第11話 たった1人の声援

「あ、あの呼ばれました七瀬です。よろしくお願いします」


「君が七瀬くん?よく来てくれたっすねー!よろしくっす!」


 2年生の女子の先輩にバシバシと背中を叩かれる。吐きそう。えっと確か林檎先輩。


「そ、それで僕は何をすれば……」


「んーまあ私が基本やるからなんか盛り上がるようなこと言ってもらえればいいっすよ」


「盛り上がること!?」


 何ですかその注文!?盛り下げることは得意だと思われるが……。


「まあなるようになるっすよ、その場のノリ!ほら、そろそろ準備して」


「えー……」


 マイクテストや機材のテストを終え、林檎先輩が深呼吸を行う。意外と慣れてるっぽい人も緊張するのかな?と思い少しだけ落ち着く。


『さてさて、ここまで戦ってきました体育祭も残すところクラス対抗リレーだけとなってしまいました。名残惜しいところですが悲しんでる場合じゃないぞ!!!最後まで諦めず盛り上がっていきましょー!!!』


 おおー!!!と遠くからそれでもしっかりとした声が聞こえる。というか林檎先輩すごい。これ僕いらないんじゃないですかね。


『現在赤組リードが続いておりますがどうでしょうか、七瀬くん』


 はい、七瀬くんと簡単に質問が来て驚く。言葉につまりながらも何とか答えた。


『ぴ!?え、えっとそうですね。僕は赤組なのでやっぱり赤組を応援しています』


『おっとお!つまり赤組が勝つと!白組負けてられないぞー!!?まあ私も赤組なので赤を応援しています』


 応援席から声が届く。


「よく言ったぞ七瀬ー!!!」「うおおおおお!!!」「ぴ……?」


「白組なめんなー!!!」「偏った実況すんじゃねえぞー!!!」「ぴ……?」


 体育祭も終わり際だというのに皆さん元気なようで何よりだ!泣きそう。




 ……




 ふうと1つ深呼吸をする。来賓の方を少しだけきょろきょろと見渡すがお母さんの姿は特に見当たらない。忙しくて来れなかった感じかな。

 まー……仕方ない。そんなこともあると気持ちを落ち着かせる。


『さてそろそろ準備が出来たようです、では七瀬くんこれから走る選手達に一言貰えますか?』


『赤組、白組、頑張ってください』


『はい、ロボットの様なコメントありがとうございます。……さあ銃声と共にスタートをきった!!!まずリードするのは……』


 第1走者がスタートをきる……というかさっきからツムツム何してるの?全然落ち着けないよ。なんか応援席に笑われてるし。私は1年1組のアンカーなのでまだグラウンドの真ん中で待機している。私の2人くらい前の人にバトンが渡ったらレーンに入る。


「おーおー七瀬くんちゃんとやってるなあ。やっぱ頼んで良かった」


「末原先輩が頼んだんですね、あんまりうちのツムツムいじめないでください」


「違うよ!ほんとに人が居なくてどうしてもって頼んだんだよ」


「……分かりましたってちゃんと了承してました?ツムツム」


「え?し、してたと思うけど?」


 おい、してないなさては。まあツムツムは優しいから多分結局は引き受けちゃってただろうけど。


「ま、私がいるから勝ちはきまってるけども!!!共に1位2位でフィニッシュといこうか、小森ちゃん」


 実況席に耳を向ける。


『3年1組、1年1組ほぼ同時に6人目にバトンが渡るー!!現在1位は3年3組、2年4組、白組優勢だー!!!命燃やして走るんだー!!!赤組頑張れー!!!』


『怪我だけには気をつけて下さい』


 わー!と白組の応援席が沸く。

 8人目がアンカー……。私と末原先輩がレーンに入る。息を吐く、大丈夫。練習は沢山した。私のクラスの姿が見えた。


「すみませんお先に失礼します。末原先輩」


「すぐ追いつくよ、待ってな小森さん」


 周りのアンカーがバトンを受け取り始めそれに少し遅れてバトンを受け取る。


「ご、ごめん!受け取って!」


「後はまかせて……!」


『1年1組もアンカーにバトンが渡りました!は、速いです1年1組……えっと小森さん!グングンと抜いていくー!!』


 この感じ、懐かしい。気持ちがいい感じ、周りの声がそのまますり抜けていくようで。私だけの世界になった感じ。

 先頭の上級生を追い越し後はもう誰も居ない。


 いける、このままいけば勝ち……


「お待たせ」


 近くで声が聞こえハッと意識が戻る。景色が音が元に戻る。


『陸上部キャプテン末原先輩だー!!!!!!速い、速い!赤組3年1組、1年1組がワンツートップです!!!』


 歓声が聞こえる。もちろん末原先輩へ向けたものだ。大逆転劇、しかも赤組ワンツー。

 速い……流石キャプテン。当然だ、そもそも3年生なんだし実力差がある。

 胸が苦しく、痛くなる。


 もう、十分だよね。最初から何となく分かってた。大差がある状態でなら勝てるかもって思ったけど追い抜かれてしまった。

 そもそもこれ以上誰も私に期待なんてしてない。お母さんも来ていない。このまま2位でよく頑張ったよと凄かったよと皆褒めてくれるだろう。


『さあゴールテープまで後少し…むごご!?』


 景色の速さが少しだけ落ちていく……









『頑張れえええええーーーー!!!!!小森さああああーーーーん!!!!!』









 最近よく聞く声がした。突然の大きな声に数秒、グラウンドが静かになる。

 ……何してんのさ、ツムツム。そんなキャラじゃないでしょ。今頃顔真っ赤なんじゃないの?全く。そんなことされるとさー……。


 諦めたく、無くなるじゃんか


「……ぁあああああああああ!!!!!!!」


 走れ、走れ!もっと!もっと速く!!!私を応援してくれたツムツムに恥をかかせるな!!!


『小森さん、は、速い!!!ゴール直前で末原先輩との距離をどんどん詰めていくーーー!!!残り30……20……ゴールテープをきるのは……』


 足がちぎれそうだ……っ!いけ……いけっ!!!


 ちぎれそうな足を前に進め、ゴール直前に見た末原先輩は少しだけ……笑った気がした。


『ゴオオォーーール!!!末原先輩1着でゴールテープをきりました!!ほぼ同時に小森さんもゴオオォーーール!!!赤組ワンツーフィニッシュぅぅ!!』


「はっ……はぁっはぁっ……」


 負け、たか、くそっ……。


「はぁ……っ小森さんっ、すごかったよ是非、陸上部に」


「お断り……っします……っ!」




 ……




「あ゚ーーーーつがれたあ……」


 体育祭も無事終わり放課後。あややんから打ち上げどうよ?と誘われたが疲れたから後日でとお願いした。

 帰る前にツムツムと話がしたかったのだが、放課後になるやいなやどこかへぴゅーっと走っていった。また例の捜し物だろうか。


 ……少しでもいいから話したかったけど。

 上履きを履き替え、外に出る。


「ま、しゃーない」


「なにがしゃーないって?」


「え?……お母さん!?」


「お疲れ〜見てたよ」


「え、え!?来てたの!?」


「ギリギリになっちゃったけどね、美羽が走ってたとこはちゃんと見た」


 そっか、ギリギリでも見に来てくれたのか……。


「すごかったね美羽、やっぱ美羽は色々出来ちゃうね〜」


「へ、へへまあ私要領いいからね」


「んー、でも多分いっぱい頑張ったんでしょ?」


「……え」


「確かに、美羽は勉強も運動も出来る子だけどそれはあなたが見えないところでたくさん努力してるから。昔っからそうなのよね〜隠れて頑張るんだから」


 そう言いながら、私の頭を優しく撫でた。


「いつも家に帰るの遅くなったりしてごめんね、寂しくない?」


「……もう、高校生だよ。大丈夫心配しないで」


「そう……。なーんか寂しいわね、我が子の成長は」


「でもたまには一緒にご飯とか食べたい」


「……。うん、そうね、分かったわ」


 照れくささを隠すように大きな声で私は話す。


「今日のご飯は何!!!」


「コロッケでも作ろうかしら、私が」


「本当!?やった、じゃあ早く帰ろ」


「ちょちょ、早いって〜」


 その後久しぶりに2人で歩いて帰った。学校の事とかなんでもないようなことを話しながら。

 何かを話す度嬉しそうにお母さんは聞いてくれた。いつもに比べて歩く速さが遅い気がした。




 ……




「ここなら人とか中々来ないし、大丈夫じゃない?」


 メガネを上げながら橘詩乃は話す。時刻は放課後。早く、早く答えを聞きたいと焦ってしまう。使われていない空き教室で彼女の目を見つめ、ハッキリと見つめ返される。


「……っ!」


「ほらー聞きたいこと、あるんでしょ?私もそんなに時間ある訳じゃないし急がないと帰っちゃうよー」


 何故、なんで?どうして?意を決して私は……


「なんで私のこと、見えてるの……?」


 朝比奈朝日は口を開いた。










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