海の上で
涼
最高の夏
プカ―――……。
僕は、海に浮いていた。そこは、浅瀬だ。僕は、泳げないから、皆が水深の深いポールを目指して泳いでゆくのを、プカ――……、と浮いて見ていた。
波も、穏やかで、僕の浮遊を邪魔するものは何もない。ゆっくり、ゆっくり、波が僕を波打ち際に運んだり、また、貝殻でも拾えそうな浅瀬へ戻したりしている。
なんと、気持ちの良い事か……。
僕は、泳げないから、夏が嫌いだった。プールの授業なんて、くそくらえと思ったし、実際、僕のあまりの酷い泳ぎ方に(溺れ方に)、先生も、危険と判断し、僕は、見学を勝ち取った。
海なんて、この歳、18歳の高校最後の夏、友達に、
「高校最後の夏なんだしさ、せっかくだから、行ってみようぜ」
と、しつこく誘われるまで、嫌だ嫌だとごね続け、来たことが無かった。
しかし、卒業旅行もかねて……という事で、遠出する事になった。そして、始めてきた海は、沖縄の海だったのだ。
海の水は、本当に透明で、きったない、泥水のような海を、テレビで見たことがあるが、それとは、天と地ほどの差があった。
美しい。
そんな言葉がぴったりだ。
――……、と思いながら、僕はプカ―……、と、只々、浅瀬で浮いていた。太陽は眩しい。水温はきっと高いのだろう。学校のプールとは違って、震えることなど一切ない。天気の悪い日の、学校のプールは、最悪だ。
「
沖まで行って、帰ってきた友達が、僕にそう言う。
「いや……、溺れたら、洒落にならない……」
「いや、膝なら大丈夫だ!」
「もし、流されたら?」
「いや、今日は全然風ないし、波も穏やかだし、何の心配もいらないと思うけど」
「…………」
僕は、少し迷った。確かに、沖縄まで来て、こんな奇麗な海を前に、浅瀬で浮いているだけ……。貝殻を拾うだけ……。なんのこっちゃいな高校3年生だ。
僕は、友達の言葉を信じて、そして、初めて感じる、水への好奇心を抑えきれず、そっと、少しずつ、少しずつ、足を海の中へ浸してゆく。
気持ち良い。ほんのり冷たくて、でも、砂はさらさらで、時に、貝殻が足の裏に突き刺さる。
僕の、大冒険の始まりだった。
膝下ギリまで来ると、僕はしゃがみ込んで、そっと、体も海に浸した。そして、海の水を顔にかけ、まるで幼稚園児がするように、顔をパシャッと水面に押し込んだ。そして、ゴーグルを通して見えたのは、何とも奇麗で、美しい、今まで見た事の無い、色鮮やかな珊瑚や、ちっちゃな魚たち、海藻、そして、信じられないほどの、透明度。
僕は、感動した。
友達は、僕がそこまでやり遂げたのを見ると、また、他の友達と、沖へ泳いでいった。
その時、僕は、我慢しきれない何かを、心を貫いた何かを、吐き出すかのように、泣いた――……。
太陽は、眩しい。
海は、美しい。
砂浜は、黄金。
こんな場所、あったんだ……。こんな天国、あったんだ……。こんな命の住処、あったんだ……。
僕は、ひたすら感動した。
そして、海が……水が嫌いな僕を、無理矢理連れて来てくれた、友達に、僕は、心から、お礼を言いたかった。
そんな、想いも知らず、奴らは、可愛い女の子がどうとか、誰が一番砂浜に戻れるかとか、そんなくだらない話ばかり、行動ばかりしている。
それでも、僕には、最高の、夏だった――……。
海の上で 涼 @m-amiya
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