第4話 約束

 唐突だが私、朝比奈朝日は今日初めて会った男の子の部屋で今布団を敷いている。字面だけ見るとヤバめ。

 七瀬は僕が床に寝ましょうか?と言ってきたのだがそれを断固拒否。これ以上は私は貰いすぎている。感謝してもしきれない。


「よし、じゃあ電気消しますね」


「うん」


 パチリと瞬時に暗くなる。布団……暖かい。固いベンチと違って柔らかくて少し泣きそうになってしまう。

 目を瞑ると自然と考えてしまう。これから私はどうなるのだろうか。家族は心配してるのだろうか。そもそも私は……なんなのか。


「七瀬、起きてる?」


 怖くなって、七瀬に声をかけた。


「はい、起きてますよ」


 するとこっちを向いて笑った。


「七瀬、なんか女の子みたいだよね」


「え……」


 笑顔が消えた、まずい。なにか地雷を踏んでしまったか。


「お、男らしくないですかね……はは」


 そう言いながら七瀬は反対の壁の方へゆっくりと向き直り体を小さく丸めた。


「や、違くて、顔とか童顔だしさ。こうして一緒の部屋で寝てるのに緊張しないし」


「褒められてる気がしませんねー」


 布団の中から籠った声でそう言った。


「友達出来ないって言ってたからさ、多分距離が近いと照れちゃうんだよ他の男子は」


「照れる……」


「そうだよ七瀬に優しくされちゃうと他の男子は好きになっちゃうレベルで可愛いと思うよ?」


「な、なるほど……なんか女の子にそういうこと言われると照れますね」


 女装とかいけそうだよな……と考えていたが声には出さずに胸にしまっておくことにした。


「朝比奈さんはカースト上位って感じがします」


「カースト?」


「クラス内で一軍、二軍みたいなのあるじゃないですか、なんとなく。あれの一軍って感じです」


「そうかな、うーんどうだろ」


 何せ記憶がないからそういうのはどうだったのだろう。確かにそこまで人付き合いが苦手そうとは思わないかも。


「……じゃあさ」


「はい?」


「私が七瀬の友達作り手伝ってあげる、私の都合に付き合わせるんだからそれくらいはさせて」


「本当ですか!?」


 ガバッと勢いよく七瀬が起き上がる。まじですかーやったぁ……と小声で言っている。そんなに私に期待されてしまうとって感じだけど、ちゃんと手伝うと心に誓った。


「うん、だからはい、約束」


 そう言って小指を七瀬に差し出した。


「は、はい!ありがとうございます!」


 あまりに純粋無垢な笑顔にこっちまで照れてしまう。こういう事クラスメイトにもやってるから近づき難くなってるだけじゃないの?


「じゃあ今度こそ寝ましょうか」


「うん」


 しばらくして静かになると、寝て起きたら今日起きたことは全て夢だったのでは無いか……。そんな最悪な妄想をしてしまう。今日、眠れるかな。


「朝比奈さん、また明日です」


「!」


 突然、そんなことを言われて不思議と安心した。また明日、か。そうだよね。


 私の事を見える人が七瀬で良かった。

 小指に少しだけ残った温かさが夢では無いと言っているようで、今日はよく眠れそうだ。

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