まだもう少し、時間がかかる

@rabbit090

第1話

 ああ、今日の獲物はやけによく喋る。

 早くひとりになってくれないと、私の腕前では周りの人間まで殺してしまうのだろう。

 

 「お前、これ持ってみろ。」

 「…え?」

 泣いてばかりいる私に、あの男は拳銃を差し出した。正直、訳が分からなかったけれど、6歳にして家族を交通事故で亡くし、行き場のなかった私にとっては身元引受人になってくれたこの祖父の言いつけを、守らない理由など無かった。

 と、こういう書き方をすると、私は祖父を恨んでいて、こんなことに巻き込みやがってと思っていて、なんて感じるのかもしれないが、それには誤解がある。

 「パアーンッ!」

 祖父に言われた通り軽い銃声が響き渡り、私はのけぞってしまっていた。そして、そんな姿を見てあの男は言ったのだ。

 「いいよ、お前はそれでいいんだ。これからはこうやって生きていけ。なあに、生きることなんて大したことない、な、いいだろ?」

 今考えれば何がいいのか分からない、手はずを軽く教えただけで幼児に拳銃を差し出し笑っている。

 けれど、私はそれ以降この世界以外を知ることは無かった。

 今は別に、言ってしまえばただ生きているだけとでも言えてしまうのだろうか。

 私はもう震えることのない足と、響き渡る悲鳴を感じながら、その場を立ち去る。

 

 「これ、またあいつの犯行ですよ。」

 「ああ一度カメラに写っていたらしいな。でも変装していて分からなかったって。」 

 「そうなんですよ、あんなに顔とか隠しているのにスラッとしているせいなのかただのお洒落さんみたいに捉えられて不審者だと思われないみたいなんです。」

 「厄介な話だな。今年に入って何人目だ?」

 「3人、くらいでしょうか。」

 「そうだな、でもこいつ腕前は悪いんだよな。でも見つからないことにはたけている。3人のうち、今日の奴含めて誰も死んでないんだろ?」

 「そうなんですよ、そこが一番ミステリーです。被害者、結構恨まれている人間が多くて、依頼を受けて殺人をっていう感じなはずなのに、下手過ぎるでしょ。」

 「でもさ、それ依頼自体が殺せってことじゃないんじゃない?」

 「いや、逆上した人間が、病院、あの被害者が入院している病院に乗り込んできて、死んでないじゃないか、と言って自ら拳銃を所持し乗り込んできたこともあるんです。」

 「…変だな。」

 「変です。」

 

 ここ最近街中を惑わせている物は、なんだろう。

 でもやっぱり、私か。

 こうやって普通の人間のふりをして街中を歩くことが好きだった。

 私は、もしかしたら何かを求めているのだろうか。

 ふと、そんなことを考える。

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