初恋*
「お前だけな訳ないじゃん」
富嶽は友達にそう言われ、こいつ何を言ってるんだと苛立った。
それから、ああこいつも冥に袖にされた者のひとりなんだなって、自分が羨ましいんだなって、こいつには聞く耳持つのはやめようと思った。
よく居るのだ。
冥と付き合っているのだと主張する者。
冥との関係を勘違いしている者。
冥と会う事を邪魔しているのは富嶽だと言う者。
叫んで縋って怒りを冥と富嶽にぶつけてくる者。
そういう輩が本当によく居るのだ。
そういう手合いを、富嶽は無視すると決めていた。
だって、冥はそういう輩に遭遇する度に面倒臭そうに息を吐き「君誰ぇ帰ってぇ失せてぇ二度とお顔見せないでぇ」と丁寧に縁を切る。
その本当に面倒臭そうな表情を見てから、富嶽は防波堤にならねばと思うようになったのだ。
だから冥と関わろうとする邪な輩とは、関わらないようにするようになったのだ。
ああ、また、まともな友人が減った。
でもいいんだ。
富嶽には冥が居るから。
そんな事を言われた数時間後。
その言葉が本当で、富嶽は絶望した。
冥。
基本は冥さん。
親しくなりたくて冥と呼び捨て。
そんな連中と何か差をつけたくって、富嶽はめぇさんと呼んでいる。
少し幼稚な手段ではあるが、冥は富嶽にのみそう呼ぶことを許し、他の者がめぇさんと呼んだ時はその者の存在を忘れてしまうという徹底的な対応をしてくれていた。
冥は富嶽に甘かった。
冥は富嶽にべったりだった。
冥は。
冥は。
冥は富嶽の名をいつも優しく呼んでくれた。
だから、富嶽は、冥の、特別なんだって確信が持てていた。
自分だけが特別。
自分だけが、と。
冥。
濡羽色の髪と瞳が美しいひと。
男性なのに色っぽく、近寄り難い神聖さを持ちながら、とっても人懐っこいひと。
少しタレ目の横に涙黒子が目を引いて、誰からも好かれる好青年。
冥。
富嶽は冥に可愛がられていた。
あからさまに、好意を向けられていた。
富嶽は冥に恋をしていたから、それがどういった方向の好意か、確かめる勇気は無い。
友情なのか。
愛玩動物なのか。
弟のような、なのか。
それとも、愛情なのか。
確かめてしまったらこの関係は崩れ去るんじゃ。
それが富嶽には一番こわいことだった。
だから、確かめない。
ずっと、特別。
それでいいって思ってた。
思ってたのに。
冥。
冥さん。
めぇさん。
かんちがい
ちがう
じぶんとおなじようにかわいがってるべつのだれかとのえみに
見知った者達に冥は囲まれていた。
今日は約束していなかったけど、見かけたら声掛けてねって言われていたけど。
バイト終わりで時間はあったけど。
富嶽はその光景にその笑みに、頭撫でる手付きに近さに。
自分とまるで同じ扱い眼差し距離感に。
たえられず
にげだしてた
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