いけない張本人

 どうしたって彼のかおりは同じ部屋に満ち満ちていく。

 彼のいないベッドに潜り込んでそっと息を吸う。昨日洗ったばかりのシーツからは柔軟剤の香りに紛れて、彼の汗のかおりがする。


 鼻こうを、思考を、身体全体を彼のかおりが包んでいく。

 さようならわたし。

 これまでのわたしを、また彼が少しずつ染めていく。


 ベッドヘッドの引き出しにしまわれた、やけに毒々しく見える小袋の数が変わらないままでいること。

 外では清廉な彼が、枕元には飲みかけのペットボトルをいくつか蓄えていること。

 そうしたことも一緒にそっと吸い込んで、ひとりの時間を愛でて過ごす。


 ほんのちょっぴり、手を握ってくれたなら。

 不安は一つもないのだろうに。

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