第三章 文化祭と姫野絢香
第24話 エロゲーマーはロックである
9月上旬。まだ少しだけ暑さが残るが少しずつ涼しくなっていく、そんな季節。僕は朝比奈さんが最初に目を覚ました公園へ来ていた。なんとなく1人でブランコに乗る。立ち漕ぎとかしてみようかなと思っていたのだが意外と怖い、昔は出来たのに。
「……」
この場所は僕にとっても思い出深い場所だ。僕が変わることが出来た大切な場所。
お姉さん元気かなー、何してるんだろうなぁ……。
「よっと」
ブランコの勢いのまま飛び降り、連絡が来てないかとスマホを確認すると橘さんから『区切りのいい所でファミレス集合!』と連絡が入っていた。
あれから朝比奈さんの記憶に関する進捗が無い。早く何か少しでも……思い出させてあげたい。
公園を出る時、朝比奈さんが寝ていたベンチが目に入る。
「……まさか、ね」
その考えは杞憂だと自分に言い聞かせ、足早にファミレスへ向かった。
……
ファミレスに到着すると既に朝比奈さんと橘さんが到着していた様でこっちだよと声をかけられ、朝比奈さんの隣に座る。
「中々進まないですなぁ……」
机に突っ伏しながら橘さんは話す。
「何きっかけで思い出すかも分からないですし、ゆっくりいきましょ」
「う~むそれこそ目を覚ましたって言う公園とかさ、やっぱ何かあると思うんだよね。昔よく遊んでたとか」
「それかあそこ辺りで死んじゃった、とかね」
朝比奈さんの言葉で僕と橘さんがぴくりと反応する。
「え……あ、ごめん。暗い話しちゃって」
「朝比奈ちゃんが嫌じゃないならいいんだけどさ」
死んだ、か。極力そういう言葉は使わないように意識していたけど、死んでしまった場所で目を覚ました。有り得ない話じゃない。そんな事を考えていると朝比奈さんは話題を変えるように別の話を始めた。
「文化祭来月なんだっけ」
「ん?うんまだ何も決まってないけど、本番は来月だからそろそろ準備期間みたいなの始まるんじゃないかな」
「文化祭、か」
「何か思う所でもあるんですか?」
「んーいや……文化祭というか体育祭とか宿泊研修とかの時にも思ったんだけど、何も思い出せないと言うよりは『そもそも経験してない』んじゃないかなって」
「でも、制服着てるし高校生ではあったっぽいよね?」
「そう、なんだよね。でも……なんていうか私、小学校とか中学校見ると懐かしい気持ちにはなるんだけど高校はそうじゃないっていうか……ごめん上手く言えなくて」
ずっと休んでたとか不登校だったとか、そういう感じなのかも。なんにせよ少しでもヒントにはなりそうだ。
「あの、付き合わせてる私が言えることじゃないけど……あんまり深く考えなくていいからね。七瀬も橘さんも、いつか思い出せたらいいなくらいで考えてくれたらいいからさ」
「そういう訳にはいきません、朝比奈さんは僕の大切な友達です。何を言われようとちゃんとお手伝いします」
「私も約束したし、これでも朝比奈ちゃんには感謝してるからさ。そんな寂しいこと言わないで」
「2人共……うん、ありがとう」
はい、とハンカチを朝比奈さんに渡すと泣いてないよと笑いながら返された。そんなやり取りを見ながら橘さんが話し始める。
「ここずっと君達2人を見てきたわけだけどさ、本当に仲良いよね」
「そりゃ友達ですし」
「うん」
何か変ですか?と2人で顔を見つめ合う。
「正直羨ましいというか……」
「羨ましい?」
「僕達みたいに桐生くんともっと仲良くなりたいって事ですか」
「もう既に仲良しじゃん」
「いや仲はいいんだけど、新幹線で肩にもたれかかったりとか……私もしてみたいというか」
橘さんは少しずつ声が小さくなり、なにかごにょごにょと言っている。
「でも頭撫でてよしよしってしたんでしょ?そっちの方スキンシップ的にはレベル高くない?」
「え、そんなことしたんですか。奥手に見えて中々……」
「絶対振り向かせるって決めたからね」
少し照れながらそう言う橘さん、宿泊研修以降何かが変わったようだ。なんというか頑張ってる人はかっこいいなと思った。と、スマホが鳴る。誰だろうと確認すると姫野さんからだった。
『おす!オラ絢香!この間話したゲームスッゲェ面白かったゾ!(*´∀`*)
今度はこっちから面白いの紹介してあげるから楽しみにしておけwww
では(・ω・)ノシ』
知らない人からのLINEかな。無視しよ。
再びスマホが鳴る。
『あと文化祭の話だけど一緒にバンドやるゾ!
ギターもいいけどカスタネットで
b((((≧▽≦))))q"うんたん♪うんたん♪
参加用紙は昨日既に出しますたw(っ'ヮ'c)<クソワロリッシュ』
「……」
スマホ画面を見て頭を抱える。
「橘さん、文化祭のバンドの締切日っていつですか?」
「え?昨日じゃなかった?多分もう締切って、出るバンドは決まっちゃってると思うよ」
「僕やっぱり姫野さん嫌いです」
「え、なに突然、どしたの……?」
「大丈夫……?」
心配そうに見つめる二人を見てこの二人とはずっと仲良くいられるように頑張ろうと思った。
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