第20話

「美樹!!」



明宏がすぐに駆け寄って抱きしめる。



これですべての悪夢はおわった。



そして街は元通りになった。



お守りをもっていない人たちはみんな、なにが起こったのか覚えていないようだ。


☆☆☆


「死んだ人も全員元通りになったんだね」



荒れ果てた三福寺で、佳奈はつぶやいた。



今日は佳奈が持っていたお守りを返しに来たのだ。



祖母の形見だったけれど、これはもう持っているわけにはいかなかった。



「自分が死んだなんて、思ってもいないんだろうなぁ」



慎也が苦笑いを浮かべて答える。



慎也も美樹も自分たちが地蔵だったときの記憶を持っていた。



けれどその記憶は日を重ねるごとに薄れていき、やがて消えてしまうだろう。



「私たちは絶対に記憶が消えたりしないけどね」



冷めた声で言ったのは智子だった。



この街の復讐に手をかした5人も戻ってきた。



しかし記憶はしっかりと刻み込まれて消えることはない。



それが祖先が首取りであった智子たちの背負う、宿命だった。



「私達も忘れないよ」



佳奈は真剣な表情で言った。



記憶から消えても、記録として残しておくことはできる。



すべてが日常に戻ってからずっと考えていたことがあるのだ。


☆☆☆


それから佳奈たち6人と智子たち5人は図書館へ来ていた。



郷土資料のコーナーへ向かい、持ち出し禁止のファイルを開く。



ファイルのクリップを開いて、佳奈はそこに新たなページを挟んだ。



自分たちが経験したことを忘れないうちに書き記したものだ。



それは膨大な寮に及んでいたが、どうにかファイルに止めることができた。



「このファイルはこうして更新されていくのかもしれないな」



明宏が呟く。



きっと、そうなのだろう。



自分たちが知らない間に地蔵のイケニエが生まれ、そして戦ってくれているかもしれない。



それをこうして残しておくことで、自分たちも知ることができる。



「もしも地蔵を倒すことができなかったらどうなってたんだろう」



図書館の外へ出てから美樹が呟く。



「この街は壊滅して、人は元には戻らない」



智子が答えた。



その表情がとても冷たく感じられて、佳奈は一瞬寒気を感じた。



街の様子はいつもと変わらず平和で、何事もなかったかのように時間が進んでいく。



だけど本当に?



自分たちはイケニエではなくなった。



お守りも返して、もう地蔵を見ることもなくなった



でも、それで本当に終わりだろうか?



ただ自分たちだけが開放されて、見えなくなっただけなんじゃないか?



もしかしたら、街の壊滅に失敗した日からすでに次のイケニエが決まったんじゃないか?



そんな不安が押し寄せてきて、佳奈は智子を振り向いた。



「ねぇ」



と声をかけようとしたけれど、智子たち5人は佳奈たちとは逆方向へ歩いて行ってしまうところだった。



まるで別々の人生を歩んでいくかのような切ない気持ちがこみ上げてくる。



「佳奈、行くぞ」



慎也に声を掛けられて佳奈は慌てて追いかけた。



今はこうしてみんなと一緒にいられることを噛み締めたい。



幸せを感じていたい。



「よーし、今日は花火するぞ!」



慎也の提案に全員が一気に盛り上がる。



それは地蔵のイケニエの恐怖を払拭してしまうような明るさだった。



ただ……佳奈はどれだけ笑っても、騒いでも、いつまでも智子たちの冷たい顔を忘れられないでいたのだった。





END

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首取り様4 西羽咲 花月 @katsuki03

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