第10話 体育祭開幕

「ふぁ……」


「七瀬、眠そうだね」


 今日は体育祭当日。今日まで色々な準備の為に遅くまで残ったりと大変だった。本来なら休日であるはずの今日も例外ではなく、各クラスのリーダーは朝早くに学校に来て設営、来賓の保護者用のスペース等を準備していた。

 僕の親は割と忙しいそうで体育祭には来れないそうだ。まあ中学では毎年来てくれたし高校はそんなもんかなあと思う。

 特に気にすることも無く家を出る時に妹の鈴に


「行けたら行くわ」


 と言われた。一人で来てどうするつもりかは分からないが気を使ってくれたのだろうか。そんなことを考えていると後ろから元気な声が聞こえた。


「ツムツムおはよー!なんだなんだ、眠いのかー?」


「おはようございます、元気ですね小森さん……と橘さん」


「お、覚えててくれてるんだ。おはよー七瀬くんだよね。美羽がお世話になってます」


 じゃまた後でねーと小森さん達は先輩の所に向かっていった。あの女子誰々と朝比奈さんが僕の肩を叩く。


「姫野さんグループの1人、橘詩乃たちばなしのさんです。眼鏡をかけててそれ以外は特には知らないですね」


 ふーんと言いながら小さくなった2人の背中を見つめていた。




 ……




 時刻は進み開会式も終わり本格的に体育祭が始まる。赤組白組共に出場している生徒以外は練習した応援を頑張っていた。


「おおおおおおらあああ!!!どけどけええええ!!!」


「「おおおおお!!!頑張れー!!!」」


 同じクラスの男子が騎馬戦で何個もハチマキを獲得し、応援部隊も盛り上がる。ちなみに僕の騎馬はすぐ取られた。



「すごー……」


 やっぱり中学でなにかスポーツでもやっとくべきだったかなぁと今更後悔してしまう。

 そのままの勢いで赤組がポイントリードする形で騎馬戦は終わり、応援席へ。

 入れ替わる形で女子は100m走。


「しゃああ!!お前ら気合入れて応援するぞ!!!」


「「おおおおお!!!!!」」


 3年生のリーダーのかけ声と共に必死に応援。と、3年の陸上部部長、末原先輩の番が来る。短距離が得意なのかは分からないがスタートから余裕を持ち1着でゴール。速えぇ……。


「やっぱすげえな末原先輩」


「んな、これでうちら更にリードだな」


 近くの男子の会話を聞きながら、やっぱすごいんだなあと小学生並みの感想を持ちつつ、体育祭は進んでいった。

 午前終了時点で赤組がかなりリードする形となった。



 ……



「兄さんここ、ここ」


「ん?」


 お昼を食べようと移動しているとよく聞きなれた声が聞こえた。


「あれ!?本当に来たの!?」


「うん、頑張ってたねえ。すぐ騎馬崩れてたけど」


「だまらっしゃい。あれでもお兄ちゃんは頑張ったんですう」


「結果が全てだよ」


 なんでそんな事言うの?何かあったの?過程も大事だよ、鈴。

 そういえば朝比奈さんは開会式のタイミングで応援してるからねとどこかに行っちゃったが大丈夫だろうか。


「でもなんで体育祭のリーダーなんてやってんの?兄さんそういうタイプじゃないでしょ」


「ジャンケンで負けた」


「ああ……そういう事ね。あごめん兄さん、友達が来たので私はこれで」


 すまぬと手を合わせ目を瞑る鈴。


「分かったわざわざ来てくれてありがとう、鈴」


「別に……私が来たかったから来ただけだよ、頑張りなよそれじゃ」


 妹の背中を見送りながら、なんとなく頑張るかーと考えながら歩いていると何かがぶつかってきた。


「おっとと、大丈夫ですか?」


「ごめんね!急いでて大丈夫……って君1組の!」


「え、末原せんぱ……」


「ごめん!クラス対抗リレーの時に何か役割ある!?」


 言い終わる前に言葉を返される。


「いや、特には無かったと思いますけど……」


「放送席がうちらでやってるのは知ってるよね?」


「あはい、放送部とかそっちの方でやると思ってたので初めて聞いた時は驚きましたけど」


 誰が放送席に座って実況するか決める時まさかまたジャンケンにでもなって僕が選ばれないかとドキドキしたものだ。


「クラス対抗リレーの時実況してくれる子が1人体調崩しちゃって、その時空いてる子が誰も居なくてさ!君に代わりをお願いしたいの!!」


「……え?」


「元々2人の予定だったからもう1人の子がメインでやってくれるし、最悪そこにいてくれるだけでもいいから!ね?お願い……!」


 え?え?


「というわけで頼んだ……!2時くらいになったら放送席の方に行けばいいから!それじゃ!!」


「いや」


 そう言いかけた時には末原先輩は既に消えていた。やっぱ陸上部キャプテンは伊達じゃないね……ん?という事は


「ヤバ……」


 目の前が真っ白になった。

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