7 部室にて 変わった人

 意図は分からない。しかし、彼はサークルの活動には参加しないのに、部室と飲み会には顔を出す。


 私もそれほど頻繁にサークル活動に参加している訳では無いが、折角入ったサークルだ、何もしないのはもったいないと思い、それなりには活動に参加するようにしていた。


 彼については真逆のようで、今まで活動に参加した所は全く見たことがない。

 それにも関わらず、部室をとてもキレイに掃除してくれるのだ。


 私はサークル以外に人との繋がりなんてほぼないから、大学に来た時は講義が無ければ、基本的には部室に籠もるか、図書館で本を読んでいる。


 以前、図書館で借りた本を、部室にある自分のロッカーにしまいに行った時に偶然見かけたのが、彼がものすごく丁寧に部室を掃除している光景だった。


 活動に参加しているわけでもないサークルの部室を、なぜこれほどまでに丁寧に掃除できるんだと、妙なキッカケで彼に興味を持ってしまった。 


 部室で何度か話したことはある。同学年だった事もあり、受験勉強の苦労だとか、履修する講義についてだとか、何となく話はできる。


 ただそれだけ。


 それだけなのだが、参加しないサークルの部室にだけ現れて、丁寧に掃除をしていく人、という部分に興味を持ってしまっている自分がそこにはいた。 


 こういった「普通ではない」と思われる人に対しての周りの反応は大体が、「変わった奴だな」という物だと思う。

 その「変わった奴」のニュアンスが人それぞれで、どうやら私は目を惹かれる、という意味での変わった奴と、彼を捉えているようだ。 


 サークルの仲間に彼のことを聞いてみた事がある。

 おおよそ皆同じ反応を示しており、それはあまりポジティブな意味での「変わった奴」ではなかった。

 また、彼と連絡を取っている人もこのサークル内にはいないらしい。


 居るのかわからないけど、どうやら所属はしているらしいという事で、陰では皆、彼のことを「ワラシくん」と呼んでいた。


 つながりが無いのだから、本人は知る由もないのだろう。


 かくいう私も実を言うと彼の名前を知らない。


 ……何だろう、誰も触れようとしないからこそ、気になる。  


 次の飲み会に彼は参加するようだ。

 いい機会だ。

 

 普段、部室で顔を合わせた時は、いつも何か他の事をやっていたり始めたりするので、少し声をかけにくい。

 雰囲気が出来上がっている場であれば、部室で相対した時には聞けなかった事も聞けそうな気がする。

 

 好奇心が胸を少し高鳴らせた。


 一週間後が楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る