第6話 【悲報】外れスキル掴まされたかも
「ちょ、ちょっとタイム!」
劣勢の状況でレフェリーに申し出るかのような慌ただしさで、俺は魔王に向かって両手でTの字を作る。
そうだ。俺もスキルをもらっていたんだ。ラスボス前にもらえたスキルなんだから、きっと大層なものに違いないだろう。
俺は転生する直前の、あの乳のでかい女神のが言っていた台詞を思い出す。
――『「ステータス、オープン!」と迫真で唱えたら自分の能力値やスキルを確認できるので、活用してくださいね~』
俺は鼻から大きく息を吸い、背筋を反らせ、腹に力を込める。
「ステータス、オープン!」
キレのある声が、空気を震わす。
決まった。自分でも満足がいくほどの迫真の声を出せた。
「あの……それ、心の中で念じたら大丈夫なやつです」
横からミノル君が気まずそうに教えてくれる。遥か頭上から「うぷぷ、本当に言ってら」と馬鹿にしたような女の笑い声が聞こえてきた気がした。あの乳、揉みしだいときゃよかった。
だが認識はされたようで、俺の前にブウンと透明のモニターらしきものが浮かび上がった。
そこには〈筋力〉、〈素早さ〉、〈知力〉などといった基礎的な能力が数値と一緒にずらっと並んでいる。これが俺の基礎能力値か。どれもこれも低い数値で、すごく嫌な気分になった。
下のほうに免許・資格欄というのもあり、『普通免許・中型免許・大型免許・車両系建設機械(整地用)運転・車両系建設機械(解体用)運転・測量士・副測量士』とある。この情報、いる?
「画面をスライドさせると固有スキルについてのページに移ります」
ミノル君の教えに従い、浮かび上がるモニターに手を添えて右に滑らせると、別のページに遷移した。スマホみたいだな。
そして、問題のスキル欄だが――
「なんだこれ?」
『〈召喚〉』という二文字だけが、そこには書かれていた。
「スキルをタッチしたら説明が表示されます」
言われるがままに、〈召喚〉という文字に触れてみる。すると別ウィンドウが浮かび上がり、スキルについての詳細が映し出された。
『スキル〈召喚〉。発動者が二十四時間前までに触れた物体を目の前に転移させる』
簡潔に、それだけが書かれていた。
俺が二十四時間前までに触れた物体?
俺が触ったことのある物をこの場に持ってくる、ということでいいのか?
……俺、ここに来てからまだ三十分も経ってないんだけど。
『外れスキル』という単語が頭の中で浮かび上がる。そんな馬鹿な。ラスボス前にもらえるスキルが、こんなゴミのような――
「そろそろいいか?」
魔王の声が聞こえてきた。
一時中断してもらっていたが、時間が来てしまったようだ。魔王のさじ加減で決まる制限時間なのだが、もう少し待ってほしかった。
「ここまで来た褒美だ。特別に、貴様には我が術をくれてやろう」
魔王は俺でなく、ミノル君に向けて手をかざす。
すると、手の中から
ミノル君の鎧や剣がどんなに上等な代物でも、食らったら待ち受けているのは死のみ――そんな確信をしてしまうほどの絶望の塊が、ミノル君に向かって放たれようとしていた。
そのとき、ブシンという重たい風切り音が俺の耳の横を通り過ぎた。
次の瞬間、魔王が吹き飛んだ。
「な、なんだ……!」
「大丈夫!?」
心配の声と共に、ユイちゃんがうろたえている俺とミノル君に駆け寄ってきた。
その声に俺は水をかけられたかのように我に返り、ユイのほうを見た。
「い、今のは――」
どうやってあのあいつを吹き飛ばしたのか。聞こうとしたが、別の声によって遮られた。
「息災だな。小さき者どもよ」
絶望の声が、背後から聞こえてきた。
魔王は何事もなかったかのように、むしろ心底うんざりした眼をして、そこに立っていた。
ダメージを受けている様子はない。今の攻撃も、少しの時間稼ぎにしかならなかったのだ。
「何度も言っているだろう。新しいモノを見せろと」
新しいモノ――俺のスキルはどうやったらこいつに通じるのか、必死に考える。
〈召喚〉を瞬間移動代わりにして、ミノル君やユイちゃんを縦横無尽に移動させまくれば、奴の虚を突けるのでは……って、だめだろ。不意打ちだろうと攻撃に魔力が通ってたら無効化にされる。
バカでかいものを転移させて、あいつを潰すことはできるんじゃないか? 俺の触れた物で一番巨大な物……たとえばこの床自体を転移させてこいつを押しつぶすとか。……だめだ。この床にも魔力が通っていたら無効化にされる。魔法陣みたいなもんまで描かれてるんだから、ほぼ百パー魔力が通ってるだろうし。
何を召喚させようと、どれだけこいつの虚を突こうと、そこに魔力が通っていたら無条件で無効化にされてしまう。こいつ、ズルすぎないか?
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