ピアスの痕

kanaria

ピアスの痕

 秋の風は涼しく心地いい。私は秋が好きだ。寒すぎず暑すぎず、暑いと思えばそれを冷ますように外からの風がちょうど良く温度を調節してくれる。優しい秋が好きだ。網戸越しに見る夜空はきらきらとしていて、星達が各々に輝く姿を微笑ましく思う。この時間のおかげで私の心は落ち着いて、これから起こることでさえも静かに耐えることができる。嫌なこともこの風が攫ってくれると思えば許容ができる。

「なあ比奈野、足邪魔」

目を瞑って想像の中に逃げ込みたい。泣きたい気持ちは押し殺した。あとは待つだけだ。

「比奈野、またピアス開けたの?」

「うん」

ピアスはこれで8個目だ。空いた穴は別のもので塞がれて満たされたように思ってもその穴にはぽっかりとまた小さな穴が際限なく増えていく。穴だらけで空虚で空っぽなあたしは、また同じ夜を迎える。同じことを繰り返してこれからもこの穴は増え続けるのだろうか。


 「ひな?いい加減別れなよ?いつまでもあんなのと一緒にいたらダメだよ」

親身になってくれる友人の意見はとても助かるし、涙が出るほど嬉しい。けど、私にはどうすることもできないのだ。逃げたい気持ちがから回って巻き付いて雁字搦めになった気持ちは行き場を失ったまま置き去りにされてしまう。どんなに遠くへ逃げても追いつかれてしまう気がする。どうすれば良い。どうすればあたしはこの気持ちを消火できる。

「ひな。今日も行くつもり?」

「うん」

「そう。今日はうち来な?しばらく泊まって」

「でも、」

「でもじゃないの。美味しいものたくさん食べさせてあげるし、うちのわんこがひなに会いたがってるから」

私は友達に恵まれた。ここまで私の身を案じてくれる。自分のことのように考えてくれる。私は束の間の安息を得た。


「ひな?もう行くの?ずっと居てもいいんだよ?」

「ありがとう。さちの気持ちはすごく嬉しいし、ほんとに助けられた。でも、いつまでも甘えられないよ」

さちは悲しそうな顔を私に向ける。ずるい顔だそんな顔をされたらずっとここに居たくなってしまう。ずっといたいのを我慢している。我慢して、私は大好きな友人の部屋を後にした。


「あ、比奈野。おせえよ」

「もう、戻らないから。もう、別れるから」

そのあとあれが何と言っていたのか覚えていないし、耳にも入れていない。やっと言えた言葉はふわふわとして宙を漂っているようだ。解放されたはずなのに胸の蟠りは取れないままで、その時まだあいつを好きな自分がとても嫌になった。


「ひな!大丈夫だった?」

「うん、」

「おかえり、ひな」

「ただいま、さち」

日付を跨ぎ3時近くになってもさちは優しく迎え入れてくれた。優しくてあったかくて、その腕の中で泣いてしまった。

「そういばひな?ピアス外したの?」

「うん、全部」

「そっか、ひなの選ぶピアス全部センス良くて可愛かったけど、そっか。で、そのピアスはどうしたの?」

「捨てた。全部、捨てたの」

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ピアスの痕 kanaria @kanaria_390

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