第50話 我ら! “大師会”

扉を潜るとどこか粘ついたような、重々とした空気が私を包んだ。


「……あん?」

「ん〜?」

「へぇ」

「……」


すたすたと歩くローブ姿の私に視線を送ったのは4名の“大師会”メンバー。


彼らは部屋に入って来た私を値踏みするように見つめている。私が彼らを呼びつけた張本人だということはわかっているのだろう。大師会全員が揃ってるわけじゃないけど、半数以上はいるね。


よしよし。


……それではご紹介いたしましょう!!


これが聖竜教のイカれた幹部メンバー「大師会」だァァァ!!


トップバッター! 私から一番近い場所に座っております!


「想像通り、シャイみたいだね」


柔和な細目! メガネ属性! エロすぎる低音囁きボイス!!


女殴ってそうなランキング第1位!!


“牧師”クレオの登場だ〜〜っ!!!


あとロリコンです。


曲者だらけの大師会の相談役! 面接の時に自分で自分のこと潤滑油って言わない本物の潤滑油人間!!


ロリコンだけど。


しかも普通に手を出すタイプのガチ犯罪者ロリコンだけど。


……。


「え〜!? おにーさんローブとか着てるのめっちゃおもろいんだけど!?」


続いての挑戦者はこの男!!


明らかにサイズが大きいぶかぶか制服の萌え袖! 142cm! 10代特有のハスキーボイス! 金髪八重歯!!


性癖発表ドラゴン「性癖です」


えっ、こんな可愛い子が男なわけないだろ殺すぞって?


可愛い女の子が女の子なわけないだろ。


“荒法師”マドカちゃんの登壇だ〜〜!!


ちなみに上に着てる制服は士官学校に通ってたけど亡くなったお姉ちゃんのもので、お姉ちゃんを殺した(と本人は思っている)竜騎士に復讐するためにお姉ちゃんになりきって“聖竜教”に入団したとかいうクソ重過去を持ってたりします。


普通にごめん。


あとこの子も倫理観バグっちゃってるので普通に人コロコロしてます。


……。


「……変な奴がきたなぁ」


お次は溜息を吐いて憂鬱そうな顔をしている脱サラみたいなおっさん!!


“軍師” ジョニー! ! 渋カッコいい〜〜!!


さて、この人は一癖も二癖もありまして。


まぁ一言で言えばスパイなんだけど。


殿下やロッド様の祖国、フロイア王国で竜騎士団を率いていためちゃくちゃ腕利きの軍人さんだ。


“三聖”の一人でもある。


その目的は祖国への復讐ということで、原作では殿下やロッド様との旧知の仲ゆえのアツい戦いがあったりした後に、実は味方だったことが判明する胸熱展開だ。

くたびれた雰囲気も警戒されないためのもの。いいよね、そういうの。


まぁ原作知識持ってる私には全部バレちゃってんだけどね。


多分、この人じゃないかな。レイヴリーと共謀して私を消そうとしたのは。


今も私に対して興味ないふうに装っているけど、私の身のこなしとかそういうのをつぶさに観察してるんだろうな。すごいや、全然わからん。


スパイなのに最初から私に素性がバレてるとは。


こりゃすっぱい(失敗)。


なんつって笑。


……


…………。


さて、最後の1人は……。


……あれ、いない。


「……おい、お前!!」


と思ったら。


「強ぇんだろ!?」


天井に張り付いてました。


「喧嘩しようぜぇ!!」


“喧嘩師” カズミ。


喧嘩大好き少女が空の上から降ってきた!


私は身を逸らし、カズミの踵落としを避ける。


「それで躱したつもりかぁ!?」


と思ったら、なんとそのまま空中で体勢を変え、回し蹴りに移行してきた。


これは流石の私でも避けられまい……。


ということもなく。


「あぁ!?」


私はふわりと空中に浮かび、易々とカズミが放った蹴りの高さを飛び越えた。


「……どうなってんだ、よッ!!」


空中に浮かび上がった私に迫るカズミの正拳。


風を切るその拳は中々の勢いを持っているらしく、瞬きする間もなく私に迫る。


なので空中でその腕を絡め取りまして。


「あっ、あぁ!?」


こうして引き倒すわけです。


「がっ!!」


体勢を崩し、背中をしたたかに打ちつけたカズミが肺の中の息を吐き出す。


「……てめぇ」

『待った』


私は目に剣呑な輝きを灯して立ち上がる彼女を制止した。


『提案があるんだけど』

「……あぁ?」


カズミちゃんは怪訝な顔だ。


まぁそれも当然だろう。襲いかかった相手が怒るでも困惑するでもなく“提案”ときているのだから。


だけど、私にとっては“こういう”展開になるのは承知の上なのだ。


聖竜教は、実の所“力”を何よりも至上とする実力主義の組織。


多種多様な性格を持っているように見える彼らだが、その根底にあるのは弱肉強食の論理だ。


実質的なトップであるセテンハイムには私の力の一端を見せた。だがその下にいる私と会ったこともない大師会は納得できなかったんだろう。


私が本当に、話に聞くほど強いのかと。


『どうせなら、この場の全員でかかって来てよ』

「……あぁ!?」


ならばこちらもわかりやすい方法を取ろう。


学校襲撃や対抗戦の時のような勝手な行動を、二度と彼らに取らせないためにも。


まずは力の差を思い知らせなければならない。


「……本気ぃ?」

「あはは、面白いね」

「……はぁ。めんどくせぇ」


他の面々も、概ね了承といった所かな。


「……本気で言ってんのか、お前」

『あぁ、勿論、ハンデはつけるよ?』

「はぁ?」


怪訝そうな顔を向けてくるカズミちゃんは、一転して気の抜けたような表情になる。


「ハンデだぁ? んなもんに私がなんで従わなきゃなんねぇんだよ」

『あぁ、安心してよ』


私は、おそらくは見えていないだろうフードの奥の口元で笑った。


『ハンデを付けるのは私だから」

「……あ?」


『“この場から一歩でも動いたら私の負け”。これでどう?』


「……」


ピリ、という張り詰めた空気。


───!!!


4人が同時に繰り出して来た攻撃を、私は受け止めた。


『いいみたいだね』



初撃が防がれたとみると、4人はすぐさま陣形を組んだ。


カズミを前衛として、マドカとジョニーが中衛。クレオが後衛だ。


いい判断だ。各々の能力、その特性をよく理解している布陣だ。


聖竜教は原作じゃ敵側の組織だけど、実はけっこう結束が固い。社会から爪弾きにされた者同士の集まりだからね。通じ合うものもあるんだろう。


しかしそれぞれの能力の特性をよく理解していればそう怖いものじゃない。


まず叩くのは、マドカだ。


「!」


私は空中を掴むように宙に手を浮かした。


すると、その動きに連動するようにマドカの体が浮き上がる。


「えっ、何、こ──」


振り払った。


──!!!


「……」


マドカが壁に思い切り叩きつけられ、失神する。


ものの数秒の出来事。


「……マジかよ」

「うわぁ……」

「……」


……。


いやそんなドン引きした目で見ないでよ!!


仕方ないじゃん! こっちだってハンデ込みで結構不利背負ってんだからさ!!


そりゃ私は君たちのこと好きだけど! 好きだけどさぁ!!


……なんかゴメン。


「ふざけんじゃねぇ!!」


激昂したカズミが大地を蹴り、迫り来る。


「──」


同時に、背中に”瞬間移動“したジョニー。


さっきまでいた場所からジョニーが消えたことで、私の視界に入る“瞳”を輝かせたクレオ。


うん、すごい連携だ。


すごいんだけど──。


空に拳を形作る。


“空手”。


「がっ……!」

「ぐぅっ……!?」

「どぅへぇ!?」


空を飛ぶ拳が、周囲を薙ぎ払った。


いやほんまごめん! ほんまごめん!!


ドカドカ!!


大好きだよ! 潰すね!!


バキバキ!!


──!!


……そんなこんなで。


「あ、あ……」

「……うぇっ」

「(白目を剥いている)」

「……」


数分後。


私の周囲には、ピクピクと痙攣した4人が転がっていた。


……いや、本当はみんなにも見せ場とか作りたかったんだけどさ。


そのために下手に手抜いて負けたりしたら、意味ないじゃんっていうか。


とりあえず力の差を思い知らせるのが目的なんだから、マジレスして何もさせないのが一番じゃんっていうか。


メタ張るために編み出した新技を試してみたら、思ったよりも強かったっていうか。


……うん。


なんか、ごめんね。


……


…………。


「……あの、教祖様」

『……何かな。セテンハイム』

「意見するつもりはないのですが……」


数十分後。


セテンハイムのおっさんが会議室に来て、この惨状を見て一言。


「……もう少し、加減していただければと」

『すいませんでした』


私は腰を折って頭を深々と下げた。


おっしゃる通りでございます……。

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