第3話 竜になったら殺される!

この世界では竜ってのは存在が罪。絶対悪だ。


当たり前だよね。あんなキモい見た目で人里襲うモンスターが好感持たれるはずもないし。一方でそれを狩る竜騎士の人気ってのは凄まじい。それこそ、竜騎士ってだけで無条件で信奉されて民から支持されるくらいにね。


そんなわけで……。


「う〜ん……」


竜になってしまった私って、多分殺されるんだよなぁ……。


人が入った痕跡がない小さな洞窟で、私は水面の鏡に映った自分の姿を見て唸っていた。

白い髪に赤い目。これは原作でも見られた竜化実験の副作用。知らないのは頭の上から生える竜角だ。こんなもん生やしてたら「ワイは竜でっせ〜!」と喧伝するようなモン。人目の付くところに行けば即処刑コース。


いや、どうなんだろうなぁ。原作じゃ竜になった人間なんていなかったから、竜騎士側の対応が見えない。案外見逃されるってこともあるのか?いや、そもそもあの実験自体が竜騎士と繋がってる後ろ暗いものだったから、その被験者ってだけで始末対象か。


竜になった後、ノアたそを家に送り届けた後急いでここに隠れたわけだけど、朝目が覚めたら私は一部を除いて人の姿に戻っていた。

時間経過で竜化が解除される?いや、詳細な条件が知りたい。人間に戻れたと言っても、頭から生えるこのツノを見る限りまだ私の中に竜の血は残っていると考えるべきだ。


だとすればまずやるべきことは竜化するトリガーは何なのかを探って、解除条件も探って、竜化のデメリットがないのかも調べて、んで最終的にこのツノが取れないか試す。角さえなければ私はただのアルビノショタだからね。人の世界に戻れる可能性が出てくる。


……何より竜になれるってちょっとワクワクせん?私はする。


ってことで実験開始〜。



試行錯誤により、いくつかわかったことがある。


まず竜になる条件。発生トリガーだ。こういう変身系の作品でよくやるようなことは一通り試した。“竜になれ!”って心の中で叫ぶとか、手を噛みちぎるとか、怒りで限界を越えるとか。ただそのどれも竜化のきっかけにはならなかった。


どうしたもんかなーと思って私の頭の上に生えた竜角をさすさすと弄っていると。


ポキッ。


ギャオォォォン!!


……ってな感じで竜に変身してしまいました。


“竜角を折る”。それが竜の変身トリガーみたいだ。なるほどな。これが『竜の角が散るころに」のタイトル回収ってわけだ。まさか転生して初めて気づくとは。

冗談はさておき、これはちょっと困った仕様でもある。なにせこの竜角さん、死ぬほど脆い。マジでポッ○ー感覚で折れる。別に私は折る気なかったのにイッちゃったもん。この脆さだと転んだ拍子に竜に変身とかし兼ねない。一昔前くしゃみしたら変身の方がまだ画期的まである。


戻る方法も現状時間経過以外の方法が見つかっていない。もう一度ツノを折ればいいのかと思ったら今度はカッチカッチでビクともしない。無理やりやったらそのまま脳天ごとぶちまけそうなくらいの毛根の強さだ。


竜化時間は体感で1時間程度。それを越えると体が縮んでいって元に戻る。こういう変身系だと中に人間の体が丸々残ってるタイプもあるけど、これは私の体自体が竜に変わってるっぽいね。変身する時、皮膚がバリバリ裂けて竜になるし。痛くはないのが不思議だけど。


竜化中のスペックとしては、まず空が飛べる。これは最初に竜化した時点でもできてた事だけど、感覚としては肩甲骨からそのまま翼が生えてる感じで、肩を前後にうまーく動かすことで空が飛べる。思えば私は空飛ぶの初めてだったのに、ずっとやってきたみたいに自然に翼が動かせた。私の中にある竜の血がそうさせたのかもしれんね。


そして巨体に見合った腕力の底上げ。岩石くらいならパンチで破壊できるくらいの威力だ。力 is パワー。やっぱ筋力ビルドが最強なんすワ……。


以上が現在確認できてるスペックだけど、もしかしたらもっと色んなことが出来るのかもしれない。それこそ火吹いたりとか。やり方わかんないからやってないけどさ。


そして肝心なのが、竜化のデメリット。


まずは私の体そのものが竜になる都合上、服がブチブチ破けちゃいます。そして変身解除後はすっぽんぽんだ。高い服とか思い出の服着てる時にうっかりツノ折っちゃったら悲しい気分になるので注意しよう。

あと、竜化後に強めの疲労感でしばらく動けなくなる。まぁこの辺りは王道だね。むしろこれくらいの反動で済むなら全然マシだ。

後と、この手の変身は理性失って暴走とかしがちだけど、今んとこはそんな事もない。謎の頭痛が襲ってきたり意識を乗っ取られるようなこともなく、元気にやっていけてる。


そう。総じて竜化のリスクはそんなに高くないと言える。ほぼリスクなしでこの力が使えるのはハッキリ言ってチート級。でも、だからこそ怖いんだよね。

だってあんな無茶苦茶な実験で竜になったんだよ?体になんの不調もないわけがなくない?いっそこれっていうリスクがはっきりわかった方がまだ安心できたよ。


いつか、今までの皺寄せみたいにとんでもない反動が来なきゃいいけど……って、フラグじゃないからね別に。


さて、まだ竜化解除まで少し時間あるし、その間外で飛行練習でもしてこようかな。


──!!!


……うん?


なんか今、変な声みたいなの聞こえたな。


……いや違う、これって。


「──!!」


竜じゃねーか!!

私は慌てて洞窟から飛び立ち、外に出た。


「──」


空を飛ぶ私の前に現れたのは、私より一回り体格が大きい竜だ。


背中から翼が生えてる私とは違い、前足がそのまま翼となって、鍵爪のような後ろ足をこちらに向けてきている。竜というよりは鳥に近いフォルムだ。だけどその生物なのか疑わしい異質感は間違いなくこの世界の竜だ。


「──!!」


そんでもって、向こうはやる気満々らしい。縄張り争いか?もしかしてこの辺りは元々君の棲家だったのかな?

だとしたら申し訳ない……とでも言うと思ったか?受けて立とうじゃないか。こっちだって竜のせいで色々大変な目に遭ってんだ。八つ当たりに付き合ってもらおう。この最強の竜爪で八つ裂きにしてやんよ。


と、戦闘態勢に入った私に相手の竜は翼をはげしくはためかせ、かまいたちのような風の刃をこちらに飛ばしてきた。飛び道具撃てんのかよ!ずる!


私は咄嗟に身を捩って刃を回避する。


「──!!」


そうして体勢を崩した私に、竜鳥は高速で突っ込んできた!


……だけど。


(よっ、と)

「!?」


体勢を崩したように見えたのは演技だ。わざと大袈裟に避けただけ。


私が戦い慣れてないと思い込んで軽率な行動を誘うつもりだったが、こんなに上手くいくとは。


(ガブリ)

「──!!」


突っ込んできた竜鳥を受け止め、そのまま首筋に噛み付く。


噛みつかれた竜鳥が絶叫し、翼をバサバサ、後ろ足をめちゃくちゃに振り回して抵抗する。だけど体勢的に、竜鳥の牙も爪も私には届かない。柔道で言うマウントを取ったような状態だ。

最初はバッサバッサと翼を動かして抵抗していた竜鳥の体から段々力が抜けていく。そして、ついに暴れることを諦めたのかぐったりと脱力し、その後ビクビクと痙攣し始めた。


戦闘開始から約5分後。竜鳥は動かなくなった。たいありでした。


早速洞窟に持っていこうかな……ってヤバ。体縮み始めた。そろそろ限界っぽいな。


洞窟の中に戻ると同時に、私の体は縮んで素っ裸の美少年と仕留めた竜鳥だけがそこに残った。

あっけない戦いの結末だったが、人間対竜ならともかく竜対竜だからね。竜ってのは知能がそこまで高くない。何度も戦いを重ねて経験を積んだ個体ならともかく、通常種だったら人間の頭脳を持ってる私の方がずっと有利だ。


昔サバンナの狩りをテレビで見てて良かったよ。まさかあれを実践することになろうとは。


さて、なんでわざわざこいつを洞窟の中に運び込んだのか?その理由は……いよいしょっと。爪で腹を掻っ捌いて……意外と肉は簡単に裂けるな。設定上は食べれるらしいけども。うわグロ。ちゃんと内蔵とかあんのか。原作じゃそこまで描写できないからな〜。


「おっ、あった」


肉と骨と内臓とを掻き分けて、私は竜鳥の死体の中から一つの“玉”を取り出した。

これこそが“竜玉”と呼ばれる、竜の心臓のようなものだ。この竜玉には竜のエネルギーが詰まっていて、様々な用途に使えるんだけど……竜である私にとっては少々違う意味がある。


「あ〜ん」


私ははしたなく大口を開けて、その中に竜玉を放り込んで……食べた。


「んっ、硬い」


そのまま飲み込んだら窒息しそうなのでバリボリと飴玉を噛み砕くように竜玉を口の中で砕いていく。石をそのまま食べているかのような硬さだが、竜になって顎も強化されたのか意外と苦もなく咀嚼できる。


「……むっ」


噛み砕いた竜玉を飲み込むと、体の中で何かが沸騰するような“熱”を感じた。だけどそれは一瞬で治って、次に身体中に活力が湧いてくる。

へー、なるほど。竜玉を取り込んだ時ってこうなるんだ。こういう描写されない所まで細かくわかるのが異世界転生の良いところだね。


「さてと……」


私は人差し指を立てて、そこに体に漲った“力”を集中させた。


「よいしょっ……おぉっ」


そしてその力を解き放つと、軽い“旋風”が吹いた。さっきの竜鳥が持っていた能力だ。


そう、竜は竜玉を取り込むことで成長する。だから戦いを積んだ個体ってのは強い。たくさん竜玉を取り込んでるからね。

そして竜玉を取り込むことで、取り込んだ竜が持っていた能力なんかを奪うことが出来るわけだ。最初は弱いけど、使い続けていけばやがて慣れて、オリジナル以上に使いこなせるようになる。


そして竜玉を取り込むと、竜の死体のほうはシュウシュウと音を立てて溶けていく。竜玉というエネルギーの源泉を絶たれた肉体はこうして溶けてしまう。後に残るのはわずかな血液と骨のみで、それもすぐにボロボロと崩れていく。

ただの設定としか思ってなかったけど、この生態は実際体験してみると後片付けの必要がなくて良いね。エコだ。


私の考えはこうだ。


こうして襲ってきた竜を返り討ちにしていれば、様々な能力が使えるようになる。そしてそれとは別に、原作中に“自分の姿を変える”って能力を持った竜が出てきたことがあるんだよね。

なら、同じような能力を持った竜を倒して、その竜玉を取り込めば……私の自己主張が激しいツノも隠せるようになるんじゃない?っていう目論見。


つまり私が今からやるのは、姿を変える能力を持った竜を探して旅をすることだ。


原作開始時点の10年後までにはなんとか見つけ出しておきたい。そのついでに原作中に出てきた色んなイベントもこの目で確認していきたいしね〜。


ってことで早速しゅっぱ〜つ!の前に……。


体が竜くせぇから水浴びだけしとこ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る