第23話 私は恋をしている

「……ん」


 気がつくとおでこが少し冷たくて気持ちがいい。あれ、私少し寝ちゃってたのかな。スマホで時間を確認しようと辺りを見回すとすぐ側に人が居た事に気がつく。


「わ、なんだ大河か……って大河!?なんでいるの!?」


「おう、あんま大きい声出すと頭痛くなるぞ」


 特に質問に答えることなくコンビニの袋にゴソゴソと手を突っ込んでいる。市販の薬やポカリ等が透けて見えたけど私の為に買ってきてくれたのかな。


「なんか怖い夢でも見てたのか、少し泣いてたから」


「んえ!?そ、そうかも?ごめんよく覚えてないや、あはは!」


 マジか私……!なんという姿を見られているんだ……。恥ずかしさを誤魔化すように渡されたポカリを勢いよく飲む。


「ま、相談したくなったら言ってくれ。いつでも聞くからよ」


 またそんな優しいこと言って私の気持ちも知らないでさ全く。とっくの昔に諦めてるはずなのに……嬉しくなってしまう。


 でも……もう、もういいんだ、前に進まなきゃ行けないんだ。聞かなきゃいけない、告白できた?って。うまくいったでしょ?って。


「……」


 口が開いて、声が出ない。


 なにしてるの私、大河も黙っちゃって気まずい気持ちにさせちゃうよ。


 ……そのまましばらく沈黙が続いて大河が口を開いた。


「フラれた」


「……え?」


「絢香にフラれちまった。せっかく手伝ってもらったのに失敗しちまって悪ぃな」


 あっはっはと笑いながらとても大事なことを言われて言葉が上手く出ない。フラれた……なら私は好きって伝えてもいいって事?


「いや、告白はしたんでしょ?それでフラれ、ちゃったの?」


「告白も結局しなかった。詩乃が倒れたって聞いて出来る限り急いで来たし」


「何それ、フラれてないじゃん!だったらまだ間に合うよ……!」


「違うんだ。俺が告白する前に絢香の方から『私、誰とも付き合う気ないわよ』って言われちまってな、まぁ……気づいてたのかな」


 眼鏡をかけてよく見ると大河の目が少し赤かった。笑いながら言ってるけど、今すごく悲しいんだ。すごく辛いんだ。


「大河……」


 私は自分のことばっかりだ。そんな状態で大河は私の部屋まで来てくれてるのに。コンビニの袋を見ると私の好きなお菓子とかゼリーとかが入っている。こんな時でも大河は……。


「ま、ネガティブになってもしょうがねえしな!俺が男として魅力が無かったってだけの話だ!ごめんな体調悪いのに辛気臭い話しちまって、俺は部屋にいるからなんかあったら」


「違うよ」


 大河の言葉を遮り、しっかりと目を見つめる。


「大河は昔から優しくて、かっこいいよ。いっぱい魅力あるよ。今日だって大河がいちばん辛くて悲しいのにこうやって私を心配してくれてるじゃん」


 頭に優しく触れる。


「無理しないでよ、本当は悲しいんでしょ、辛いんでしょ。私の前で無理しないでよ」


「……」


「頑張ったね、大河」


 表情が私には見えないけれど、少しの間だけ大河は肩が震えていた。




 ……




 帰りの新幹線に揺られながら改めて私は考える。私は大河が……うん、好きだ。なんか改めてこういう事すると恥ずかしいな。


「顔少し赤くないか、まだ少し熱あるのか?」


「ううん、大丈夫!元気満たん!」


 隣に座る大河に向かって力こぶを見せつけるとそっかと笑いながら言われた。いつ誰に大河を取られちゃうか分からない。もう後悔はしたくないから、好きって言えるうちに伝えないとなぁ……。


 トイレ行ってくると大河が席を外す。ちなみに七瀬くんは疲れているのか眠っていて朝比奈さんに体重を預けている。朝比奈さん別に気にしてないみたいだし、仲良すぎない?


 と、私の目線に気がついたのかは分からないが朝比奈さんが話しかけてきた。


「なんかスッキリした感じだね、いいことでもあったの?」


「うーんいいことがあったともいいづらいんだけど」


「?」


 まあ、あれだ。


「今『恋』してるからね、私は」


 そんな別に珍しくもない様なことを笑顔で言った。

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