第46話 この世界に必要な存在
「……」
あぁ。
ヤバい推しに話しかけられてるんですけど認知されちゃってるんですけどヤバい足震えてきたマジで無理なんか熱出てきた気もする。
落ち着こう。
すぅー……はぁー……。
推しと同じ空気を吸っている!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「おい、無視かよ?寂しいじゃねぇか。こっち向けよ」
あおォン!!
寂しがり殿下かわいいデスネ……もふもふしてあげたい……ネッ!!
ダメだキモさが天井突破してきた。
いや、状況的にかなりシリアス寄りなのはわかってる。わかってるんだよ!!けどさぁ!!!考えてみてほしいんだけどさぁ!!!!
自分が思春期の時に脳焼かれたキャラに警戒心MAXのめっちゃシリアスボイスで“こっち向けよ”って言われてんだよこっちは!!!!正体バレるとかぶっちゃけどうでもいいんだわ!!!!バラしとけそんなもん!!!
てかバラしたいんだよこっちは!!んで殺されたいの!!いっそ殺してくれよ……。
殺せ!!!!!
はぁ……。
落ち着けよ、私。
一番大事なのはことを忘れるな。そう、私自身の使命を忘れちゃいけない。
やるべきことを見失うな。わかってるよな?
良し!!
「私に何か御用でしょうか?カルヴァン殿下(暗黒微笑)」
終わった〜!!
黒幕系正体隠匿ロール入っちゃった!!あーあ!!
もうおしまい!!知らね〜〜!!!
「はっ、用ならあるに決まってんだろ。俺から逃げられると思ったのか?」
「逃げるわけないでしょう。あなたと会うのを待ってたんだから(暗黒微笑)」
おおおおぉぉぉぉ……。
口から勝手に台詞が出てくるぅぅぅぅ……。
赤面止まらんのやけどマジで。
「……随分肝が据わってんじゃねぇか。何が目的だ?」
「目的……ですか」
なんだよその台詞の“溜め”は。三点リーダーなんか使ってんじゃねぇぞ、私の分際で。
さっさと言えよ。
「平和……ですかね」
“溜め”いらんてマジで……。
ヤバい顔面掻きむしりたくなってきた。
「平和ぁ?そのために俺の弟も利用したのか?」
「さぁ……どうでしょう……」
はっやっくっ喋れよォォォォオオオオ〜〜〜〜!!!!
いっつもキモいんだよ!!!ボソボソ喋りやがってーーーッ!!
おばあちゃん家に泊まらせてもらってるのか!?
「お前がなんのつもりであのデカブツの後始末をしたのかは知らねぇけどな。あの皮被り野郎も、お前も……一応“竜騎士”の俺としちゃ見過ごせねぇんだよ」
「フフッ、面白いですね」
「……あ?」
「同胞を疑わぬその安直な姿勢が、ですよ」
ほらもうなんか意味わからんこと言ってるし。
「……どういう意味だ」
「言葉通りですよ。自分たちが絶対的に正義だと疑わないその傲慢さが、この事態を招いたのです。挙げ句の果てに自身の責を他者に押し付け正義の味方気取りです。“竜騎士”が聞いて呆れます」
こいつマジで黙って欲しいんだけど!!!
仕方ないだろ!私だってまさか竜騎士側にあんな奴いるなんて思わなかったんだから!!
ってかちょっと待って。これもうロールとかの範疇超えてねぇ??なんか身体が勝手に動き出してるんだけど。
《ポジティブ。現在、同志様の体を同期し、私が操作権限を獲得しています》
うわ出た!!
いやだから、君はなんなの……っていうか人の体勝手に乗っ取んなよ!!
《ネガティブ。危急の事態につき、思考体N……“事務的ロリボ”は、早急な対処が必要と判断しました》
……。
まぁ、色々と言いたいことはあるけど、それは一旦全部隅に置いておいて。
早く私の体を返して。言っとくけど、多分無理やり奪おうと思えば奪えるからね。
《ネガティブ。拒否します》
……この脳内で好き勝手喋ってくれてる“誰か”は、多分紅玉の竜の竜玉を取り込んだ影響で私の中に潜り込んだ。それは間違いない。
なんでそんなもんが潜んでるのかはわからないけど、今は私が取り込んだ竜玉のうち一部が反乱を起こして、私の体を乗っ取っている状況らしい。
だけど肉体の主導権はあくまで私にある。取り返そうと思えば今すぐに取り返せる。
こいつを“消す”という方法で。
《ネガティブ。拒否します》
いや、ダメだね。
脳内で喋るだけなら無害だから放っておいたけど、体を乗っ取り始めるならダメだ。私にとって有害だ。
《ネガティブ。思考体No.087に……私に、同志様への敵対意志はありません》
あろうがなかろうが、私の邪魔になるなら殺すしかないだろ。
そうしないと、私は───。
《ネガティブ。同志様、あなたは……》
《自分自身が犠牲になることで、この世界を救おうとしています》
……。
《同志様が仰るように、この世界はこのまま突き進んでいくと、世界大戦状態に突入します───“金剛の竜”による、人類側への壊滅的被害により》
……そうだ。
“五天災”、最後の一匹。
聖竜教が復活させる最強の竜。こいつは人類側の戦力を悉く蹴散らして、世界を一度滅ぼす。
滅んだ世界で、国同士は残った資源の奪い合いのために戦争状態となり……この学園の生徒同士が殺し合う。
だけど、多くの犠牲を出しながらも最終的には再び手を取り合って“金剛の竜”を倒し、ハッピーエンドを迎える。
それが“竜の角が散る頃に”のエンディング。
だけど私は……この世界が滅びる光景も、戦争も見たくない。
だから。
《自分自身が“最強の竜”となることで、悲劇を回避しようとした──それが同志様、あなたのお考えでした》
……よくわかってるじゃん。
私みたいなただのオタクの、馬鹿みたいな夢をさ。
《ネガティブ。私は同志様のお考えを、全面的に支持しております》
ははっ、そう、ありがとう。嘘でも嬉しいよ。
《ですが同志様。あなたの今の精神状態は、非常に危険です》
危険??
危険なことなんて何もない。私は至って冷静だ。
《ネガティブ。同志様、今のあなたの思考は──人間ではなく、竜に近いものになってます》
……。
竜に、近い?
《ポジティブ。立ち塞がるもの全てを敵と見做し、攻撃し、制圧する。それが竜の本能です。症状が進行すれば、暴力以外の解決手段を模索することがなくなります》
え……何それ、怖。
まるで今の私みたい。
《ポジティブ。今はとにかく、体を安静に──》
「おい、なにボーっとしてんだ」
──ブォッ
突き出された槍が、私の胴体に迫る。
《! 同志様……!》
「……お前」
私は、その槍を避けなかった。
槍は私の胴体を貫通して、背中から飛び出している。
「……弟の分は、これで勘弁してね」
私は、確かにロッド様を危険な目に遭わせた。その誹りは甘んじて受けるべきだ。
これは私なりの、そういう誠意なんだ。
「!」
私は地面を大きく蹴って、後ろ飛びに跳んだ。
そのまま、私は背を向けて走り出してその場を離れた。
「……」
殿下のなんとも言えない表情。
うーん、憂い顔もイケメンだなぁ……流石は私の人生を狂わせた男。
だけどやっぱり私は、この世界にいるべきじゃないのかもなぁ。
《同志様。たった今、確信しました》
風と化して、木々の間を抜けながら、私はひたすらにその場を離れた。
《やはりあなたは、この世界に必要な存在です》
離れて、離れて、離れていく。
全てを置き去りにして。
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