第6話
夢の中で言われた言葉『お前たちも街人に恨みがあるだろう。我々の力になれ』
イケニエたちの力になることで自分たちも救われる。
そんな気持ちになったのだ。
そして最初の日は順調に進んだ。
翔太の首が取られたけれど、探すことを拒否するだけで良かったのだ。
夢で見た光景は衝撃的だったし、翔太を助けたいとも思った。
けれどイケニエに手助けをすることこそが、翔太の救いにもつながるとわかっていた。
だから、探さなかった。
朝になると翔太の首が地蔵について、それを見てホッとしたのだ。
だけど計画はそう簡単には進まなかった。
しばらくすると前回首を探していた連中が現れたのだ。
奴らは三福寺のお守りを持っていて、夜の空間に入り込んできた。
それは異例な出来事で地蔵たちも混乱していた。
きっと、大切な人を思う強い気持ちがそうさせたのだろう。
そして奴らは亮一たちの邪魔をしてきたのだ。
首を探してきて、運べと言う。
その時亮一は本気で腹が立っていた。
なんだこいつらは。
どうして余計なことをするんだ。
俺たちの番なのに、どうしてちょこまかと動き回る。
このままではイケニエの希望を叶えてやることができなくなる。
そんな焦りもあって、最後の日には奴ら拘束してやった。
本当は人間を拘束するような趣味はない。
黒い化け物はどれだけ殺したって、翌日には戻ってくるからいいと思っていた。
そしてやっと、願いが届いたのだ。
これで街は壊滅する。
イケニエの願いも、自分たちの願いも聞き入れられる。
だからこうして殺されても、文句なんてなかった。
☆☆☆
話している間に亮一の声はどんどん小さくなっていく。
それを見て明宏は焦りを感じていた。
さっきから亮一の隣に座っている智子はピクリとも動かない。
確認していないからわからないが、もしかしたらすでに心停止しているかもしれない。
「事情はわかった。地蔵を元に戻す方法を知らないのか」
明宏は亮一の前にヒザをついてしゃがみ、そう聞いた。
そうしないと聞こえないくらいの声になっていたのだ。
「地蔵は……たな……く……」
言葉は途切れ、亮一の目から光が消える。
明宏は慌てて肩を揺さぶった。
しかし亮一は空を見つめるばかりで反応をしない。
明宏が手を離した瞬間その体は横倒しに倒れてしまった。
亮一と智子は互いにもたれかかるようにして息を引き取ってしまったのだ。
「くそっ。間に合わなかったか」
大輔が奥歯を噛みしめる。
「亮一は最後になにか言おうとしてた。きっと、地蔵を止める方法を知っていたんだ」
明宏は2人のまぶたを閉じさせて言った。
地蔵を止める方法があるなら、それを探し出す他ないだろう。
その時、再び黒い化け物が襲いかかってきた。
狭い塀の中まで身をよじらせて入ってくるのだ。
「どこまで来る気!?」
佳奈が叫んで駆け出す。
もう走る元気はどこにも残っていなかったけれど、死んでしまうかもしれないと思うと不思議と足が前に出た。
これが火事場の馬鹿力というやつかもしれない。
4人は化け物から逃げながら必死にヒントを探した。
見渡す限り血の海で、なにも事情を知らない人々が倒れている。
首を千切られた子供の体を抱きしめるたまま死んでいる、首のない母親。
胴体を半分に切断されてもまだ逃げようともがいている男性。
街は血と肉の臭いで溢れて嘔吐感がこみ上げてくる。
思わずその場にうずくまってしまいそうになるが、どうにか自分を叱咤して走り続ける。
「首取りをしていた人たちの名前は覚えてる。工藤に中村に本間に原田に柏木」
走りながら明宏が言った。
なんのことだろうと思うけれど、声に出して聞く余裕はない。
前から襲ってくる黒い化け物が逃げ惑う人々を手にかけている。
その横を無情にも通り過ぎて、明宏は叫ぶ。
「柏木という名字はこの街には珍しい。探せばすぐに見つかるはずだ」
そこで明宏の言っていることを理解した。
首取りの子孫である人たちに話を聞けば、地蔵を止める方法がわかるかもしれないのだ。
実際に亮一はなにか知っている様子だった。
まだ高校生の亮一でも知っていたことなのだから、その家計の人ならみんな知っている可能性がある!
そう理解するととたんに視界が開けてきた。
うまく行けばこれで悪夢とはおさらばすることができるのだから。
「どうやって家の場所を調べるの?」
春香の言葉に明宏は一瞬黙り込んだ。
しかしあてはあるようで、道路を右に折れた。
更に走っていくと大きな建物が見え始める。
図書館だ。
「そっか。図書館にならこの街の地図もある!」
一軒一軒名字が書かれているか不安は残るものの、昔の地図なら個人情報なんて無視して載せられていたかもしれない。
そして首取りの家は明治時代からここに暮らしていることはすでにわかっていた。
明宏はスピードを落とさずに図書館へ向かう。
幸い周囲に化け物や地蔵の姿はない。
そのままの勢いで入り口までやってきたが、さすがに開いていなかった。
「どいてろ」
大輔に言われて入り口から数歩下がる。
大輔は大ぶりな石を掴んで思いっきり投げつけた。
ガラス張りになった扉はいとも簡単に砕け散り、警報音が鳴り始める。
うるさい警報音を無視して図書館の中にはいると、壁際のスイッチを適当に押して電気を付けた。
広い空間が照らし出され、4人は迷うことなく郷土資料のコーナーへと向かう。
明宏が考えていた通り、そこには街の歴史を彩るための地図も保管されていた。
その中で最も最近の平成時代の地図をテーブルに広げた。
ところどころ新しく建設されたビルや、なくなった施設も記載されているがおおかた今の街と同じような地図だ。
幸いその地図には一軒一軒の名字まで書かれていた。
アパートやマンションなどでは個人名はわからないが、昔から暮らしている一家の名字ならこれで十分だった。
「思ったとおり、柏木は2件しかない」
明宏が地図上を指差して言った。
その2件は親戚同士のようで、家も隣り合って建っている。
これなら探し出すことは簡単そうだ。
更に柏木家は図書館からそう遠く離れていない場所にあることがわかった。
どうやら風は自分たちにとって追い風になってくれているようだ。
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