第7話
図書館から出る時、佳奈はクローセットの中の慎也を思っていた。
必ず助ける。
絶対に慎也を死なせたりはしない。
改てそう心に誓い、拳を握りしめたのだった。
図書館から出た瞬間、目の前に3体の黒い化け物が待ち受けていた。
まるで佳奈たちが図書館から出るのを待っていたかのように襲いかかってくる。
一瞬のまばたきのうちに距離を詰められて、大輔は反応できなかった。
刃物の腕が勢いよく振り下ろされて、間一髪で横に倒れてかわす。
刃物の腕は耳元をかすり、風の音を響かせた。
「そのままで!」
明宏が大輔へむけて指示を出し、猟銃を放った。
至近距離で猟銃の弾が辺り、黒い化け物の頭部は弾け飛んだ。
周囲に肉片が飛び散り、体液が雨のように降り注ぐ。
しかしそれを気にしている暇もなく2体目が襲いかかってきた。
それは佳奈の目の前へと移動する。
明宏は弾を入れ替え終えることができずに「くっ」と奥歯を噛み締めた。
しかし佳奈は冷静だった。
連射できる銃ならともかく、あまり過信してはいけないと考えていたのだ。
化け物がこちらを見ていたことにも気が付いていたので、反応できた。
大きく足を振り上げて力いっぱい化け物の腹部にめり込ませた。
化け物は2,3歩後ずさりをしてそのまま後ろに倒れ込んだ。
その勢いを殺さないまま、目前まで迫ってきていた3体目に蹴りを入れる。
これで3体ともひとまずは倒れ込んだ。
「今のうちに逃げよう!」
佳奈が叫ぶと大輔が慌てて立ち上がった。
せっかくの猟銃の弾を無駄にはしたくない。
黒い化け物は地蔵に比べれば弱いので、地蔵の足止めの方に使いたかった。
そう思っていても黒い化け物は次々と行く手を阻む。
道に倒れている人々が走るのにも邪魔になり、4人は思うように先へ進むことができなかった。
「地図上では近いのにな」
明宏が苛立ったようにつぶやいた。
図書館から柏木の家まではほんの2~3キロのはずなのだ。
普段はどうってことのないその距離が永遠のように長く感じられる。
再び目の前に迫ってきた黒い化け物へ向けて明宏が発砲した。
弾は化け物に命中して倒れ込む。
しかし、その後ろからもう1体が迫ってくる。
「こいつら無限大かよ」
大輔が舌打ちをして化け物をにらみつける。
もう全部を相手にしている暇などなかった。
4人は迫ってくる化け物の横をすり抜けて走った。
他の人たちが犠牲になって悲鳴を上げる。
その声が佳奈の鼓膜に張り付いたが、無視をする他なかった。
そうしてようやく地図で見た場所へやってきたとき、そこは戦場と化していた。
今までみたことのない大数の黒い化け物たちがうろついていて、足の踏み場がないほどに死体が転がっている。
少し歩くだけでぬめぬめとした化け物の体液と、人間の血とが絡みついてくる。
足を上げるたびにネチョネチョと音が響いて吐き気がこみ上げてきた。
臭いも他とは段違いにひどいものだった。
なにもかもが一緒くたになったような異臭が終始鼻腔を刺激し続けている。
佳奈は思わず指で鼻先を摘んでいた。
口で呼吸しないと耐えられないくらいだ。
幾人かの死体を越えた先で銃声が聞こえてきて4人は立ち止まった。
その先へ視線を向けると、5人の男性たちが猟銃を手にし化け物たちと戦っているのだ。
あれは猟銃会の人たちだろうか?
化け物は百発百中で弾に当たって崩れ落ちていく。
どれだけ遠くだろうと、化け物が動いていようと関係なかった。
「すごい」
思わず明宏はつぶやいた。
自分の腕前もなかなかのものだと思っていたけれど、彼らのうまさは並大抵のものじゃなかった。
呆然と立ち尽くしてその光景を見ていたとき、男の1人がこちらに気が付いた。
子供が4人で立ち尽くしている姿に目を見開く。
「お前らなにしてる、早く逃げろ!!」
大人なら当然そう言うところだった。
しかし4人は大人たちに近づいていく。
幸い黒い化け物は随分数を減らしていて、あと2体しか残っていない。
佳奈たちが大人たちへ近づく間にその2体も簡単に仕留められていた。
「どうしてこんなところにいるんだ、危ないだろ!」
目を吊り上げて怒る男性に明宏が「人を探しているんです」と、説明した。
そして柏木という名字を出した時、1人の男性が振り向いた。
背が高く、筋肉質な男だ。
スキンヘッドで一見カタギの人間には見えない。
「柏木は俺だ」
男がそう言った瞬間、また近くで銃声がなった。
「まだ化け物たちがウヨウヨしてる。一旦家の中に入ろう」
柏木がそう言い、他の4人にも声をかけて近くの家へと向かったのだった。
そこは大きな日本家屋だった。
立派な門柱には柏木という名字が掘られた木の表札が掛けられている。
家の中に入るとそこは以外にも洋風な室内をしていた。
何度もリフォームされたようでどこもバリアフリーになっている。
「それで、お前らは何者だ?」
猟銃をソファの横に置いて座り、入り口の前に立っている佳奈たちへ聞いた。
「首無し地蔵の復讐に巻き込まれてしまったんです」
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