第4夜 友人Aのバーテンダーの彼女の話2

「この前は先に帰って悪かったな」 Aは、いつものカウンターでビールを飲み干して言った。


今日は、珍しくAから話がある、と言って誘ってきたのだった。


「話って?」


Aはおもむろに「実は、この前話したバーテンダーの娘この事なんだが…」



Aの彼女が、朝方「ちょっと寝かせて」と言ってAの家に来たそうだ。


Aは朝から予定がある為、Aの彼女は昼間Aの家で一人で寝ていた。


Aの家は小さなワンルームで、ベランダの窓は網戸にしてあった。


その窓に足を向けて、壁の方を向いて寝ていたそうだ。


Aの彼女は、網戸をカラカラと開く音で目を覚ました。


『ヤバい、誰か入ってくる』



と思った瞬間、意識はあるのに体は動かなかった。


『これが金縛りか』


と思っていると、網戸を開けた主は、ペタ、ペタ、と部屋の中に入ってきた。それは、フローリングの床を裸足で歩いている音だった。


『早く振り向かなければ』



と思っていても、体は全く動かなかった。


その足音は、Aの彼女の後ろを通り抜け、キッチンの方へ向かった様だった。



Aの彼女は『ヤバいヤバいヤバい。殺されるかもしれない』と焦った。



足音の主は、キッチンでガサガサと何かを探している様だったそうだ。



『シンクの下の扉を開けてる? イヤ、これは冷蔵庫だ』



音の主は、冷蔵庫を開け、ガサガサ、ガサガサと何かを物色していた。


そして、お目当ての物が見つかったのか、見つからなかったか、ペタ、ペタとゆっくり音を立てながらこちらへ戻ってきた。



その時Aの彼女は、極度の緊張と恐怖で、そのまま気を失ってしまった。



Aの彼女が目を覚ますと、オレンジ色の光が差し込む夕方になっていた。


ハッと体を起こしてみた。体は動いた。



変な奴がベランダから入ってきたのではないかと、窓を見た。


網戸は閉まっていた。



キッチンへ行こうと、ベッドから降りようとした瞬間、Aの彼女は体がビクッとなった。


窓からキッチンに向かう、水の足跡が続いていたのだ。


Aの彼女は、足跡を避けつつ、恐る恐るキッチンへ向かった。


一体何を物色していたのだろうか。



冷蔵庫を開けてみた。特になくなった物はないように思えた。



『あ、アレが無くなっている』





「アレって?」



と僕はAに急かすように聞いた。




「キュウリが無くなっていたんだと」




「キ、キュウリ?」




僕は予想外の答えに、黙ってしまった。




「あれはカッパだったのよ、だってよ」 とAは小さく苦笑いをしながら言った。



「部屋にカッパか……」



Aとカッパが重なって、僕も少し吹き出した。




「他にもあいつは……」と言いながらビールを飲み、話し始めた。


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