3 飲み会当日 乾杯までのやり取り

 十八時から開始との連絡があったのは二日前だった。


 駅前の本屋で時間を潰し、五分前になったら居酒屋の前に行く。

 部室で会う顔見知り以外、あまり話したことがない集団だ。話すことも特段無いので、席に付くまでの待機時間はあまり長くならないようにしたい。


 気になる本があったが、持ち合わせはあまりなかったので、また今度買うことにした。 

 

 時間を確認して、店を出る。歩いて一分の所にある本日の目的地に向かう。


 見られていたら少し恥ずかしいな、などと思いながら、居酒屋の入口に近づくと、サークルメンバーの一人が声をかけてきた。


「おつかれ」

「やあ」 

「もう大体集まってるからお前も中入っといてよ」 

「分かったよ」 


 席の案内を受け店内に入った。


_____良かった、今日は掘りごたつだ。 


 座敷だと、席の間隔が狭い場合隣の人と足の置き場で無言の戦争が勃発する可能性がある。結局、気を使った誰かが本当の意味で肩身の狭い思いをすることになるので、あまり好きではない。掘りごたつならば、幾分マシだ。 


「こっち、空いてるよ〜」 

「あ、ありがとう」 


 空いている席につく。

 一週間前も部室で話した女性、根沢さんが隣だった。 


「もうすぐ始まるから、先に飲み物決めておいてほしいんだってさ」 

「じゃあ、コーラでお願い」 

「やまとくん、コーラ一つ増やしといてー」

「はいよー」 


 頻繁にこれだけの人数の集まりを催していると、さすがに出際が良くなるのか。従業員さんが困らないような流れを上手く作っている。

 勝手に感心していると、全員集まったようで、団長が入ってきた。 


 何人かと挨拶を交わすと、大きな声で仕切り始めた。


「飲み物全員分の確認できた?届いたら乾杯するから、しばしお待ちくださーい」 


 歓談するような相手も話題も無いので、スマホを手に取り、時間を潰そうとすると、根沢さんが声をかけてきた。 


「今日は何してたの」 


 必要以上に人と深く関わりたいとは思わないが、自分の事を人に聞かれて、嫌な気はしない。 


「今日は講義も無かったし、その辺を適当にブラブラしていたよ」


 とまあ、悪い気はしないが、返答に中身なんて物は全く無い。 


「やる事無いなら、サークルに顔出せば良いのに〜」 

「ははは、そうだね……」 


 全く持ってその通りだと思うが、僕は部室に顔を出す人間以上の存在感を発揮するつもりはない。


 曖昧な返事をしてやり過ごしていると、次々と飲み物が届き、席に置かれていった。


 全員の席に飲み物が置かれたのを確認し、団長が立ち上がり話し始めた。 


「お疲れさまです!皆、飲み物ある?大丈夫?大丈夫だね!えー、ここからまた活動が活発になっていきます。大会に向けた準備も始まっていきますので、全員で一丸となって頑張っていきましょう!それでは、かんぱーい!」


 方々で鳴るグラスの音が、僕にサークル活動の始まりを告げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る