第14話

☆☆☆


全員で1度柏木家へと戻っている途中で、もう1体の地蔵を見つけることに成功していた。



その地蔵の顔を確認したかったけれど、背中を向けていて確認することができなかった。



もしもあれが慎也や美樹だったら?



そう思うと佳奈の心臓が早鐘をうち始めた。



地蔵がこちらに気が付いていない間に首を取ることがなによりも重要だ。



それは理解しているが、心が追いついていない。



あの地蔵の顔は慎也だったとき、そしてそれが切り離されたとき、自分は正気でいることができるだろうか。



あの夢の中で見てきたような絶望が現実のものになってしまうんじゃないだろうか。



せめて、さっきの地蔵を倒した結果を見届けてから、次の地蔵にであいたかった。



そんな、絶対に口に出せないようなことが脳内をグルグルと回る。



「行くぞ」



刀を握りしめた大輔が大股で先頭を行く。



佳奈は咄嗟に大輔を止めてしまいそうになるが、どうにかそれを押し殺した。



「大丈夫、きっとうまくいく」



明宏に声をかけられて佳奈は頷くしかなかった。



あの地蔵の頭は美樹かもしれないのだ。



明宏は今、きっと自分と同じような葛藤を抱えてるに違いない。



大輔が地蔵の真後ろで刀を振り上げる。



それはそのまま弧を描いて地蔵の首を切り落とした。



地蔵の首はまるでスローモーションのように落下し、転がる。



それは途中まで見たことのない女の顔で、そして止まるときには地蔵の石に戻っていた。



胴体があったところには地蔵の体が立っている。



「……違った」



今回も慎也じゃなかった。



小さくつぶやいてため息をこぼす。



でもこれで2体の地蔵を元に戻したことになるのだ。



「行こう」



大輔に促されて、4人は再びあるき出したのだった。


☆☆☆


首探しをさせられているとき、地蔵に首がつく度に黒い化け物は体数を増やしていった。



しかし今地蔵の首を切り取る側に回ると、黒い化け物が体数を減らしていることが見て取れた。



あれだけ無制限に出てきていた化け物が今は同時に出てきても2、3体でとどまっているのだ。



「地蔵から首が消えたから、黒い化け物も消えてるんだ」



明宏は早足で歩きなっがら分析する。



もう少し早くこうして数を減らすことができていれば、街にあふれる人々の死体も少なくてすんだのかも知れない。



どれだけ地蔵の首を取ってもすでに死んだ人たちが生き返るわけじゃない。



この街はすでに、地蔵たちが望んだ通りの壊滅状態になっていた。



それからどうにか柏木家に戻ってきた4人は先程と同じように受け入れられた。



大輔が持っている刀を見た柏木は「よくやった!」と、まるで我が子のように佳奈たちの頭を順番に撫でていった。



高校生にもなって頭を撫でられうることになるなんて、思ってもいなかった。



「もう首も切ったみたいだな」



1人に言われて佳奈たちは顔を見合わせた。



「実里と翔太が無事に戻ってきた」



そう言われて隣の部屋に案内されると、そこには3人分の布団が敷かれていた。



右側と中央に眠っている2人の顔には見覚えがあって、佳奈は「あっ」と小さく声を上げた。



それは紛れもなく大輔が首を落とした地蔵についていたあの顔だったのだ。



「俺の娘の実里だ」



後ろから柏木が言った。



実里はきつく目を閉じていて青白い顔をしている。



けれど首はしっかりとついているし、呼吸もしている。



その隣の工藤翔太も同じ状態だった。



もう少しすれば目を覚ますだろうということだった。



残る1人は一生だろう。



彼にはまだ首がなくて、ひときわ大きな体は布団から足先がはみ出している。



「どうか、一生も助けてやってほしい」



いつの間にか本間がやってきていて、4人に向けて頭を下げた。



大輔が「当たり前だ。そうしないとこの街は壊滅するんだからな」と答える。



佳奈たちも同感だった。



慎也と美樹だけが助かればいいとはもう思っていなかった。



首を取られた全員が戻ってくるべきだった。



しばらくその場から離れずにいると、実里が布団の下で身じろぎをした。



柏木がすぐに声をかけて近づいてく。



「実里、実里!」



「う……ん」



小さな唸り声。



けれどそれは間違いなく実里の声だった。



「お父さん?」



薄っすらと目を開けた実里が目の前の父親に混乱した声を上げた。



「目が覚めたんだな、よかった。本当によかった」



柏木が両手で実里の体を抱き起こす。



その目には涙が滲んでいる。



「私、どうしてここに? 地蔵に首をつけられたはずなのに」



キョロキョロと周囲を見回して混乱した声を上げる。



「戻ってきたんだ。お前はここに戻ってきたんだよ」



「戻ってきた? どうして?」



そう聞いてから実里はようやく佳奈たち4人の存在に気が付いた。



そして目を見開く。



「あなたたちのことを夢で見た。私の首を取ったのよ!」



大輔と、大輔の持っている刀を見て叫ぶ実里。



自分が地蔵になっていたときのことを、断片的にだけど覚えているようだ。



あんな悪夢、忘れているほうがよかったのに。



しかし実里は少し違っていた。



自分が地蔵になったときにしてしまったことよりも、地蔵になっていた時に首を切られてしまったことのほうが重要だったようだ。

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