4 飲み会当日 とりあえず隣の人と話す感じになる

 グラスが方々で音を鳴らす。

 数人とグラスを合わせながら、僕の活動はこれで一段落つくんだよね、などと考えていた。


 食事をしながら、皆が談笑している。


 「皆」の中に、僕も入っているはずなのだが、「大会が……」とか、「この前のイベントが……」といった、およそ自分には関係無さそうな話題ばかりなので、当たり前だが話に入っていけない。


 適当に相づちを打ちながらこの場をやり過ごす。 


 明日は何をしようか、などと考えていたら、また根沢さんが声をかけてきた。


「ねぇねぇ、さっきずっと本屋にいたでしょ?」 


 誰にも見られていないだろうと高を括っていたので少し焦る。恥ずかしさから、若干体温が上がるのを感じた。 


「私も同じ時に本屋に居たんだよ〜。いつも買ってる雑誌が発売される日だったからさ、会場の近くだったし、ついでに買いに行ったんだよね」 

「そうだったんだ、全然気づかなかったよ」「ひどいな〜。部室でもたまに顔合わせるんだから、気づいて声かけてほしかったよ」


 部室で顔を合わせる事はあまり関係ないのでは、などと思いながらも、「そりゃ申し訳なかったよ」とだけ謝っておいた。


 というか、存在に気づいていないのだから、謝り損ではないか。


……それはさすがに心が狭すぎるな。 


「何か買ったの?」 

「いや、特に目的の物があった訳ではないよ。気になる本もあったけど、持ち合わせもなかったから、立ち読みだけしてたかな」

「そうなんだね」 


 ここで会話が切れた。


 同じサークルにいながら、同じ時間は殆ど過ごしていないのだ。会話の弾み具合なんてこんなものだろう。


 飲み物をチビチビと飲みながら周りの様子を眺めていると、「そう言えばさ…」と再び根沢さんが話し始めた。


 しかし、それと同時に彼女とは反対隣の席でドカッという音が聞こえ、音を立てた主が僕の肩に手を置いて話しかけてきた。 


「よう、飲んでる!?」 


 声の主はサークルの団長だった。

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