「うん……うん!?え!?な、ななななんで!?何してるのなんのために!!?」


 私の肩を揺らしながら叫びだす美羽。少し涙目な気がした。


「な、なにって……」


 う、うーん。聞かれても一緒にエロゲしてます、アニメ見てますなんて言えないし……。


「そりゃあ……ね?」


「ね?じゃないよ!!!何その分かるでしょ?みたいなウインク!え!?嘘でしょ!?そんなに関係が進んでたの!?」


 そ、そんなぁ……と情けない声を上げながら美羽は机にへたり込んだ。


「あとは……そうね、美味しそうに私の作ったご飯を食べてくれたりするわね!」


「も、もう言わなくていいからぁ……」


 あれ?なんかどんどん美羽の元気が無くなっていくわね、おかしいな。その後少しの間静かになった。


「……もう、付き合ってるの?」


 机に顔を伏せた状態の籠った声で話す美羽。鼻声だ、やば泣いてるかも。


「付き合ってないわよ?」


「付き合ってないのにHなことしたの!?」


「な、なに言ってんのよ!Hなことなんて……」


 Hなことなんて……あれ、割とエグいシーン一緒に見たことはあるわね。それにそもそも2人でエロゲって特殊な性癖みたいな感じね……。


「……」


「……?」


「……して、ないわよ?」


「おい!なんだその顔は!私の目を見て話せ!!!」


 ふぃ~♪と口笛を吹いて誤魔化す。ちぃっ!音が上手く出ないわね!もっと練習しておくべきだったわ!

 とにかく嘘じゃないわよと美羽をなだめる。


「分かったよ……信じるよ……うぅ」


「結局何が言いたいのよー?話が見えないわね」


「い、いや……だからね」


 周りをキョロキョロと見て、小さな声で話す。


「す、好き!なの……ツムツムのこと」


「え​……え!?ほ、本気?」


 そう聞くと、俯きながらこくんと頷く美羽。


「お、驚いたわ……いつの間にそんな事に」


「詳しくは言えないけど、体育祭の時とか……色々あって、その」


 わー……これが恋する乙女ってやつね、普段の美羽も充分魅力的だけど今の美羽は可愛さが爆発してるわ。共通ルートが終わってヒロインが恋を自覚したばかりのあのドキドキする感じね、分かるわ。


「そ、それで……もし良かったらだけど、手伝ってくれないかな……って」


「個人ルート入った後の別のヒロインの役目ってわけね」


「個人ルート……?」


「ごめん、忘れて頂戴」


 危ないわ、私。テンション上がるのもわかるけど落ち着くのよ。


「ま、美羽なら七瀬を幸せにしてくれるでしょうし、安心して任せられるわ!しょうがないわね、応援してあげるわよ!」


「ほ、ほんと!?よ、よかったぁ……。もしかしたらあややんもツムツムのこと好きなんじゃないかって心配してたんだー」


「確かに好きだけど、恋愛感情とかは無いわよ。そもそも私誰とも付き合う気ないしー」


 ありえんありえんと手を振り、否定する。


 確かに七瀬はいい所いっぱいあるし、美羽が好きになる気持ちは分からなくもないわねー。それに私の思う理想の可愛い女の子キャラとして、七瀬は完全にハマってるし。まー私たちに限って恋愛ってのは流石に起こらないでしょ、うんうん。そうだ、今度コスプレとかさせたいわね……。


「じゃあ、今後も相談とか迷惑かけると思うけど、よろしくねあややん!」


「恋愛マスターの私に任せときなさい!」

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