第2話
「来たよ。」
「…入りな。」
椅子に座り、靴をきれいに磨いてから私は家の中へと上がる。家、なのだ。この人は殺人を商売としているクセに、すげえメルヘンな今風のハウスに住んでいる。冗談じゃなく、本当にそんな感じ。
「あれ、旦那さんは?」
「まだ帰ってきていない。」
「遅いね、彼。」
「おう。」
女性のくせに、おっさんのような口の利き方をする。まあ、それは仕方がないのかなとも思う。だが、彼女は普通を望んでいた。その代償として、私の世話を押し付けられているのだ。結局、逃げられなかったといった方がいいのか、それともこういう形だけれど、独立できたのだ、といった方がいいのか、まだ分からない。
「うわあ、飯だ。」
「そうだよ、飯だよ。」
テーブルの上には豪華な食事が並んでいた。私は、旦那さんという男性にはあったことがない。旦那さんは、彼女が私の世話を終えたその後に知り合った人だという事だ。
噂によると、結構禿げていて臭い普通の中年、という事だが、大きな企業の社長なのだ。
まあ、でもそれも理解できる。
この人は年齢に似つかわず、とにかくきれいな人だった。
美しい、という言葉が当てはまるのかもしれない。
とにかくきれいで、周りの人間が二度見をしてしまう程だった。
「うめえ、これ。」
「おう、食べな。」
「でもさ、何で私会っちゃいけないんだよ。」
「当たり前だろ、どこの世界に一般人に私は殺し屋です、なんて白状する馬鹿がいるんだよ。旦那は何も知らない、そして私は今の現実をあんたらの世界から許されている。人生なんて短いんだ。私は、これで満足してるんだから、放っておいてくれ。」
ちょっとすねた顔を作り、彼女は笑った。
まあ、そうなのだ。
私たちには掟がある。
それは守る守らないじゃなくて、守らないという選択肢などハナからなかった。
だって、守らないことは死と同然だったから。
今までに何人も死んでいる。殺されている。
けれど私はそのたびに、なぜこいつらは私に殺されると分かっていながら阿呆のように間違いを犯すのだろう、と不思議だった。
けれど、断っておくけれど。
今の私には分かる。
どうしようもないのだ、落ちる、という言葉が的を射ていた。
私は、恋に落ちた。
そいつは、だが私の気持ちになど気付いていない。
「こんにちは。」
もったいぶって含み笑いを浮かべる彼女の態度が腹立たしかった。
可哀想だ、と思った。
町の中に捨てられた小動物のようだとさえ思った。
けれど、それは勘違いだった。
この女は肥大した欲望を大事に秘めながら、成し遂げたいことに猛進していたのだ。
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