第17話 100年ニートにゃ負けん
まったくもー。
全っ然作戦と違うじゃん!祭り氏ぃ〜?私が間一髪で間に合わなきゃ殿下が死ぬとこだったんだが??「失敗しました」じゃ許されへんからな。
ちゃんと“誰も殺さない”ことは言い含めておいたんだから。
「……翡翠の竜だと」
突然現れた私に、“祭り師”こと祭り氏は焼け爛れた顔面を驚愕の色に染めていた。
なぁーにそんなアホ面……アホ面?ミイラ面?晒してんだかこのバカタレは。いや、てかマジで何その顔コワ。出るゲーム間違えてない?R-18指定入る顔面だよそれは。
大体、祭り氏がぶーちゃんとか出すせいで私が干渉するハメになったんだからな!そんな“誰だこいつ”みたいな目で見られる筋合いはないよ。反省してもろて。そもそも、ぶーちゃんって本来聖竜教のアジトのいっちばん警備厳しい所に封印されてるはずの裏ボスでしょーが。なんでアンタが連れてきてんねん。原作レイプもええ加減にせえよ!
原作にいない竜が出てくるなんて言語道断なんだからな!
……ちなみに“翡翠の竜”とかいうのはオリキャラです。そもそも“五天災”とかいう名称は原作に出てきません。ガッデム。
皮肉なもんだな。一番嫌いだった存在にいつの間にかなっちまってたなんて、さ……。
「え……翡翠の竜って……!」
「……こいつが、あの」
アッ!!殿下だけじゃなくノアたそにロッド様!!ご機嫌麗しゅう。よいお天気ですね。ってか祭り氏この二人も巻き込んでたのよ!どんだけ私の地雷原の上でタップダンス踊れば気が済むんだこいつは。
しかし、それはそれとしてこの二人が一緒にいるってだけでもう、さ。私の色んな感情が湯水のように溢れてきて湿度が上がっちゃうのよ。どうか仲良くしていただきたい。原作じゃ後半ずーっとギスギスしてたんだもん。お母ちゃんハラハラしながら見てたよ?
だが今は私がいる。こちとら必要とあらば恋のキューピットとかもやる竜なんでね。ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!
「──!!」
そんでもって、はい出ました、ぶーちゃんこと“紅玉の竜”。めちゃくちゃ私に威嚇してきてますね。こちら原作プレイ時間四桁だが貴様は?(威嚇)
ぶーちゃんはシルエットが豚すぎるのでこんな不名誉な呼び名を付けられてしまっているが、裏ボスとしてはちょうどいい塩梅の難易度のボスキャラで他のボス竜に比べて地味めではあるけど愛されキャラ。
だけどやっぱ現実になると印象違うね。迫力満点だぁ〜。今は風バリアーで守ってるこの炎も、確か設定上“鉄も融かす”とかいう温度だったはずだ。
それ1000℃とか余裕で超えてるけど大丈夫そ?初期のポ○モンの図鑑説明みたいなノリで設定決めてない?インド象に世界観壊されるハメにならないことを祈ろう。
「紅玉の竜!お前の方が生きてる年数は多いんだ!!そんな雑魚は蹴散らせ!!」
そんなぶーちゃんの後ろで偉そうに指示コメ飛ばしてる祭り氏が、私のことを指差してなにか怒鳴り散らしてる。
一方ぶーちゃんは指示厨と化した祭り氏のことも普通に炎に巻き込んでるのウケる。祭り氏バッジ足りてないんじゃない?
……さて、真面目にやろうか。
私の翼が、ばさりとはためいた。
“旋風”。
暴風と轟音、視界を遮るほどの突風が吹き荒れた。
「……は?」
そして視界が晴れると、周囲で燃え盛っていた炎は全て消え去っている。
代わりにあるのは、くり抜かれたように“旋風”の攻撃範囲だけが消え去った地形だけだ。
モチのロン、やったのは私だ。これでも建物への被害は最小限に留めた。竜騎士学園を無闇に傷つけるわけにはいかないもんで。
ただ、今だけはちょーっと本気を出して“こいつら”を懲らしめなきゃいかん。
地面を蹴り、音を置き去りにしながら真っ直ぐ前方へと飛び上がった。
「──」
そうして500mほど移動した先に、ピンク色の肉の塊がぶよぶよと蠢いていた。紅玉の竜……の再生途中の肉体だ。
そこに再び“旋風”を繰り出して、ぶーちゃんを吹き飛ばす。
しかし相手は竜だ。ぶーちゃんはその炎と一瞬で体を再生する再生力。そしてゲーム上では特に高い体力が大きな特徴だった。これを再現してるなら例えサイコロステーキにされてもすぐに復活する。竜玉を壊されない限りはね。
だったら数撃ちゃ当たる理論で肉体を細切れにし続けるしかあるまい。
二度の“旋風”で剥き出しになった竜玉を掴み、体ごと反転して投げ飛ばす。
つまり元いた場所に帰ってくるわけだが、ぶーちゃんはその途中でも肉体を頭部だけ再生させて、炎のブレスをお見舞いしてきた。
だがそれは私が纏っている風の結界に触れて消え去った。私の防御を破るには少々火力が足りないようだ。
ちょっと鉄を溶かせるだけの炎じゃあ、私の風は突破できない。
「ぐっ……!?クソッ、何が起きてんだ……!」
再び最初の場所に戻ってきた私と、頭だけになったぶーちゃんを見て祭り氏は歯を食いしばっていた。
「おい!紅玉の竜!何やってんだ!?さっさとあんな奴殺せ!!」
「──!!」
祭り氏めっちゃキレてておもろいが、ぶーちゃんに私を殺せと命令するのはちょっと酷な話なんだよな。
なんでかって言うと、私とぶーちゃんの間には“竜”として埋めがたい実力差が開いてしまっているからだ。
“知能”の差もあるけど竜の強さってのはもっとわかりやすくて、長く生きてる竜ほど強い。何故なら竜玉をたくさん取り込んでいるから。
ぶーちゃんはおおよそ100年前から生きている竜だ。当時は人間の国を一晩で炎の海に沈めたために、“天災”として紆余曲折を経て聖竜教の施設で封印されることになったわけ。
つまりどういうことかと言うと、ぶーちゃんは100年前の時点で成長が止まっているのだ。生きた年数に見合っただけの竜玉を取り込めていない。それでも人の手には余るくらい強いんだけどね。
一方の私は、生まれてから15年程度のぺーぺー。だけど積極的に竜狩りをしてきたおかげで、取り込んだ竜の数だけなら100年間ニートしてたぶーちゃんに負けないくらいの数になっている。
っていうか多分、比較にならない。
千や二千じゃ利かないくらい私は殺しまくってきたんだから。
フリーザ編のクリリンとフリーザくらいは開いてるんじゃないかな。
「──!!」
だけどわかってるよー。ぶーちゃんは向かってくるよね。
頭だけじゃなく、体全体があっという間に再生したぶーちゃんがすごい形相で私を睨みつけてきている。体格は私より遥かに大きいけど、小柄な私を最大限警戒しているようにジリジリと動いている。
何気にこれはすごいことだ。竜ってマジで頭空っぽだから実力差とか相性とか何も考えず突っ込んでくるからね。獣同然というか獣以下の知性。だけどぶーちゃんは無策に攻撃しても私を倒せないことがわかっている。
さて、どうくるかな。
「──」
……なるほどね。
紅玉の竜が踵を返し、巨体を揺らして猛然と走り出した。
向かう先には──風の膜に囲まれた3人の“推し”。
残念。それは不正解だ。
私は空に飛び上がり、上空からぶーちゃんを見下ろす。
翼に風を纏わせて、鎧のように纏う。そこまま上体を逆さまに向けての錐揉み降下。側から見れば今の私の姿は、まるで一丸の砲弾だ。
”風来砲“。
「───!!!」
爆音と共に、音速を超える体当たりがぶーちゃんに直撃。
その衝撃で、巨体が全て爆発四散するほどの突風が吹き荒れる。
その場に残ったのは私と、三人と、巨大なクレーターだけだった。
そして私の顎門には、ぶーちゃんの”竜玉“が咥えられていた。流石にもうガス欠らしい。
「……なんなんだよ」
戦いの結末を見て、祭り氏がふらふらと倒れた。
「……どこが”同格“なんだよ」
その言葉を最後に……彼は動かなくなった。
”竜人“。
彼は自分の心臓に、紅玉の竜の竜玉を一部移植した。その結果肉体が再生する超人と化したのだが。
その命は紅玉の竜と運命を共にする。紅玉の竜の敗北は彼の敗北だ。
……いや、別にぶーちゃん死んでないけどね。
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