5 飲み会当日 苦手な人

 団長が僕の肩に手を乗せ、話しかけてきた。

 急だったため一瞬驚いてしまい、返答が遅れる。


 団長の方に視界を移す時、ほんの少し残念そうな表情の根沢さんの顔が映り込んだ。


「えぇ、まあボチボチ飲んでます」 

「お前はまだ未成年だったよな?酒は飲んじゃだめだぞー」 

「あはは、分かってますよ。この前別の大学の学生が問題起こしたから、注意流れてましたしね」 

「お、なになに、注意が無ければ飲んでたみたいな言い方じゃない?」 

「いや、違いますよ」

「お前はそういう事はしないよな」 


 こういった時くらいしか言葉を交わさないにも関わらず、この人は僕が考えていることを見抜いているかのように話す。

 凄いと思うと同時に、あまり深く関わりたくないとも思った。 


「たまにはさー、サークル活動にも顔出してくれよな。やっぱり大勢で活動した方が楽しいからさー」 


 そう言われた時に、根沢さんが立ち上がり、どこかへ去っていった。鞄などは置いてあるから、お手洗いだろうか。 


「いや、まあ、そうですね」 


 何とも歯切れの悪い返事をすると、団長は先程より距離を詰めて小声で語りかけてきた。 


「とまぁ、立場上そんな事を建前では言うようにしてるんだけどさ、別に無理強いはしないよ。お前が部室目的でうちのサークルに居ることは分かってるから」 


 不意をつかれた気分だった。

 そりゃ、一年間も同じ事を繰り返していれば、何となくはそういうやつなんだ、とは思われるだろうけども。


「こっちとしても、サークルの人数が多いと何かとメリットが多いのさ。それに…活発に活動しているやつが限られてた方が、何かと動きやすいんだよね」


_____この人は多分、人を選んでこの話をしているのだろう。 


 いつぞや部室でしていた会話の中で、団長の話題が出た事があった。


 普段は気怠そうに振る舞っているが、頭では何を考えているか読めない人。

 非常に打算的で使えるものは何でも利用する人。

 あまり大学で見かけないのに、履修した科目は全て優秀な成績で単位を取得している。

 裏で大学を牛耳っている。


 といった具合の内容だ。

 一部、都市伝説のような内容も入っており、半分流して聞いていたが、今のやり取りで、打算的であるというのは何となく真実味があるような気がした。 


 そんな事を考えていると、「ま、ボチボチ顔出してくれよな」と少し大きな声で言って団長は立ち上がった。 


 少し離れた席に、先程まで僕の隣に座っていた根沢さんが座っており、声をかけに行った様子だ。


 見透かされていた事を知り、遅れて恥ずかしさが込み上げてきた。

 先程、本屋で時間を潰していた所を見られていた時とは比べ物にならない。


 居場所を失ったような感覚に陥った僕は席を立った。

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