第18話 小森美羽の夜

 あのファミレス……いや体育祭、なのかな。あれ以降私はなんだかおかしい。ツムツムと上手く話せない。目が合うと逸らしてしまうし、話しかけられるとあれやこれやと理由をつけその場を離れてしまう。そんな時決まっていつもドキドキしていて……。ツムツムに申し訳ない。

 そして今何故か私はツムツムと同じベッドで寝ている。顔が近い、というかほぼ胸に当たっていて私が抱きしめてるみたいな……。


「と、というかさーツムツム……なんであややんの部屋から出てきたの?」


 変なことを出来る限り考えないように、小声でツムツムに話しかける。


「んっ……すみません、耳がくすぐったくて」


 そんな声出さないでーーーーーー!!!!!!


「え……っとですね、なんと説明したらいいものか。ちょ、ちょっと姫野さんにお呼ばれしてお話してたら寝てしまって?それで帰ろうとした所先生が居まして……という感じです」


 ツムツムは少し歯切れが悪そうに言った。胸がズキンと痛む。


「そ、そっかー……あややんのこと気になってたりするの?」


 何かを隠そうとしているツムツムに対して詰め寄るように質問する。


「いや、それは無いです」


 なんだか呆れ顔で言われた。良かった、それは違うらしい。




 良かった……?

 ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなる。


「……暇だしさー、このまま話してもいい?」


「は、はい……すみません、僕のせいで」


「ツムツム、その、好きな人とかいるの?」


「いや、いないですよ。桐生くんにも聞かれましたけど恋愛とかしたことあんまり無いので」


「前に誰か好きになったことがあるの?」


「恋っていうか憧れてる女の子がいまして、急にいなくなっちゃったのでそれ以来会えずじまいですけどね」


 ツムツムからほかの女の子の話を聞く度、胸がズキンズキンと痛む。


「あ、あの小森さん。少し離れた方が」


「……ごめんね、狭いからさー」


 私の方は少し余裕があるのに嘘をつく。意識をしていなくてもツムツムの匂いがする。


「小森さんこそ、好きな人とか居ないんですか?」


「え?わ、私はまだ恋愛とかしたことなくてさ〜」


「そうなんですか?小森さんモテそうなのに」


「ま、まぁ私性格良いしねー」


「いや、それもありますけど小森さん可愛いですし」


「なっ……ちょ、っと待ってねー」


 顔を片手で隠す。顔が熱い。なんてことを言い出すんだ、この子は。ヤバいな、心臓静かにしてー……!

 5分程落ち着くまで時間がかかり、改めてツムツムに話しかける。


「もう大丈夫ー、ごめんねツムツ……ム?」


「……すぅ」


 え?まさか、寝た?


「おーい?おーーい?」


 マジで寝ちゃった……うわー顔ちっちゃい。ほんとに女の子みたい。

 余程疲れちゃってたのかな、本当あややんの部屋で何してたんだろな。少しだけ、眠らせてあげよう。


「……」


 頭を優しく撫でる。艶やかで綺麗な髪の毛。小さくて、温かくて。ずっとこの時間が続けばいいのにと、そう思った。

 幸せそうに寝息をたてるツムツムに小声で話しかける。


 私は……。


「……ね、さっき1つだけ私嘘ついた」


 ずっと前から気づいていたこのドキドキにやっと名前を付けられる。






「好きな人、いるよ」






 小さなその唇に私の唇を重ねた。

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