ぜんぶすき

 スプリングが軋む。

 シングルベッドには少し荷が重いだろう二人分の身体が動く。

 広がったままの足と私の膣と、閉じることも億劫な口が横たわっていた。


 いとしい彼から出る荒い息。

 前戯が愛し合う準備だとは思えない。

 私はただ、彼が気持ちよくなるためツールに過ぎないのだから。

 全身で彼を受け止めているかのように、かわいく嬌声をあげて、身体を震わせる。


 指一本、たった数分、たったそれだけ。

 それだけで、どうして思えるんだろう。

 私があなたを受け容れるための準備が完了しただなんて、どうして。


 無理に開かれる内側と、力いっぱいに押し込まれた膣奥が痛い。

 いやで苦しくて、くぐもった声を出した。あつくなった眦から涙が滲む。


「こっち見て」


 私を見下げる彼のことを見たくなんかないけれど、顎を掴まれて、無理やりに目を合わされる。

 泣いているの、私は。

 気持ちよくなんかなくて、痛くて、ただ苦しいのに。


 満足そうに、気持ちよさそうに目を細めて、彼はじいっと私を見下ろす。


「かわいいね」

「きもちいい?」

「中、すごい気持ちいい」

「きもちいいって言って」


 無遠慮に動く彼が、荒い息の合間に言う。

 私に聞いているようだけれど、いつも、その言葉の先には私がいないように思えた。

 触れ合う肌も、繋がった熱も、彼が在ると感じているのに。

 私ではない遠くの誰かと想いを重ね合わせているような、そんな膜が。


 浸るように細めた彼。

 もう何度目か分からない。彼が欲しいことばを与えるため、私は足を広げているんだろうか。



「     」

「ん、俺も」


 耳元で甘ったるい言葉を吐いて、彼は私にかぶさる。

 私が泣く理由の一つも知らないで。

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