第10話 これが、俺たちの絆の力だ!
ちくしょう。ここまでなのか。ヤツに一発おみまいしてやりたかったのに――
「諦めるなッ!」
どこからか、力強い声が飛んできた。勇者だ。魔王に吹き飛ばされた勇者ミノル君が遠くのほうから俺に向かって手を伸ばしている。
それと同時に、ユンボが脈動した。エンジンが掛かったのだ。バッテリーが切れていたのに、なぜ――
「俺の〈神の雷魔法〉で、そのショベルカーに電源をッ!」
勇者の手から細い閃光が走る。それをユンボが水のように吸い上げ、聞いたことのないほどの唸り声を上げる。ちなみに、ショベルカーではなくユンボだ。
動く。俺はレバーを限界まで水平に倒すと、ユンボが前進しはじめた。
が、全然速度が出ない。おじさんが悠々と漕いでる自転車ほどだ。速さが売りの乗り物じゃなのだから、当然といえば当然なんだが。
クソ! せっかく動いたのに、これじゃあ――
「私の〈魔力の具現化〉で、そのブルドーザーを押してあげる!」
突如、見えない何かに後ろから押し出された。ちなみに、ユンボだ。
とんでもない推力が与えられ、ユンボはぎゅんと加速し、ついには自動車並みの速度になった。
だが、まだ足りない。
もっとだ。もっと走れるだろ、お前は!
俺が強く念じると、それに応えるようにユンボが光り出した。
速度がとんでもなく上がり、振り落とされないよう運転席で踏ん張るので精一杯だ。
「あ、あれはッ……! 〈
知らない設定がまた飛んできた。確かに俺はユンボを操縦するための免許を持っているが、何はともあれ、とにかくユンボに勢いが増したということなのだろう。
狙うは一点――魔王〈リオン・エンドアース・ブラッディハート〉。
「な、なんだこれは……! どうすれば……!」
白く発光しながら目にも止まらぬ速度で迫り来る重機に、魔王は圧倒されている。
しかし我に返ったのか、すぐに俺に向かって手をかざし、あの黒い球体を放出した。しかも、先ほどのピンポン玉ほどの大きさではなく、もっと巨大な、運動会の大玉転がしくらいの大きさだ。
「そのよく分からん物と一緒に滅び散れ!」
俺とユンボが黒の大玉に呑み込まれる。
と、思ったのだが――
「なっ……!」
ユンボが黒大玉を弾き消し、そして驚くべきことに、それをさらなる燃料として加速したのだ。
「……っ!」
あいつとの距離はもう目と鼻の先。
魔王は右にも左にも上にも、避けようとする素振りを見せない。苦々しい表情を浮かべ、歯を強く食いしばると、まるで相撲の横綱のように正面から相手を受け止める体勢をとった。
「劣等種ごときの攻撃から逃げるなど……そんなことは許されんのだああああああああああああああああああアアアア!!」
狂乱したとも思える叫び声がびりびりと、俺の皮膚という皮膚を震わせる。
だが、今の俺にはこいつがいる。恐れるものは何もない。
もう圧し潰すまでもない。直接轢いてやればいい。行け。突っ込め……!
「自信だとかコミュ力だとか、偉そうな言葉押し付けんじゃねえよ。型に嵌まれなかったら病気扱いしやがってよお……」
無意識に、俺は独り言を洩らしていた。
「俺は好きに起きて好きなことして好きに寝て――」
レバーを掴む手に力がこもる。
俺の魂を乗せ、ユンボは駆ける。
「――好きに働くんだよ! ばーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーか!」
それは誰に向けて吐いた言葉か。
俺には分かる。俺にだけ分かればいい。
猪突猛進。一心不乱。
音を置き去りにして一直線に
我の理想が。我の大義が。〈
背後からそんな断末魔が聞こえてきたが、どうでもいいことだった。
遥か上空に吹っ飛ばされた魔王〈リオン・エンドアース・ブラッディハート〉は、十数秒かけて落下し、地面に激突した。
そしてそのまま、二度と起き上がることはなかった。
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