初恋**

それから富嶽は自宅に引きこもっていた。

どこにも。

なにも。

気力が。

わかず。

布団の上に横たわり続けた。




何日経ったのかわからなかった。

このまま死んでしまうのかもしれない、と何処か他人事に考えてしまっている。

だってもどうでもよかった。

それくらい富嶽は冥の特別であることを己の芯にしていたのだ。


馬鹿げた芯。


不安定な芯。


愚かな芯。


壊れてなくなってなにも出来なくなって、なんて滑稽なんだろう。




ああ




であわなければよかった




しらなければよかった




不思議と涙は出てこない。

実感が無いから?

まだ特別かもしれないから?


違うだろ富嶽。


自嘲も出来ない力が湧かない。


そうだろ富嶽。


本当は分かっていたんだ。


自分だけ特別な訳ないって。


目を背けてた。


分からないふりしてた。


自分が好きだからって理由だけで。


現実を、受け止めずに。


だから自業自得だ。


全部自分が悪いのだ。


あきらめろ、富嶽。


本当は知っていたんだ。


なぁ富嶽。


可愛がっているのがひとりやふたり。


お気に入りがひとりやふたり。


それはかわいくて。


それはかっこうよくて。


なんて見目良く華やかで。


自然な光景。


美しい光景。


見る度に胸が痛んだんだ。


でも心を鬼にして蹴散らした。


だって防波堤にならないといけなかった。


ああ、何を、思い違いをしていたんだ富嶽。


富嶽。


富嶽よ。


何もかもが普通の。


ともすれば平凡な。


素朴とも言える。


没個性とも。


モブとも。


くうきとも。


そんな人間が特別だって?


なにをかんちがいしていたんだよ富嶽。


隣に立ったその違和感。


ツマ?


バラン?



馬鹿だな富嶽。


おまえにそんな価値があるとでも?


富嶽。


富嶽。


一歩引いてみてごらんかんがえてごらん。


なんてみっともない。


浮かれて。


溺れて。


勘違いして。


一応の怒りは奥底に。


だってこんなの勝手がすぎる。


勝手だ。


冥が魅力的なのがいけないなんて。


そんなの


ああ、


かわらない


すがってないてさけんできたやからと


なあんだおなじ、だったんだ


だからもういいじゃないか富嶽。


想い、伝えなくて本当に良かった。


なんて言われただろうか。


きっと面倒くさいと、息を吐かれて、言われてしまうんだ。


そっちのほうが立ち直れなかっただろ?


な、富嶽。


富嶽は己にそう言い聞かせながら。


ああ、デートの約束すっぽかしてしまった嫌われるだろうなもういいかどうせそのへんの塵芥と同等なんだから気にも留めやしないさそもそもデートってデートだねって言われたからデートだと浮かれていたけどたいしたことないじゃないかもうおわりだ身がばらばらになりそうだもういやだ。

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