第28話 何やってんだお前
学術対抗戦。
“東軍”、“西軍”、“南軍”の3チームに分かれて行われるこの戦いでは、竜騎士の主戦場である空中でいかに高い機動力を見せられるかが鍵となる。
それだけでなく、有権者含む多くの観衆が詰め掛けるこの場で一躍活躍するということは所属する国家における政治的、経済的な優位を示すことにもなり──。
……まぁ要は勝ったらすごいってこったわな!
私は上空から、対抗戦が開催されている学園の演習場を眺めている。
なんでそんなことをしてるかって言ったら勿論皆の勇姿を撮るための最適な位置どりをしている……ってのはまぁ本音で、建前はクロネ嬢の無茶振りに答えるためだ。
“対抗戦に出ろ”とのお達しだが、そもそも騎士クラスの催しで私に出場資格はないしあったとして参加する気もない。なので丁重にお断りした結果言われたのが。
“あなたの秘密をバラしてもいいのかしら?”
……背筋が凍るとはまさにこのことか。実際びっくりしすぎて表情固まっちゃったもん。
“……表情を変えないのね、大したものだわ”
びっくりして反応できなかっただけですけどね。
いや、大丈夫。恐らくクロネ嬢が言う私の秘密というのは教団とか、竜への変身とかそういう類のものではないはずだ。だってそれらがバレてたら私は今頃騎士団に捕まってパトカーに載せられて容疑者Kになってるはずだ。
それを知っていた上で黙っている……というのは流石に考えないかな。
だってクロネ嬢視点からしたら私って正体を隠して仮にも悪の組織のボスっぽいことやってる滅茶苦茶な危険人物じゃん。そんな奴にわざわざ“お前の正体はお見通しだぜ”みたいなムーブしてみ? (命が)飛ぶぞ。
だから、多分見抜いていたとしても私が過去聖竜教の実験体になってたとか、その程度のことまでだと思う。そしてそうだとしてもバラされるのは確かにまずい。
だってそれが露見したら、ロッド様あたりの証言から芋づる式に私の竜バレルートに入りかねん。クロネ嬢の言う私の秘密がなんなのかは知らないが、あまり私にとってプラスになるものではないだろう。
なのでしばらくは彼女の言うことに従っておこうってワケ。あたしゃ女王様の元で馬車馬のように働く奴隷だよ……。
……はて、しかしこうして会場を眺めていてちょっと不審な点が見えてきた。
ロッド様がいない。どこにも。
原作じゃ東軍にノアたそ、西軍にロッド様、そして南軍にゼフィ様で三つ巴が繰り広げられる予定の対抗戦だ。そこの主役級が一人欠けているというのはこれ大事ですよ。ゼ○ガメが入ってないみたいなもんだからね。
開始時刻までもう1時間もない。これはもしかして欠席ってことになるのだろうか……。
「……おっ」
「すいません!遅れました!」
噂をすればだ。
すでに出場者が全員揃っていた広場に現れるちょっと気弱そうな王子様が漸く姿を現し……。
…… いや、違う。
誰だアレ。
◆
「王子様おっそ〜い!!」
「すみません。モモカさん」
“西軍”が集う場に、遅れて現れたアレクロッドを迎えたのは同級生である少女、モモカだ。
「しっかりしてよね〜!“西軍”のリーダーなんだから!王子様の指揮が悪かったら私も負けちゃうんだから!」
「え?僕がですか?」
「あったりまえじゃん!入試の成績2位だし!王子だし!」
「プレッシャーだね……」
「もう、王子様ってば相変わらず気弱なんだから!」
頬を膨らませて怒るモモカに、アレクロッドは苦い顔をして応じる。
「仕方ねぇよ。相手はあの“氷帝”に“魔女”だ。一筋縄じゃ行かねぇ」
「ジル……」
「けどまぁ、やれるだけやってみようぜ?ダメならダメでいいんだよ。お前は色々と気負いすぎる」
その場に新たに現れたのは熱を体現したような男、ジルクスだ。
「ちょっとジル君!ダメならいいって、全然良くないから!私はパパもママも見てる前で情けない所晒せないの!」
「そりゃお前の都合だろ。勝ちてぇのは誰だって同じだ」
「じゃあしっかりしてよね!こういうのは男子たちが頼りなんだから!」
むすっとした顔でその場を立ち去ったモモカに、ジルクスはやれやれと両手を振った。
「いつもはやる気なんか見せないくせになぁ?」
「あはは……」
アレクロッドは苦笑いをこぼすと、「じゃあ、行こうか」と踵を返して歩いていく。
「……そういや、ロッド」
「うん?」
「お前、なんか変わったか?」
ジルクスはそんなアレクロッドの後ろ姿に微かな違和感を覚えてそう言った。
ゆっくりと、アレクロッドが振り向く。
「別に。何も変わらないよ」
そこには、いつも通りの気弱で柔和な笑みが浮かんでいた。
◆
「ふむ……」
“騎竜”に跨り眼下の戦場を見下ろすルゼフィールは、僅かに思慮深げな息を漏らした。
「お嬢!なにか気になることでもありやしたか!?」
「特には」
「なるほど!特にはが気になるんですね!オイお前らァ!!今すぐ“特には”を調べ尽くせェ!!」
「うるさいぞ。アウン」
「うるさいぞお前ら!静かにしろォ!!」
ルゼフィールの右斜め後方にぴったりとくっついているのは、彼女の傍付きであり幼馴染の“アウン”だ。
ルゼフィールが彼女について評価する点は忠実さと、生真面目さと、声量と、馬鹿正直さ。
逆に評価しないのは“頭脳”である。
「敵を見据えておっただけじゃ。ほれ、あれを見よ」
「……素晴らしい空ですね!」
「その空に浮かんでおる敵軍よ」
「素晴らしい敵軍ですね!」
ゼフィが見据えるのは東軍。エレオノーアが率いる一群である。
「陣形に隙がない。まだ学生の身分でありながら、兵法にも長けておるようじゃ。真に驚くべきはその統率力……あるいはカリスマか」
対抗戦のチーム分けは当日まで秘匿され、その場で即興に組まれる。
ただでさえチームとして機能させることが難しいそれをまとめ上げるだけでも至難の業だ。
「あらかじめ組み分けを操作していた妾たちと遜色ない練度。驚異的と言うほかなかろう」
「……」
「そうじゃろう?フロナよ」
「……ええ」
「くくくっ、なんじゃ、浮かない顔じゃな」
ゼフィは左斜め後方に控えるフロナに笑いかけた。
「気に病む必要はないぞ?試されるのは“総合力”じゃ。実際、今までにもこのような細工をした者は大勢いた。それに目をつぶらせる“金”や“権力”すらも評価されるというだけのことじゃ」
“魔女”は目的のためなら手段を選ばない。
善悪の基準は結果を出せるか否かしかなく、本人もそれを自覚している所がタチが悪い。
(何も変わらないな、私)
フロナは、自分が相変わらず他人の言いなりになることしかできないことに苦笑した。
「……ケイさんは、どうしてるかな」
彼には何も言わずに来てしまった。今の自分を見たら……あの人はなんて言うんだろう。
……
…………。
「うーん……」
演習場“控室”。
「いないなぁ」
私は持ち前のステルス能力と移動能力で、隅から隅まで演習場を調べまわった。
ロッド様を探すために。
あの場に現れたロッド様は偽物だった。証拠や根拠なんてない。見ればわかる。
細かな仕草や声色、気配が違う。よく隠し通せているので親しい人でも見抜けないかもしれないが、逆にそれが演技くさい。本物ならあんなに“本物らしい”動きはしない。偽物だからこその再現度。
思うに、多分あいつの正体は“あのキャラ”だ。なんでロッド様に化けてんのかはわからんけど、彼女がここにいるんなら当然その所属している組織……“聖竜教”もここに来ていることになる。
釘を刺したばかりだと言うのにまーた王子を攫うような問題行動。一体どういうつもりなのかあのハゲに問い詰めんとね。
「……む」
“空気の層”を纏って姿を消す。
「──」
「───」
通路の先、曲がり角の向こうから話し声だ。
僅かに体を浮かし、足音を消して僅かな布ズレや息づかいの音も外に出さないように全身を空気の膜で包む。
角を曲がると、そこにいたのは二人の男。どちらも仮面をかぶっている。
「……了承した。では王子に危害は加えていないわけだな?」
「あぁ。あくまで眠ってもらっているだけだ」
ビンゴ。
王子ってのはロッド様のことだろうね。こいつらが黒幕か。
「“隠匿師”がしくじったらどうするつもりだ?」
「その時は始末すればいい。目的はあくまで“透明な男”だ」
……?
透明な男?なんだそりゃ。
人間が透明になんかなれるわけないのに。
「そうだね。そろそろ拝みたいものだよ」
……と、なんと好都合なことに二人のうち一人が仮面を外しやがった。
油断したね。じゃあそのご尊顔をゆっくり拝見してやると……え。
「“翡翠の竜”の素顔ってやつを」
……???
何やってるんですか、副団長殿。
私は仮面の奥から出てきた……レイヴリーの顔を見て固まったのだった。
え、マジで何やってんの。
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